リツイート 前編(三千字)(ミステリー?)
1
あたしの趣味は小説を書くこと。まだ高校生だけど、将来は小説家か脚本家になりたいな、なんて漠然と思っている。
もちろん思っているだけじゃなくて努力もしているのよ。今は「小説家になろう」って投稿サイトに自分の作品を載せている。
人気はまあまあかな。それなりに評価もブックマークもされるし、本当に時々だけど、感想を書いてくれる人もいるから。
投稿してまだ一年未満の初心者にしては上出来じゃないかな。
それでもね、現状に満足しているわけじゃないんだ。だってまだまだ底辺の作者であることには変わりないもの。上を見ればキリがないって言うけど、ランキング上位の作者さんたちのポイントなんて、私じゃ絶対に不可能な数字。どうすれば、あんなにポイントを稼げるのかしら。
ネットで色々調べてみたら、自作の宣伝にツイッターを利用する方法があるとわかった。あたしはさっそく実行することにした。
SNSなんて初めての体験。最初は何もわからなくて戸惑う事ばかり。とにかくフォローとフォロワーの数を増やし、宣伝のツイートも沢山してみた。アクセス数はそれなりに増えていった。
やがて、リツイートが結構重要だと気付き始めた。それはそうよね。あたし一人でつぶやくより、それを十回リツイートしてもらえれば、効果は十倍になるのだもの。今度はそちらに力を注ぐことにした。
思った以上に効果があったわ。リツイートが増えると、あたしの小説へのアクセスは急上昇。そしてポイント数もそれなりに増加。ツイッターも馬鹿にできないツールだって実感したわ。
でも、でもね、それでも限界があるのよ。日間ランキングに載ったのはほんの数回。それも下から数えた方が早い位置。頑張って毎日小説を更新して、ツイッターで小まめに宣伝ツイートしても、それがあたしの精一杯。
いったい、どうすればランキング上位の作者さんみたいになれるのかな。あたしは自分の努力が哀れに思えて仕方がなかった。
2
そのダイレクトメッセージが来たのは、そんな時だった。ツイッターを始めてからDMを受けとったことは今まで一度もなかった。あくまで宣伝のためのツイッターで、それ以外のことはほとんど書いていなかったから、来るはずがないと思い込んでいたのね。
送信してきたのはフォロワーの一人。あたしのフォロワーは基本的に「小説家になろう」や他のサイトで物語を書いている作者さんが大部分。だけど、それ以外でも特に怪しくなければ、フォローをブロックするようなことはしなかったし、フォローバックも気軽にしていた。
――リツイートを増やして、小説へのアクセスを更に多くしたいと思いませんか?
それがDMの内容。発信者はあたしのフォロワーと言っても、全く記憶にないユーザーだった。仕方ないわよね。いつの間にかフォロワー数は千を超えていたのだもの。覚えていられるはずがないわ。
「どんなユーザーかしら」
発信者のツイッターを見てみると、小説の作者さんではなく、読み専門の方のようだった。そのツイートのほとんどは、ネット小説や一般の書籍、テレビのドラマの感想で埋められていた。それほど怪しいとも思えない。
これなら大丈夫だろうと判断したあたしは、DMに返信した。
――増やしたいとは思いますが、何かいい方法がありますか?
すぐに返事が来た。
――十分後に私が書き込むツイートに、以下の内容で返信してください。あなたのツイッターID、あなたの小説サイトのURL及び『一任します』の文字。表示して十分後には削除しますので、返信も削除してください。
発信者のツイッターを見る。それらしいツイートはまだない。信じてもいいのかしら。これだけのことで本当にリツイートが増えるなんて、眉唾物もいいとこだわ。半信半疑のままを眺めていると、
「きた!」
新しいツイートが表示された。
『小説サイトによるリツイート増加申込』
それがツイートの内容。
あたしは迷った。どうしよう、返信しようか。
とても信じられない、返信なんかしても無意味だわ。
でも返信したからと言って、こちらに不利益があるわけでもない。十分経過で削除されるのだし、あたしの返信も削除するんだから。
それに返信に書かれる情報は、既にネット上に公表されている事柄だから、知られても構わない、むしろ知られた方が都合がいい。
そうよ、返信したからと言って、あたしには何の不利益もない。決めたわ。
あたしは指示された内容を書き込み返信した。しばらくして、そのツイートは削除された。指示通り、あたしも返信を削除した。後には何も残らなかった。数分後にあたし宛に届いた――確かに引き受けました――というDM以外は。
3
信じられなかった。本当だった。あのツイートに返信をしてから数日後、あたしのツイッターのリツイート率は飛躍的に跳ね上がっていた。
フォロワーだけでなく、全く見ず知らずのユーザーもあたしの宣伝ツイートをリツイートしてくれた。日を追うごとにその数は多くなっていく。今ではひとつの宣伝ツイートに数百のリツイートが付くまでになったわ。
「凄い、凄い。お礼を言った方がいいかしら」
あの日以降、謎のフォロワーからのDMはなかった。そのツイッターも読書感想文の並ぶ地味な内容のままだった。
遡って過去のツイートを見てみたけれど、リツイート増加に関するツイートは一切ない。あたしが初めての利用者だからか、他の利用者はお礼の返事などしなかったからか、それはわからない。
この状況でお礼を述べるのも不自然なので、結局、あたしは何もしなかった。
リツイートが増えるにつれ、小説へのアクセス数も飛躍的に多くなった。あたしは満足だった、ただ、ひとつの気掛かりを除いては。
そう、アクセス数の割にはポイントが全く伸びないのよ。ううん、伸びないどころじゃない、減っていくのよ。
最初はそれほど気にはならなかった。ブックマークを外されることはよくあったし、ああ、最近、小説の内容がマンネリかなと思うと、再評価されることもあったから。
でも、これだけのアクセス数でブックマークも評価も増えず、逆に減っていくなんて、普通じゃあり得ないわ。
ストーリーだって、今まで通り、頑張って書いているつもり。なのにポイントは日毎に減っていく。
あたしは焦り始めた。ツイッターの宣伝ツイートを増やし、リツイートを増やし、多くの読書をあたしの小説に呼び込もうとした。アクセス数は着実に伸びていく。なのにそれに比例してポイントは減っていく。
ブックマークも評価ポイントもそれまでの半分にまで落ち込んだ時、あたしは矢も楯もたまらなくなって、DMを発信した。そう、あの謎のツイッターユーザーに向けて。
――お久しぶりです。お陰様でリツイート増加は叶い、アクセス数も増えました。けれども小説のポイントは激減しています。何か解決策はないですか?
あたしのDMに対して、すぐに返事が来た。
――ありますよ。もしお望みならば十分後に私が書き込むツイートに、以下の内容で返信してください。あなたの小説サイトのIDとURL、及び『一任します』の文字。表示して十分後には削除しますので、返信も削除してください。
「あるんだ。なに、この人、凄い!」
あたしは嬉しくてすっかり舞い上がってしまったわ。そうよ、リツイートを増やせる能力の持ち主だもの。ポイントを増やすくらい御手の物に決まっているわ。
しばらくして謎のユーザーのツイッターに、新しいツイートが表示された。
『作者自身による小説ポイント増加申込』
あたしは迷わず返信欄に、指示された内容を書き込んだ。返信する。しばらくしてツイートが消える。あたしも返信を消す。そこには何の痕跡も残らない。何もかも同じ。その後やって来た――確かに引き受けました――というDMまで前回と同じだった。
これで全てが上手くいく。不安が解消されたあたしは、知らぬ間ににっこりと微笑んでいたわ。




