13話『メガネ君と冠婚葬祭と振袖』
「メガネ君、聞いて聞いて!」
「煩いな。・・・どうせ俺が聞く気なくても話すんだろ」
「うひひ。あのね、今週の土曜にハトコのお姉さんの結婚式に招待されたのー!」
「・・・そりゃ急だな。結婚式の招待は最低でも三ヶ月から半年前だろ」
「うん。本当はうちの親だけ出席予定だったんだけど、新婦の友達の一人が急遽欠席になって、今からじゃお料理のキャンセル利かないから食べにきてー!って」
「何だ、代打か」
「代打でもいーの!私、結婚式初めてだから楽しみ!何着て行こうかな!」
「学校の制服一択だろ」
「えー!?何で!」
「学生は制服が第一礼装だぞ。冠婚葬祭、全ての場面で恥ずかしくない服装だ」
「む~。ドレス着ちゃダメなの?」
「TPOに合っていれば問題ない。その際は、新婦のドレスと色が被らないとか、新婦より目立つ衣装は着ない等の配慮が必要だな」
「あくまで花嫁さんが主役だもんね!・・・ところで、メガネ君」
「ん?」
「冠婚葬祭って、よく聞くけど、『婚』は結婚式で、『葬』はお葬式でしょ。『祭』は・・・お祭り?」
「『祭』は先祖や神を祀る意味がある。正月やお盆等の年中行事を指す」
「へぇ!じゃあ、『冠』は?」
「『冠』は元服の事だ。現在で言えば成人式か。七五三等の成長の節目の祝いも『冠』の括りになる」
「そうなんだ~!今日もマミに」
「教えなくていい」
「しくしく。あ、成人式といえば」
「?」
「お祖母ちゃんが着物いっぱい持ってるんだ!昔の振袖も取ってあるって言ってたから、それ着よっかな。結婚式には振袖着て行って良いんでしょ?」
「いいんじゃないか。振袖は未婚女性の第一礼装だからな。但し、大振袖は新婦も着る可能性があるから衣装被りに注意だな」
「大振袖?」
「振り袖には袖の長さに因って、大振袖・中振袖・小振袖の三種類がある」
「種類があるんだ!?・・・でもさ、振袖って何で結婚前の女の人しか着ちゃいけないの?綺麗だからいっぱい着たいじゃん」
「これには諸説あるが」
「出た!諸説!!」
「確証のない話をするのに便利な言葉だな。・・・振袖の語源は文字通り『袖を振る』なのだが、この『袖を振る』という行為には、縁や魂を呼んだり厄払いや清めの意味があった。女の厄年は十九歳、だから成人式や結婚式では厄を払い清める意味も込めて振袖を着るという」
「へぇ。おまじないみたいな感じね」
「更に、この『袖を振る』という行為には愛情を示す意味もある」
「愛情?袖を振るのが『あなたが好きよー!』って意味なの?」
「縦に振ると『好き』、横に振ると『嫌い』になる。恋愛上の『振る』『振られる』の語源は、この袖だ」
「えぇ~!?そうだったの!!」
「袖には感情表現の意味を持つ言葉が色々あるんだ。今でも哀れみを乞う様を『袖に縋る』とか言うだろう」
「私はいつもメガネ君に袖にされてる!」
「君にしては上手い例文だな。的を射ている」
「・・・誉められたけど、釈然としないっ」
「袖でも噛んでろ」
「しくしく。袖を濡らす」
「振袖が現在のように未婚女性の着物になった要因の一つに、江戸時代に若い女性の習い事として舞踊が流行った事が挙げられる」
「ぶよう?ダンスの事ね」
「舞踊には前述の袖の感情表現が使われている。更に、袖が長い方が踊りの所作が美しい事から、振袖が若い未婚女性の間で大流行したという。そこから若い未婚女性=振袖の習慣が定着した」
「え!?江戸時代のギャルファッションのブームがそのまま現代の文化になっちゃったの!?」
「・・・案外、文化ってそんなもんだぞ。因みに、振袖が未婚女性の第一礼装になったのは明治時代からだ」
「へ~!」
「和装には着物から小物にいたるまで格がある。下手な物を着ると大恥かくから、詳しい人間に相談するんだな。俺はその手の知識はさっぱりだし」
「・・・じゅーぶん詳しい気がするけど・・・。着る物はお祖母ちゃんに選んでもらうよ」
「それが良い」
「でも、振袖って、『私は未婚です!』ってアピールしてるようなもんでしょ?きゃー!男の人に声掛けられちゃったらどうしよう!」
「掛けられとけ、掛けられとけ。ついでにブーケも貰って早く片付いちまえ」
「がーーん!!ひ、酷い!冗談に決まってるじゃん!私はメガネ君一筋だもん!ちょっとくらい妬いてくれても良いじゃない!」
「誰が・・・」
『静かに!!』
「ひゃっ!ごめんなさい・・・」
「また怒られた」
「しくしく。もう帰る!メガネ君の意地悪っ!絶対頼まれたって私の振袖の写メ送ってあげないんだからねえぇぇーー!!」
「見たくないし!つーか、図書室でドップラー効果つけながら走り去るなよ・・・」
・・・・・・
「・・・頼まなくたって送ってくるクセに」




