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彼女は便器 おまけ編(四千字)(コメディ)

 


 こうして一学期が過ぎていき、夏休みが近付いてきました。今日は待ちに待った新居へのお引越しの日です。お父様の話では、外観は昭和風にして、とことんみすぼらしく、貧乏臭くしたとのことでした。

 荷物は既に運び込まれ、電気、ガスなどの開始手続きも終了し、いつでも住める状態になっています。ボクは執事の運転する車に乗り、身一つで新居に向かいました。と、家の前に誰かが立っています。車が止まる前に、それが誰か分かりました。


「先生、快丁斎かいちょうさい先生!」

「おお、元気そうじゃのう」


 新居の前に立っていたのは、あの不思議便器の生みの親、御通寺快丁斎先生でした。驚きました。先生が工房から出ることは滅多になかったからです。


「今日は、ボクの引っ越し祝いに、わざわざ足を運んでくださったのですか」

「うむ、それもあるが、おっと、執事君。車はそのままにしておいてくれ。帰りは君に乗せて行ってもらいたいからのう」


 ボクは執事にしばらく待っているように言いました。それから貰ったばかりの新居の鍵を使って、先生と一緒に中へ入りました。


「ほほう、外観の質素さとは裏腹に、内装は立派じゃな」

「あ、はい。人も家も外面より内面重視がうちのモットーですから」

「ふむ、これならあそこもさぞかし立派じゃろう」

「あそこ、ですか?」


 先生は廊下の端にある扉を指差しています。おトイレの入り口です。まさか……ボクは先生の顔を見ました。無言で頷く先生。居ても立ってもいられず走り出すボク。扉を開け、そこに広がる光景に歓声をあげてしまいました。


「べ、便器ちゃん!」


 そうです。ボクの彼女、そしてボクを命がけで救ってくれた桜色の便器がそこにあったのです。


「先生、これは、また新しく作ってくださったのですか?」

「いいや、あのような傑作、わしでも二度と作ることは敵わぬ。継いだのじゃよ。漆と金を使ってのう」

「継いだ……修復してくださったのですね」


 欠けたり割れたりした陶器を修復することを、継ぐ、と言います。昔の銘品の中には継がれた状態で今に伝わっている物も沢山あります。

 ボクは便器を覗き込みました。ひび割れて欠けた部分には金色の筋が走って、元通りに成形されています。


「これを成し得たのはわし一人の力ではない。便器という性質上、耐久性と防水性が要求されるため、現代のハイテク技術にも力を貸してもらった。以前より機能を追加し、超高水圧状態でもかなりの時間耐えられる仕様になっておる」


 どうやら攻撃力と防御力のレベルが以前よりアップしている様子です。けれども、ボクの興味はそんなことではありません。


「それで、彼女は……便器の女神様は、まだ此処におられるのでしょうか」

「ふむ。それは自分で確かめてみるがよかろう」


 先生は優しい眼差しで便器を、そしてボクを見詰めています。ボクはそっと、囁くにように声を掛けました。


「あ、あの、便器ちゃん、こんにちは。お元気ですか?」

「元気に決まってるでしょ」


 飛び上がりたくなるくらい嬉しくなりました。居たのです。彼女はまだこの便器に居てくれたのです。

 先生は便器の声を聞いて大きく頷くとおトイレを出て行かれました。これだけを確認したかったようです。

 しばらくして車のエンジン音が聞こえてきました。そして遠ざかっていきます。

 この家にはボクら二人きりです。ボクは改めて話し掛けます。


「よかった。君はてっきり消えてしまったかと思っていたんだ」

「ふん、そう簡単に消えてたまるもんですか。まあ、実際のところ、かなりヤバかったんだけど、あの陶芸爺さんの神業があたしを便器に引き留めたのよ。お礼はあの爺さんに言いなさい」


 御通寺快丁斎先生、やはり只者ではなかったようです。先生の類まれなる技量に感服するばかりです。


「ねえ、それよりも、あんた、あたしに何をしてくれるの?」

「えっ、どういうこと」

「どういうことじゃないでしょ。さんざんあたしを疑って、馬鹿にして、無視して、助けられて、その挙句にあたしを壊してしまったのよ。それだけの事をしておきながら、ごめんなさい、ありがとうの二言で済まそうと思っているわけじゃないでしょうね」

「え、いや、それはもちろん、お礼はしたいけど、具体的に何をすればいいのかな」

「そうねえ……」


 便器が黙りました。こういう時は何かとんでもない要求が来るのは目に見えています。ボクは固唾を飲んで次の言葉を待ちました。


「お舐め!」

「えっ、な、舐めるって、どこを?」

「決まってるでしょ。あたしをよ。便器をよ」


 いくらなんでもそれは抵抗あり過ぎです。便器は舐めるものじゃありません。


「いや、待って。それは無理だよ」

「何? 汚いとでも言うの。冗談じゃないわよ。まだ、誰も使っていないのよ。新品なのよ。言わば、あたしの初めてをあんたにあげるって言っているのよ。舐めるくらいなんてことないじゃない。自分の指を舐めるより、よっぽど清潔のはずよ」

「で、でも」

「ああ、そう。じゃあ、あたしはあんたを赦さない。永遠に恨んでやる。口も二度と利いてあげない。困った時も絶対に助けない。それでいいのね」


 それは困ります。ボクは迷いました。けれども彼女の言葉ももっともでした。お金には換算できないくらいの恩を受けているのです。これくらいの要求ならば、甘んじて受けるべきでしょう。

