4話『メガネ君と可視光線』
「メガネ君ひどぉぉおおぉぉぉいぃ‼」
「喧しい!」
「った!本で叩かないでよ!」
「図書室に入るなり奇声を上げながら突進してくる不審者には武力行使しかないだろう」
「うぅ、だからってそんな分厚い本の角で脳天どつかなくても・・・頭が悪くなったらどうすんのよ?」
「初期不良だろ、俺の責任じゃない」
「がーん!相変わらず容赦ないお言葉!でもドSなメガネキャラってキュンキュン来るよね‼」
「・・・君、メンタル強すぎだろ。つーか、隣座んなって」
「えへへ」
「ったく。・・・で、何だ?」
「ふぇ?」
「いきなり人を罵倒した理由を訊いてる」
「ああ、それよ!メガネ君酷いよ!アドレス教えてから一週間も経つのにメールくれないじゃない!」
「君が一方的に登録したんだろ。俺には送る義務も義理もない」
「しくしく。冷たいなぁ。赤外線は二人を繋ぐ赤い糸だと思ってたのに!」
「赤い糸なんて存在せんし、そもそも赤外線は赤くない」
「え!?赤外線って赤くないの?“赤”外線なのに??」
「赤“外”線だから赤くないだろ」
「????」
「・・・時々、どうして君が俺と同じ高校に入れたのか疑問に思うぞ」
「てへ。で、赤外線って何色なの?」
「無色だ」
「え?色がないの??」
「正確には見えない、だな。三色型色覚を知っているか?」
「さん・・・?」
「人の色の見え方の事だ。では、可視光線は?」
「蟹工船?」
「可視光線とは、電磁波の中で人の目で見える波長の物を指す」
「人の渾身の知的ギャグをスルーしないでよ。・・・難しい言葉使ってるけど、要するに目に見える光って事でしょ?」
「そうだ。この可視光線に相当する電磁波の波長は、短波長側が360-400nm、長波長側が760-830nmと言われている」
「・・・ナノ?」
「可視光線の色は、短波長側から、紫・青紫・青・青緑・緑・黄緑・黄・橙・赤、この色の並びをスペクトルと呼ぶ」
「・・・すぺ??」
「赤外線は、この赤色より波長の長い電磁波だ」
「えぇと・・・見える色が紫から赤までで、赤より波長が長いって事は、可視光線のスペクトルに入ってない訳で・・・」
「“赤”色より“外”側にある見えない光“線”だな」
「成程!じゃあ紫外線は・・・」
「紫色より短い電磁波だ」
「そういう意味だったんだ!早速マミに」
「教えなくていい」
「しくしく。でも、赤外線は見えなくてもいいけど、紫外線が見えないのは残念だなぁ」
「何故?」
「だって紫外線は乙女の大敵だもん!見えたら避けれるでしょ!」
「簡単に避けれるモンじゃないと思うが・・・、紫外線を見られる生物はいるぞ」
「え!?」
「鳥類や爬虫類、昆虫の一部は四色型色覚・・・つまり、波長300-330nmの紫外線を感知出来る目を持っている」
「へぇ、一色多い世界で生きてるんだ!?どんな色にみえるんだろ?」
「蝶なんかは、紫外線を見る眼で雌雄を見分けたり・・・」
「あー!蝶々っていえばさ、おんなじ模様でも明るい蝶々と暗い蝶々がいるじゃん?」
「突然話の腰を折るな。・・・つーか、何の話だ?」
「蝶々の話だって。白っぽいのと黒っぽいのがいるでしょ?」
「は?」
「あれって種類が違うの?この前モンシロチョウが二匹飛んでて、マミに聞いても両方同じ色だって言うんだけど、どー見ても白っぽいのと黒っぽいのが居て・・・」
「蝶の数え方は一匹二匹ではなく、一頭二頭だ。・・・つーか・・・」
「?・・・メガネ君?」
「モンシロチョウの雄の翅は紫外線を吸収するから黒っぽく見え、雌の翅は紫外線を反射するから白く見えるんだよな・・・」
「何?ぶつぶつ言って?」
「人類の女性の2~3%は四色型色覚という説があるが、まさか・・・」
「おーい、メガネ君!どーしたのぉ?」
「有馬。君、眼科で検査してもらえ」
「え?何よ急に??私、目は良いよ。視力2.0だし!」
「無駄に良いな」
「いひひ」
「・・・ま、いいか。違う色が見えるのだって、ただの個性の一つだよな」
「??何、独りで納得してんの?変なメガネ君」
「・・・君には言われたくない」
「えー?・・・あ、やばっ!バイト遅刻しちゃう。行かなきゃ!」
「だから、図書室内は走るなと・・・」
「っと、そうだメガネ君!」
「ん?」
「メガネ君には見えなくても、私には見えるよ」
「何が?」
「運命の赤い糸。じゃ、またね!」
「は!?おい・・・」
・・・・・・
「恥ずかしい台詞を言い捨てていくなよ。・・・本当に聞こえるだろ」