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De-Intellectualization (知性化解体) シリーズ

保護区

作者: 宮沢弘

 会議室に上司と同僚が集まっている。今日の議題は、国の中央にある保護区の、特に外壁のメンテナンスの様子に関してだ。私と上司が出かけることになった。


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 道中、私は上司と何ということもない雑談をしていた。


「保護区は都市部からかなり離れていますね」


「あまり都市部の人や環境が影響するようでも困るだろうからな」


「でも往復の時間がしんどいですね」


「仕事なんだからそれくらい我慢しろ。それで給料をもらっているんだからな」


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 メンテナンスは順調に行なわれているようだった。


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 数カ月後、今度は国境の一部の様子を見に行くことになった。


 国境は鉄条網で覆われているらしい。少なくとも私が見た範囲ではそうだ。


 鉄条網の向こう側には荒野が広がっている。


「この荒れ地の向こう側があっちの国なんですよね?」


「数kmの緩衝地帯の向こう側と言う方が正確らしいがな」


「こんな荒れ地で生きていくのは大変でしょうね」


「だからこそこういうのが必要なんだ」


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 計算機の画面の片隅に、連絡が入った。その表示を開いてみると、保護区の境界の様子の確認、および必要ならば補修とのことだった。一斉通知なので、ネットでの反応がどうなのかを覗いてみる。


「光学迷彩が貸し出されるぞ。それを試してみるだけでも楽しい」


 経験者の意見だろう。


「去年、連絡したの俺。一昨年参加して面白かったから、去年連絡係をやった。本当に光学迷彩だけでも経験してみると面白い」


 これも経験者の意見らしい。


「今、煮詰まってるんだよな。行ってみるかな」


 それに応えるように「歓迎」というメッセージがいくつも流れる。


「見つかったらどうするの?」


 未経験者の意見だろう。


「何種類ものセンサーでデータを集めてるから、近づいてくると分かる。近づき過ぎる前に退避と光学迷彩」


「そのセンサのメンテもあるから、誰か行って来い」


 経験者が多いようだ。頻度もそれなりにあるし、規模もそれなりなのだから当たり前か。


 実名チェックをオンにし、私も書き込む。


「私も行く。集合場所の連絡よろ」


 しばらく仕事に戻った後、計算機の画面を確認する。集合場所と時間の連絡が届いていた。


----


 保護区の境界に近づく。バスの運転をしている人が言った。


「境界に近づいたので、バスの光学迷彩を作動させます。窓から外の様子が少し見えにくくなります」


 窓が一瞬だけ暗くなった。


 そのまましばらく走った後、バスが停まる。


「センサからのデータで、近くに居るようですね。念の為にしばらくここに停まっておきます」


 バスの中がざわつく。皆、境界側の窓に張り付く。自前の双眼鏡を持ってきた人もいる。その人は、一瞬にして人気者だ。


 バスを運転している人が言う。


「集音器を動かせますけど、どうします?」


 バスの中は静かになった。


|「こんな荒れ地で生きていくのは大変でしょうね」

|「だからこそこういうのが必要なんだ」


----


 保護区は、ほぼ一世紀前に設置された。不適応者を保護する場所だ。


 そのさらに一世紀前までは、私たちの方が不適応者だったらしい。当時の、潜在的不適応者も含めて、不適応者がいつのまにか優勢になった。


 不適応者は非難されながらも月と火星に植民をした。現在では50隻ほどが地球、月、火星の間に就航している。地球の衛星軌道と公転軌道に発電ステーションも作られ、稼働している。小惑星帯からのマスドライバーも、まだ少数ではあるが稼働している。木星をかすめてのガスの捕獲と輸送の計画もある。それらがさらに発電ステーションを拡充する予定だ。


 何がそれを可能としたのか。不適応者だったからだというのが一番簡単な説明だろう。危機感と衝動と意欲と技術を持った者―それらがどういうものであれ―、それは旧世界では不適応者だった。だが資源とエネルギーの危機を知った時、どれだけ非難されようともやり遂げる危機感と衝動と意欲と技術を持っていたのは、不適応者だった。だからこそ不適応者だった。芸術に衝動を持つ者も居た。彼らは不適応者に、他にない娯楽と思想を提供した。科学技術に衝動を持つ者もいた。


 そして不適応者が適応者となった。では不適応者となった適応者をどうするか。意見はすぐにまとまった。不干渉。彼らが次に新たな適応者になるのかもしれないのだから。


 そうして、保護区が設けられた。

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