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リツイート 前編(三千字)(ミステリー?)

 




 あたしの趣味は小説を書くこと。まだ高校生だけど、将来は小説家か脚本家になりたいな、なんて漠然と思っている。

 もちろん思っているだけじゃなくて努力もしているのよ。今は「小説家になろう」って投稿サイトに自分の作品を載せている。

 人気はまあまあかな。それなりに評価もブックマークもされるし、本当に時々だけど、感想を書いてくれる人もいるから。

 投稿してまだ一年未満の初心者にしては上出来じゃないかな。


 それでもね、現状に満足しているわけじゃないんだ。だってまだまだ底辺の作者であることには変わりないもの。上を見ればキリがないって言うけど、ランキング上位の作者さんたちのポイントなんて、私じゃ絶対に不可能な数字。どうすれば、あんなにポイントを稼げるのかしら。


 ネットで色々調べてみたら、自作の宣伝にツイッターを利用する方法があるとわかった。あたしはさっそく実行することにした。

 SNSなんて初めての体験。最初は何もわからなくて戸惑う事ばかり。とにかくフォローとフォロワーの数を増やし、宣伝のツイートも沢山してみた。アクセス数はそれなりに増えていった。

 やがて、リツイートが結構重要だと気付き始めた。それはそうよね。あたし一人でつぶやくより、それを十回リツイートしてもらえれば、効果は十倍になるのだもの。今度はそちらに力を注ぐことにした。

 思った以上に効果があったわ。リツイートが増えると、あたしの小説へのアクセスは急上昇。そしてポイント数もそれなりに増加。ツイッターも馬鹿にできないツールだって実感したわ。


 でも、でもね、それでも限界があるのよ。日間ランキングに載ったのはほんの数回。それも下から数えた方が早い位置。頑張って毎日小説を更新して、ツイッターで小まめに宣伝ツイートしても、それがあたしの精一杯。

 いったい、どうすればランキング上位の作者さんみたいになれるのかな。あたしは自分の努力が哀れに思えて仕方がなかった。





 そのダイレクトメッセージが来たのは、そんな時だった。ツイッターを始めてからDMを受けとったことは今まで一度もなかった。あくまで宣伝のためのツイッターで、それ以外のことはほとんど書いていなかったから、来るはずがないと思い込んでいたのね。

 送信してきたのはフォロワーの一人。あたしのフォロワーは基本的に「小説家になろう」や他のサイトで物語を書いている作者さんが大部分。だけど、それ以外でも特に怪しくなければ、フォローをブロックするようなことはしなかったし、フォローバックも気軽にしていた。


 ――リツイートを増やして、小説へのアクセスを更に多くしたいと思いませんか?


 それがDMの内容。発信者はあたしのフォロワーと言っても、全く記憶にないユーザーだった。仕方ないわよね。いつの間にかフォロワー数は千を超えていたのだもの。覚えていられるはずがないわ。


「どんなユーザーかしら」


 発信者のツイッターを見てみると、小説の作者さんではなく、読み専門の方のようだった。そのツイートのほとんどは、ネット小説や一般の書籍、テレビのドラマの感想で埋められていた。それほど怪しいとも思えない。

 これなら大丈夫だろうと判断したあたしは、DMに返信した。


 ――増やしたいとは思いますが、何かいい方法がありますか?


 すぐに返事が来た。


 ――十分後に私が書き込むツイートに、以下の内容で返信してください。あなたのツイッターID、あなたの小説サイトのURL及び『一任します』の文字。表示して十分後には削除しますので、返信も削除してください。


 発信者のツイッターを見る。それらしいツイートはまだない。信じてもいいのかしら。これだけのことで本当にリツイートが増えるなんて、眉唾物もいいとこだわ。半信半疑のままを眺めていると、


