12話『メガネ君と桃太郎(後編)』
「それでは、桃太郎のお供の選出方法だが・・・」
「前編参照!」
「有力なものが二説ある」
「どんなの?」
「一つ目は、裏鬼門に起因する説だな」
「うらきもん?」
「もし、鬼門から化け物が攻めて来るとしたら、有馬なら何処の守りを固める?」
「へ?そりゃ・・・鬼門の対面になる場所でしょ」
「そうだな。鬼門からの禍の侵入を防ぐ為には、鬼門・・・東北の対面に位置する南西の方位、つまり裏鬼門の守りが重要になる」
「ふむふむ」
「と、いうことで、桃太郎のお供には、この裏鬼門を守護する動物二匹+保険にもう一匹が選ばれた」
「それが申・酉・戌か~!・・・って、あれ?この図だと、南西の動物は未と申だよ?酉まで入れたとしても、戌は北寄りの西だし、裏鬼門を守るには遠くない?」
「そう、裏鬼門の方位は坤だ。なので、この説は微妙に弱い」
「ふむむ~。じゃあ、もう一つの説は?」
「その前に、桃太郎の生い立ちに触れておこう」
「せんせー、話があっちこっちに飛ぶと混乱するんですけどー?」
「黙って聞かないなら、やめる」
「・・・ゴメンナサイ、続けて下さい」
「ったく。・・・桃太郎は、現在は桃から生まれた事になっているが、江戸時代頃までは『川から流れて来た桃を食べたおじいさんとおばあさんが若返って、桃太郎が生まれた』説が主流だった」
「えぇ!?桃太郎って、おじいさんとおばあさんの実子なの!?」
「そうだ」
「だったら何で『桃から生まれた』になっちゃったの?」
「それは・・・子供に説明しづらいとか、挿絵にし難いとか、そんな事情らしい」
「あ~、確かに絵本にイチャイチャする元おじいさんとおばあさんの絵って載せられないかも」
「この若返りの桃の正体は“仙桃”だとされている」
「せんとう?」
「中国の西の最果てに住む西王母という仙女が育てている桃だ。その実には不老長寿や回春の効果があるという」
「マジックアイテムだ!」
「この仙桃の力で生を受けた桃太郎が常人より優れているのは自明だな」
「・・・もしかして・・・」
「更に、日本でも桃は国生みの神・イザナギが黄泉の国から逃げ帰る際、追っ手の亡者を足止めした由緒正しき聖なる果実だ。つまり桃に守護された桃太郎は最初から鬼を退治する能力を持っていたんだ」
「ち、チート!桃太郎って、最近流行りのチート勇者だったの!?」
「そうだ。呼び方が確立したのが最近なだけで、ジャンル的には最近流行った訳ではない。むしろ王道だ。桃太郎の発生は室町時代とされているが、それ以前から日本に限らず世界中の神話や伝説にもチート勇者は存在する」
「うわ~!チート勇者って、人類普遍の大好きジャンルなんだ!」
「ま、そういう事だ。桃太郎は最初から鬼と戦う能力があったから、自発的に『鬼退治に行く』と言い出したのだろう」
「はぁ~。桃太郎でラノベ一本書けちゃうね!格好いいイラスト付けてお供もイケメン擬人化したら絶対売れるよ!」
「・・・ちょっと腐の側に堕ちそうだな」
「ところでさ」
「ん?」
「桃太郎と鬼退治の因果関係は分かったけど、五行説との繋がりが謎のままなんだけど?あと、お供選出のもう一説って??」
「解らないか?今までの会話の中に答えは全部出てたぞ」
「へ??」
「ふむ・・・。有馬、君は五行説とは何か覚えているか?」
「うん。10話参照!」
「・・・は?」
「えっと、万物万象は木火土金水の五つの要素で出来てるって思想でしょ?」
「そうだ。そして“桃”は五行で分類すると“金”に当たる」
「え!?植物にも五行があるの!?」
「万物万象と言ったろ。物だけでなく、感情や味覚にも五行の振り分けがある」
「へ~」
「更に、仙桃を育てた西王母は別名、金母とも呼ばれ、文字通り西を治める位の高い神仙だ」
「あ、そういえば、西は金だって教えてもらったよね」
「そこで最初に書いた十二支表だ。西・・・つまり金に対応する動物は?」
「・・・あ!申・酉・戌!!」
「これがお供選出のもう一説だ。桃太郎のお供は、全て桃と同じ“金”の動物が選ばれた」
「うわ!鳥肌立った。実は全部“金”繋がりだったの!?」
「そうだ」
「へぇ~!でも、何で金で揃える必要があったの??」
「鬼・・・つまり丑寅の寅は木、金は木の相剋だから金で揃えたといわれている」
「そーこく?」
「相手の要素を抑え弱める関係の事だ」
「木は金に弱いって事?」
「そうだ。逆に相手の要素を高める関係を相生という」
「私とメガネ君の関係は勿論、相」
「剋だな」
「しくしく。ふぁ~。色々詰め込み過ぎて頭がパンクしそう!でも、桃太郎にしっかりした裏設定があるのは理解したよ」
「良かったな」
「あ、そーいえば」
「ん?」
「桃太郎にはお姫様が出てこないよね。ほら、昔話って大体は拐われたお姫様を助けるために悪者退治に行くじゃん?」
「ほう。良く気付いたな。実はそれが桃太郎最大の謎なんだ」
「謎?」
「君の言う通り、大抵の昔話は悪者退治と嫁取りがワンセットなのだが、桃太郎には嫁取り話が存在しないんだ」
「どうして?」
「物語成立時に編者が入れ忘れたのか、それとも意図的に抜いたのか・・・」
「それとも桃太郎がモテなかったのか・・・」
「英雄に失礼な。一応、美丈夫の設定だぞ」
「じゃあ女性に興味がなかったとか・・・」
「だから腐のジャンルに堕とすなって」
「でも、財宝ザクザクでお金持ちのイケメンが結婚しない理由がないじゃん!」
「だから最大の謎なんだよ」
「うは~。奥が深すぎ桃太郎!・・・あ、そろそろ帰らなきゃ!」
「帰れ帰れ」
「冷たいなぁ。追い返さないでよ」
「こっちは喋りすぎて疲れてんだ。早く休ませろ」
「しくしく。・・・ね、メガネ君」
「ん?」
「メガネ君の物語には嫁取りがついてくるよ」
「は?」
「『メガネ君は美花ちゃんと末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』で終わるの!じゃ、またね!」
「あ・・・おい!」
・・・・・・
「だから、俺の名前はメガネ君じゃないっつーの」