 ボクは決心すると、便器の中に顔を突っ込みました。舌を出し、ゆっくりとそして丁寧に、金と漆で継がれた彼女の部分を舐め上げました。


「あんっ!」


 心なしか便器が揺れたようでした。桜色の陶器の肌も、幾分熱を帯びたような気がします。


「あ、あんた、私の一番弱い部分を舐めるなんて、いい度胸してるじゃない」


 弱い部分? どうやら継がれた場所は彼女の急所だったようです。ボクはからかい気味に言ってやりました。


「ははあ、つまりあそこは君の弱点なんだね。そこを舐められて変な声を出しちゃったってことは、もしかしたら、気持ち良かったのかな?」

「バ、バカ言わないでよ。べ、別にあんたに舐められたから声を出したわけじゃないんだからね。初めての体験だったから、ちょっと驚いただけよ。あたしがあんたに舐められたくらいで感じるはずないでしょ。舐めたこと言ってんじゃないわよ」


 声が震えています。典型的なツンデレだなあと思ってしまいました。可愛いところもあるみたいです。


「ま、まあいいわ。これで赦してあげる。これからはあたしを大切にするのよ。毎日お掃除は欠かさない。それから他の便器で用を足すようなことはしないで。全てあたしで済ませない。浮気とみなすわよ」

「え、それは無理だよ。学校に行っている時はどうするの」

「仕方ないわね。じゃあ、どこの便器でどんな用を足したか、毎日報告するように」


 なんだか大変なことになってきました。人間の彼女にこれくらい束縛されたら、さぞかし窮屈を感じることでしょう。


「ふふ。もちろん、あたしだって前にも増してあんたにサービスしてあげるわよ。今回のリニューアルで様々な機能が付加されてるの。人間の女には絶対不可能な方法であんたを喜ばせてあげるわ」


 言い終わらないうちに、一本のノズルが伸びてくると、そこから水の玉がピュッ、ピュッと吹き上がりました。あの水の玉にボクのあそこは弄ばれるんだ、そう思っただけで、お尻がムズムズしてきます。



 なんだか新しい快感に目覚めてしまいそうなボクでした。



 おわり




 おまけのおまけ



 こうしておトイレの中で密かに繰り広げられる、倒錯した恍惚の世界に埋もれていく二人であったが、その生活は御通寺快丁斎先生の新しい芸術作品によって一変した。

 形状記憶機能付きフレキシブル陶器製オムツの出現である。土の柔らかさを生かしたオムツは、陶器製でありながら、お尻と股間を優しく包み込み、一滴の漏れも許さない。


 便器の命令により、このオムツを常に着用することを義務付けられる主人公。もちろん、このオムツには便器の女神の意識を介在させることが可能であり、オムツを着用することによって、二人は町でも学校でも、常に一緒に居られるようになったのだ。

 しかも着用中は女神の特殊能力が主人公に発動し、肌と肌を触れ合うことによって、意中の相手の尿意を自在に操ることが可能になったのである。


 これに目を付けた便器の女神は、快丁斎先生に「陶器製使い捨てオムツ」の制作を依頼。ターゲットの相手に尿意を催させ、オムツと交換に情報を聞き出すという行為を主人公に強要。

 更に回収したオムツの残尿を分析することにより、聞き出せなかった情報まで取得。多くの人物の秘密を握り、己の信者(奴隷)を増やす野望を進行させようとする。


 そんな非人道的な行為に手は貸せないと抵抗する主人公。しかし、信者(奴隷)が増えることで女神の神通力が強大になれば、イザナミ由来の陶土を入手することによって、女神を人間の姿に顕現させられるかも知れないと聞かされ、やむなく協力するようになる。


 最初は渋々女神の命令に従っていた主人公ではあったが、相手の尿意に耐える姿や、公衆の面前でオムツに放尿する時の羞恥に満ちた表情を見ているうちに、眠っていたSの性癖を呼び覚まされる。しかし便器の女神に対してはあくまでもM。


 こうして順調に女神の信者(奴隷)を増やす主人公。だが新たに友人となった二人と関わるうちに、ライバル会社の陰謀に巻き込まれる。幻の陶土を狙った魔の手が御通寺快丁斎先生を危機に陥れた時、便器の女神の怒りが爆発。溜まりに溜まった神通力を全開放。ショッピングモールの巨大招き猫が遂に目を覚ます!


 SとMの両方に目覚めながら、オムツを着用して登校する主人公に待ち受ける運命やいかに。



 とゆーよーな展開を妄想してしまった訳ですが、ここまで来ると、R15は避けられそうにありません。一応、中学生の良い子のみんなも安心して読める物語を目指しているので、これを掲載するのはちょっと抵抗があるんですよね。そんな訳で、あらすじだけで我慢してください。まあ、気が向いたら連載するかもしれませんけどね、というか最初から連載で始めるべきでした。失敗、失敗。

 因みに便器の女神のモデルは、イザナミの糞から生まれた埴安ハニヤス神の女の方である埴安姫ハニヤスヒメです。男の方は埴安彦ハニヤスヒコですが、登場させるかどうかは未定。では、ごきげんよう!



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