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アサガオ(二千字)(夏ホラ)

「では次にワガハイの天才的音楽的才能を示す一つの例として、ワガハイがラッパッパアー国へ行った時の話をするとしようかのう。

 ラッパッパアー国は熱帯地方の小さな島国で、ワガハイが大海原を航海中に偶然たどり着いた国なのじゃ。もちろん島の連中がワガハイを大いに歓迎してくれたのは言うまでもない事であるぞ。


 ワガハイはラッパッパアー国王の宮殿に招かれて、実に手厚く持て成された。そんな扱いには充分慣れているワガハイではあったが、さすがに航海の疲れがたまっていたらしく、歓迎の宴はほどほどの所で切り上げて、揺れないベッドの上に横になるや、一気に眠りに落ちてしまったのじゃ。


 さて次の朝、心地好い眠りから目覚めたワガハイはすぐさまベッドから飛び起きた。早起きは三文の徳、なんだ三文くらいと馬鹿にしてはいけない。三文を笑う者は三文に泣くのじゃ。ワガハイは身支度を整え、召使いの制止を振り切って外に出ると、ぶらぶらと朝の庭園を散歩し始めた。


 その時ワガハイは実に驚いた。滅多な事では驚かぬワガハイもこれには驚いた。何に驚いたかって、決まっておるじゃろう、アサガオじゃ。なんと、その庭に咲いておったアサガオは直径一メートルはあろうかと思われるほどの超巨大アサガオじゃった。それが一つではない、あっちにもこっちにもボンボン咲いておる。


 ワガハイは最初あきれた顔でこの無遠慮に大きいアサガオどもを眺めておったが、ふと、妙案がひらめいた。さっそくワガハイの船へ引き返し、管楽器のマウスピースを幾つか取り出すと、再び宮殿の庭へと舞い戻った。そして大きなアサガオの花の一つを両手でへし折り、その根元にマウスピースをねじこむと、口に当てて思い切り吹いてみた。


『ブオーーン』


 これはいけるとワガハイは思った。こうなったら実行あるのみ、ワガハイは様々な大きさのアサガオを次々にへし折り、手当たり次第に吹いてみた。


『パラッパアー、プワアアー、ププププププ、ブィ、』


 さてここからがワガハイの天才的音楽的才能の見せどころじゃ。ワガハイは多量のアサガオの中から四つのアサガオを選び出し、それぞれにマウスピースを取り付けた。


 やたらと長くてでかいアサガオ、これはチューバじゃ。

 次に長くて大きいもの、これはホルン。

 手頃な大きさのアサガオ、これにはゴムホースを付けてトロンボーンとしよう。

 最後に一番小さいのはトランペットじゃ。


 こうして四つの管楽器が出来上がった。となると四人の奏者が必要だ、などと考えるのは素人の浅はかさ。ワガハイならば簡単に一人で演奏できるのじゃ。すなわち、


 チューバはお尻に、

 ホルンは口に、

 トロンボーンは左の鼻の穴に、

 トランペットは右の鼻の穴に、


 それぞれ当てがった。さあ、では吹いてみるとするか。


『ブワン ブオン ブッ ブッ』 これはおしりのチューバ。

『プワー プオー ポワー ポオー』 口のホルン。

『プパポー ボバブー プポパー ボブバー』 左の鼻の穴のトロンボーン。

『パパラパラパパパ ラパッラパッパア』 右の鼻の穴のトランペット。


 ワガハイが操る四つのアサガオから出る音色は、実に素晴らしいハーモニーを奏で始めた。それもそのはず、ワガハイの様な天才的音楽的才能の持ち主は世界に四人もおらぬからじゃ。

 ワガハイはワガハイ作曲の『四つの管楽のための夏の朝の幻想曲』を吹き続けた。吹き続けた。そして吹き終わった。不意に割れんばかりの拍手。見回せばワガハイの周りには宮殿の住人が座り込んでおる。ワガハイは実に満足であった。

 すると、ラッパッパアー国の王がワガハイの近くに歩み寄り、その演奏を今日の夕べにもう一度行なって欲しいと言うのじゃ。娯楽の少ないこの国の住人にも聞かせてやりたいと言うのじゃな。もちろんワガハイは快諾した。


 さてその日の夕暮れ、ワガハイを取り巻く人間は大変な数にのぼっていた。とにかく島に収まり切れずに、海の中にまで人込みは続いており、さらにその向こうにはおびただしい数の大型船が、水平線の彼方まで埋めつくしておる。

 この光景を見てワガハイは大いに満足であった。さっそくワガハイ作曲の『豚イノシシと人喰い虎の狂想曲』を吹き始めた。素晴らしい演奏じゃ。あまりの素晴らしさに失神してしまった住民は数知れずじゃ。

 ところがじゃ。第一楽章が終わった時、急に音が出にくくなってきた。ワガハイは焦った。海を見ると太陽が沈もうとしておる。そうじゃ、ワガハイは、はたと気がついた。これはアサガオじゃった。昼間にしか開かぬ運命の花じゃ。すっかり忘れておったわい。太陽が完全に沈んだら、アサガオは完全にしぼみ、もう演奏は不可能となるじゃろう。どうする、どうすればいい!


 ワガハイは仕方なく演奏のペースを通常の八倍にして演奏した。大変なペースアップじゃが、演奏が途中で終わるよりもよっぽどいい。ところが面白い事に急に早くなったペースに聴衆はますます熱狂し始め、自分で海に飛び込んだり、船同士がぶつかったりし始めた。

 これはいかん、早く演奏を終えなければ大変なことになる。ワガハイはますますペースを上げた。すると聴衆の熱狂はますます高まり、こうして太陽が沈む前に無事演奏を終わった時には、陸地にいた聴衆の大部分は心不全で他界し、沖に浮かんでいた聴衆は、船もろとも海中に沈んでしまっておった。


 次の日の朝、激減した島民に見送られ、ワガハイは再び海に出た。ワガハイの天才的音楽的才能が、またも多くの人を不幸にしてしまったことを嘆きながらのう。

 何? そのアサガオは持って来なかったのかって? 出来なかったのじゃ。超巨大アサガオをせめて一輪でも持って帰りたかったのじゃが、植木鉢に植え込むと重さが一トンを越えてしまうので、諦めざるを得なかったのじゃ。


 ん? 何を笑っておる。うまく言い逃れをしたじゃと、とんでもない、アサガオは持って来られなかったが、その代わりにアサガオの種を持って来たのじゃ、ちょっと待っておれ、ゴソゴソ、ほれこれじゃ。

 何? ふつうのアサガオの種と変わらないじゃと。それは仕方ないのじゃよ、夜には弱いアサガオの種じゃからな。今は夜じゃろう、だから種もしぼんでおるのじゃよ。もっともこの種を夜以外の時間に、人に見せたことは一度もないのじゃがな。ワッハッハッハッ」



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