「きた!」


 新しいツイートが表示された。


『小説サイトによるリツイート増加申込』


 それがツイートの内容。

 あたしは迷った。どうしよう、返信しようか。

 とても信じられない、返信なんかしても無意味だわ。

 でも返信したからと言って、こちらに不利益があるわけでもない。十分経過で削除されるのだし、あたしの返信も削除するんだから。

 それに返信に書かれる情報は、既にネット上に公表されている事柄だから、知られても構わない、むしろ知られた方が都合がいい。

 そうよ、返信したからと言って、あたしには何の不利益もない。決めたわ。

 あたしは指示された内容を書き込み返信した。しばらくして、そのツイートは削除された。指示通り、あたしも返信を削除した。後には何も残らなかった。数分後にあたし宛に届いた――確かに引き受けました――というDM以外は。



 3



 信じられなかった。本当だった。あのツイートに返信をしてから数日後、あたしのツイッターのリツイート率は飛躍的に跳ね上がっていた。

 フォロワーだけでなく、全く見ず知らずのユーザーもあたしの宣伝ツイートをリツイートしてくれた。日を追うごとにその数は多くなっていく。今ではひとつの宣伝ツイートに数百のリツイートが付くまでになったわ。


「凄い、凄い。お礼を言った方がいいかしら」


 あの日以降、謎のフォロワーからのDMはなかった。そのツイッターも読書感想文の並ぶ地味な内容のままだった。

 遡って過去のツイートを見てみたけれど、リツイート増加に関するツイートは一切ない。あたしが初めての利用者だからか、他の利用者はお礼の返事などしなかったからか、それはわからない。

 この状況でお礼を述べるのも不自然なので、結局、あたしは何もしなかった。


 リツイートが増えるにつれ、小説へのアクセス数も飛躍的に多くなった。あたしは満足だった、ただ、ひとつの気掛かりを除いては。

 そう、アクセス数の割にはポイントが全く伸びないのよ。ううん、伸びないどころじゃない、減っていくのよ。

 最初はそれほど気にはならなかった。ブックマークを外されることはよくあったし、ああ、最近、小説の内容がマンネリかなと思うと、再評価されることもあったから。

 でも、これだけのアクセス数でブックマークも評価も増えず、逆に減っていくなんて、普通じゃあり得ないわ。

 ストーリーだって、今まで通り、頑張って書いているつもり。なのにポイントは日毎に減っていく。


 あたしは焦り始めた。ツイッターの宣伝ツイートを増やし、リツイートを増やし、多くの読書をあたしの小説に呼び込もうとした。アクセス数は着実に伸びていく。なのにそれに比例してポイントは減っていく。

 ブックマークも評価ポイントもそれまでの半分にまで落ち込んだ時、あたしは矢も楯もたまらなくなって、DMを発信した。そう、あの謎のツイッターユーザーに向けて。


 ――お久しぶりです。お陰様でリツイート増加は叶い、アクセス数も増えました。けれども小説のポイントは激減しています。何か解決策はないですか?


 あたしのDMに対して、すぐに返事が来た。


 ――ありますよ。もしお望みならば十分後に私が書き込むツイートに、以下の内容で返信してください。あなたの小説サイトのIDとURL、及び『一任します』の文字。表示して十分後には削除しますので、返信も削除してください。


「あるんだ。なに、この人、凄い!」


 あたしは嬉しくてすっかり舞い上がってしまったわ。そうよ、リツイートを増やせる能力の持ち主だもの。ポイントを増やすくらい御手の物に決まっているわ。

 しばらくして謎のユーザーのツイッターに、新しいツイートが表示された。


『作者自身による小説ポイント増加申込』


 あたしは迷わず返信欄に、指示された内容を書き込んだ。返信する。しばらくしてツイートが消える。あたしも返信を消す。そこには何の痕跡も残らない。何もかも同じ。その後やって来た――確かに引き受けました――というDMまで前回と同じだった。

 これで全てが上手くいく。不安が解消されたあたしは、知らぬ間ににっこりと微笑んでいたわ。




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