1話『メガネ君と柴刈り』
「あ、居た居た!メガネくぅ~ん!」
「・・・大声出すな。ここは図書室だぞ」
「あはは、ゴメン。メガネ君に再会した感動で、つい」
「同じクラスで朝から帰りのホームルームまで一緒なのに、何が再会だ。それに、俺の名前はメガネ君じゃないと何度言えば・・・」
「知ってるよぉ。伊達尋人君」
「そうだ」
「通称ダテメガネ」
「そんなあだ名は存在せんし、ダテじゃない。視力0.2」
「あ、今の眼鏡をクイッてやる仕草カッコいい!」
『静かに‼』
「ひっ!ゴメンなさいぃ」
「・・・ほら、怒られた。いい加減にしないと司書の先生に追い出されるぞ」
「うぅ・・・それは困る。メガネ君との甘い一時を奪われるなんて」
「俺には辛く無駄な時間だ」
「ひっど!ってかさ、メガネ君は私の名前知ってる?」
「有馬美花」
「わぁ!覚えててくれたなんて嬉しい!」
「よく赤点補習の掲示板に名前が貼ってある」
「ぅぐっ。それは記憶から消して。・・・ってか、メガネ君何読んでるの?」
「源氏物語」
「うっわ、ぶ厚っ!しかも現代語訳無しじゃん」
「面白いぞ?」
「無理~。私、古典の成績は最悪だもん」
「古典の成績“も”だろ」
「がーん‼」
「君にはアレくらいがお似合いじゃないか?」
「アレって・・・も、桃太郎!?何で絵本が高校の図書室の棚にあるの!?」
「挿し絵が有名な画家で芸術性が高いんだと」
「あ、ホントだ。挿し絵ちょー綺麗!」
「結局読むのか・・・」
「・・・」
「・・・」
「ねー、メガネ君」
「何だ?」
「ここに『おじいさんは、やまへ しばかりに』って書いてあるじゃん」
「ああ」
「おじいさんの職業って庭師?」
「はぁ!?」
「だって芝刈りしてるんでしょ?芝生整えるのって庭師の仕事じゃん。あ、もしかしてガーデニングが趣味とか!・・・って、メガネ君、何で頭抱えてるの?」
「・・・ド阿呆」
「ふぇ!?」
「『芝』じゃない、『柴』だ」
「しば??」
「庭に生えているのが『芝』。じいさんが刈りに行った『柴』は、野山に生える丈の低い雑木の事だ。火にくべる燃料にする」
「えぇ~‼」
「馬鹿、声がデカイ!」
「った!本の角で叩かないでよ!」
「口で言って解らないから実力行使に出たまでだ」
「うぅ、イケズ!でもそんなメガネ君も好き!」
「・・・君は変態か」
「でも、柴が芝生じゃなかったなんて、衝撃の新事実だわ!」
「全く新じゃないし。因みに柴犬は、『小さい』という意味の『柴』から名付けられたという説がある」
「えぇ!?芝生の上をゴロゴロ転がってるイメージだから芝犬じゃないの!?」
「・・・・・・それはちょっと可愛いな」
「ん?何か言った?」
「別に」
「でも、今日は良い事知ったわ!早速柴の意味をマミにも教えてあげなきゃ!」
「スマホは室外で使え。つーか、そんな情報マミさんとやらもいらんだろ」
「あー!メガネ君酷い!私以外の女子を下の名前で呼ぶなんて‼」
「あのなぁ・・・」
『静かに‼』
「ひぇっ」
「また怒られた・・・」
「あっと、バイトの時間だ。行かなきゃ」
「・・・君は一体何しに来たんだ?」
「メガネ君に逢う為に決まってんじゃん!明日もお喋りしよーね。バイバイ!」
「あ、コラ!室内は走るな!もう明日は来んなよー‼」
・・・・・・
「・・・たまにならいいけど」