5話『メガネ君と虹』
「メガネ君、見て見て~!」
「煩い。図書室で騒ぐなと、あれ程・・・」
「お説教は後!ほら窓の方来て!」
「コラ、引っ張るな・・・」
「虹が出てるよ!」
「・・・ほう。雨が上がっていたのか」
「綺麗だね~!」
「まあな」
「あ、虹って、この前教えてもらった可視光線と関係あるの?ええと、スペシウム?」
「違う光線にするな。スペクトルだ」
「そうそれ!」
「虹は空気中の水滴がプリズム代わりになって太陽の光を分解し、光のスペクトルを円弧状に見せる気象現象だ」
「へぇ」
「日本では一般的に、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色とされているが、国や時代に依って色数は異なる」
「見る人の感性次第ってことね」
「因みに英語の『rainbow』は、雨(rain)の弓(bow)という意味だ」
「そうなんだ!あれ?じゃあ漢字の『にじ』はどうして『虹』って字なの?水と光の現象なのに、何で虫偏を使うの?」
「それは漢字の成り立ちの話になるな。ざっくり説明すると、『虫』という字は昆虫だけじゃなく、小動物全般や、蛇を表す字でもあるんだ」
「ふむふむ」
「今回の『虹』に使われている虫偏は『蛇』の意味に相当する」
「・・・へび?」
「『蛇』の字には『龍』の意味がある」
「龍??」
「虹は、昔の中国ではその形状から龍の眷属と考えられていた。だから虫偏が付く」
「えぇ!?虹って龍の仲間なの!?」
「そういう伝説がある。『工』という字には上下の面を貫くという意味があるから、さながら空を貫く蛇ってところか」
「虹が蛇で龍・・・?いまいちピンとこないけど」
「虹は雨に関係する事象だ。雨、即ち気象は水神=龍が司るものだ。だから虹が龍の眷属でも何だ不思議はない」
「そっか!お天気は龍の管轄なのね。じゃあ、他の気象現象にも龍の仲間がいるの?」
「蜃気楼を知っているか?」
「勿論。海や砂漠に建物の幻が浮かぶってやつでしょ?」
「そうだ。蜃気楼は、異なる密度の空気の中で光が屈折し、物体が浮かび上がって見える気象現象だが・・・」
「まさか蜃気楼まで龍の仲間なの?」
「そのまさかだ。『蜃』は蜃気楼を作る神獣で、龍の眷属。その姿は龍とも巨大な蛤ともいわれている」
「は・・・蛤?」
「“蜃”が“気”を吐いて“楼”(建物)を出すから“蜃気楼”」
「へぇ~。言われているみれば、蜃の字にも虫が入ってるのね。・・・あ!メガネ君見て‼」
「ん?」
「虹が二重になってるよ!初めて見た!」
「主虹と副虹だな」
「シュコーとフクコー?」
「下の濃い虹が主虹、上の薄いのが副虹。主虹は、一番外側が赤で、紫が内側という構造だが、副虹は逆に、赤が内側、紫が外側になっている」
「ほほぅ」
「龍の眷属である虹は、主虹が雄で『虹』、副虹が雌で『霓』、一対で『虹霓』と呼ばれている」
「へぇ。ニコイチなんだ」
「中国には雌雄で対の名を持つ神獣が多い。麒麟や鳳凰もそうだな」
「仲良しな感じでいいね!私達も、伊達と有馬で伊有とか呼ばれちゃう!?」
「死んでもお断りだ」
「しくしく。あー!虹の写真撮りたかったのに、スマホの充電切れてる!」
「粗忽者」
「がーん!メガネ君の意地悪!あ、もう行かなきゃ。またね~!」
「とっとと帰れ」
・・・・・・
カシャッ。
「後で写メ送ってやるか」