6話『メガネ君とギリシャ神話(冠座編)』
「あ、メガネ君みっけ!」
「・・・また出た」
「いつもの読書スペースに居ないから本棚の方捜したら、やっぱり居た!」
「ったく、よく見つけたな」
「うふふ、運命の赤い糸を手繰って来たの!」
「阿呆らし。アリアドネの糸かよ」
「アリ・・・?」
「ギリシャ神話の登場人物だ。ギリシャ神話は知ってるか?」
「小学校の時、星占いが流行ったからいくつかは知ってるけど、詳しくはないよ」
「アリアドネは冠座の話に出てくる美しい姫君だ」
「面白そう!聞かせて?」
「神話の時代、クレテ島にミノタウロスという怪物が居た」
「知ってる!頭が牛で体が人の化け物ね」
「そうだ。クレテの王、ミノスは迷宮を作りミノタウロスを閉じ込め、毎年美しい少年と少女を七人ずつ生贄として捧げていた」
「ひぇ~」
「そのミノタウロスを倒すべくやってきたのが、アテナイの街の王子、テーセウス」
「お、勇者登場!?」
「テーセウスは生贄に混じって迷宮に入る時、彼に一目惚れしたミノス王の娘、アリアドネに麻の糸玉と剣を渡される」
「お姫様きたー!」
「剣でミノタウロスを討ち取ったテーセウスは、糸を手繰り迷わず迷宮を抜け出した」
「おぉ~」
「そして、アリアドネを妃として、アテナイに戻る為船でクレテ島を離れた」
「ラブファンタジーの王道ど真ん中ね!素敵!!・・・って、あれ?でもこれって冠座の話なの?冠出てないけど??」
「そうだな。この話にはまだ続きがある」
「何、何!?」
「アテナイに戻る途中に立ち寄ったナクソス島で、テーセウスとアリアドネは離別する」
「え!?別れちゃったの?どうして!?」
「これには諸説あるな。女神アテナに『アリアドネを連れて帰るとアテナイが不幸になるから置いていけ』と言われたとか、単に飽きて捨てていったとか」
「えぇ!?」
「何にせよ、テーセウス一行は夜の内にこっそり出航してしまって、朝アリアドネが目覚めた時には誰も居なかった」
「ちょ、ひどっ!置き去りじゃん!!」
「アリアドネは嘆き悲しんだ」
「あったりまえでしょ!!」
「絶望で海に見投げ寸前のアリアドネの元に現れたのが・・・酒神ディオニューソス」
「新キャラ登場だ!」
「ディオニューソスはアリアドネを慰め、妃にして美しい冠を与えた。アリアドネは幸せに暮らし、彼女の死後、ディオニューソスは冠を天に飾った」
「ハッピーエンドだ!アリアドネ、良かったね~!」
「・・・と、綺麗に纏めたが」
「まだ何かあるの!?」
「実は、ナクソス島でアリアドネを見初めたディオニューソスが、テーセウスに命令して彼女を置き去りにさせ、無理矢理妃にしたという説もある」
「げっ!横恋慕なの!?もぅ、夫婦を簡単に離婚させるなんて。アテナといい、ディオニューソスといい、一体何様のつもりよ!」
「・・・神様だろ」
「ってかさ、本当はどっちなの?ディオニューソスはアリアドネを慰めたのか、それともテーセウスとの仲を引き裂いたのかで、話が全然違ってくるじゃん!」
「・・・諸説あると言ったろ。答えはない。好きな方を選べばいい」
「えー?・・・じゃあ、ディオニューソスが良い人に一票!失恋の痛手が癒えたアリアドネは、ディオニューソスとラブラブで暮らしましたとさ。めでたしめでたし!」
「楽観主義め」
「いーの!ハッピーエンドが好きだもん。あ、もう行かなきゃ!メガネ君、またね~!」
「はいはい」
・・・・・・
「・・・俺もその説が一番好きだな」