3話『メガネ君とみどり』
「ねーねー、メガネ君これ観て!」
「・・・図書室にファッション誌なんか持ち込むな」
「いーじゃん!ね、このモデルの髪型可愛くない?」
「興味無い」
「えー、こういうの好きじゃない?私、髪型変えようと思うんだけど、メガネ君どんなのが好み?」
「どうでもいいから静かにしろ」
「うちの高校って校則緩いじゃん?明るめのカラー入れちゃおっかな~・・・って、メガネ君、見て!今、貸出カウンターに超絶美少女が居るよ!」
「人の話を聞けって・・・一年の谷口ちはるだな」
「メガネ君、酷い!可愛い子に目をつけてるなんて!」
「阿呆。彼女とは学級委員会で同じなだけだ」
「そっか。メガネ君は我が2-Aの学級委員長様だもんね!」
「様付けるなら、もっと敬えよ」
「いひひ。でも、あの子の髪、すっごい綺麗ね!真っ黒でピカピカのストレート!」
「緑の黒髪ってヤツだな」
「ねぇ、メガネ君・・・」
「何故“黒髪”なのに“緑”なのか、だろ?」
「わぁ、何で解るの?愛!?」
「ど阿呆。君のパターンくらい把握済みだ」
「把握する程私を深く理解してるって事でしょ?やっぱ愛じゃん!」
「・・・話、やめるぞ?」
「ゴメンナサイ。続けてクダサイ」
「ったく・・・。“みどり”という言葉が出てきたのは平安時代頃で、元々は色の名前としては使われていなかった」
「え!?緑って色じゃなかったの??」
「当時は、植物の新芽の『瑞々しさ』や『若々しさ』を表す意味の言葉だったんだ」
「へぇ~」
「だから、艶やかで瑞々しい髪は『緑の黒髪』、赤ん坊の事を『嬰児』と呼んだりする」
「そうだったんだ!あ、それなら、植物の色は何て言ってたの?」
「大雑把に“青”だな」
「えぇ!?青って・・・葉っぱの色も海の色も空の色も、みーんな“青”って事??」
「そうだ。植物の色を“緑”と呼ぶようになったのは、それほど昔の話じゃない。今でも名残があるだろ?野菜を『青物』と言ったり、隣の芝生は『青』かったり」
「あ!信号の『進め』が緑のランプなのに青って言うのも・・・」
「そう。元は同じ呼び名だから、日本人は“緑”を“青”と言っても意味が通るんだ」
「へぇ~」
「漢字の『碧』なんかは、『あお』とも『みどり』とも読むしな」
「成程!またひとつ賢くなったぞ。早速マミにラインしとこ」
「スマホは外で使え。・・・っていうか、その『マミさん』とやらは、そんな返信に困る情報もらって嬉しいのか?」
「だいじょーび!私、既読スルー上等だから。トークは送る事に意義があるの!」
「・・・そのうちアカウントブロックされるぞ」
「って事で、メガネ君のアカウントも教えて?」
「嫌だ。つーか、俺ガラケーユーザー」
「えぇ!?じ・・・じゃあ、メルアド教えて!」
「お断りだ」
「う~っ。じゃあ、いいもん!勝手に赤外線送るもん!」
「あ、コラ!よせ!人のケータイ触ん・・・!」
『静かに‼』
「ひゃ!」
「・・・すみません」
「うぅ、また怒られた・・・。もうバイトの時間だし、今日は帰ろ。メガネ君またね。後で好きな髪型メールしてね~!」
「しねぇよ!っとに、今日も慌ただしい奴だな」
・・・・・・
「俺は今のままでいいと思うんだがな」