8話『メガネ君と千一夜物語』
「メガネく~ん!」
「・・・また来たか。毎日よくも飽きずに来るもんだな」
「えへへ。メガネ君とお喋りするの楽しいんだもん!今日はどんなお話聞かせてくれるの?」
「図書室は喋る場所じゃない。大体、何故君に話を聞かせねばならんのだ。俺はシェヘラザードか?」
「しぇへ・・・?何それ?また面白い話!?」
「うっ、墓穴掘った。・・・そんな期待に満ちた目で見んなよ」
「期待させる方が悪いんじゃん!教えて教えて!」
「・・・ったく。シェヘラザードは千一夜物語の語り手だ」
「千一夜?」
「アラビアン・ナイトとも言うな。昔、妻の不貞を目撃して、女性不信になった王が居た」
「それはなるよね・・・」
「王は妻を処刑し、その後、毎夜新しい妻を娶っては、翌朝処刑するようになった」
「ひぃ!八つ当たりしすぎ!」
「その行為を止めるべく、自ら王に嫁いだのが、大臣の娘シェヘラザードだ」
「おー!勇気あるなぁ」
「シェヘラザードは婚礼の晩、王の枕元で物語を聞かせた。そして明け方、物語が佳境に差し掛かったときーー」
「ドキドキ」
「『続きはまた明日』と話を打ち切ってしまう」
「えー!引っ張るの!?」
「王は物語の続きが気になってシェヘラザードを殺せず、翌晩も寝室に呼んだ。それが毎晩・・・千一夜続くことになる」
「うわ、シェヘラザード策士だ!でも、千一夜って・・・三年弱?そんなに長く王を虜にし続けた物語ってどんな話なの?」
「沢山あるが、君も幾つか知ってるだろ?アラジンと魔法のランプ、アリババと四十人の盗賊、シンドバットの冒険、空飛ぶ絨毯・・・」
「子供の頃、絵本で読んだ!あの話が全部千一夜物語だったのね!そりゃ王様もワクワクで聞いちゃうよ」
「シェヘラザードは、話す物語の中で王に倫理や道徳を説いた。そして最後には王を改心させ、二人は幸せに暮らしたという」
「シェヘラザード凄い!命懸けで頑張ったね!」
「因みに、千一夜の間にシェヘラザードは子供を三人産んでいる」
「え!?やる事はやってたんだ!」
「阿呆」
「ぃた!本で叩かないでよ!」
「女子が下世話な想像すんな」
「む~、メガネ君だって、ちょっとは想像したでしょ?」
「しない」
「しくしく。あ、もう帰らなきゃ」
「俺の話には続きはないから、明日は来るなよ」
「がーん!いつにも増して冷たいお言葉!」
「一度も温かくした覚えもないがな」
「めそめそ。・・・ね、メガネ君」
「ん?」
「私が王様だったら、メガネ君が面白い話をしなくても、添い寝してくれるだけで幸せに暮らせちゃうよ?」
「・・・はっ!?」
「じゃ、また明日ね!」
「おい、コラ・・・!」
・・・・・・
「変な事言い逃げすんなよ。・・・想像するだろ、阿呆」