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俺が噂のジミー・ブラウン 3


 ジミーが万屋のある裏通りに戻ってきた時には、すっかりと陽が落ち辺りは暗くなっていた。ジミーはズボンのポケットに両手をつっこみ、裏通りにある辻売りの屋台や街娼を冷やかしながら、ブラブラ歩いていた。外れに近付くにつれ店や屋台がまばらになっていく。

 明かりがわりになる屋台や酒場などの明かりがなくなるころ、前方にある小屋の辺りで、ジミーは闘争の気配を感じた。

 小屋の辺りは外れにあるため、月明かりの薄暗がりの中、数名の者が争うのがわかるのみだった。


「おい、喧嘩なら他でやれ、ひとん家の前で迷惑だぞ」


 のんびりした声でジミーが、争っている者達に声をかける。


「旦那、俺だ。バットだ!」


 小屋の前にいた影が叫んだ。


「なんだバットか、喧嘩なら他所でやれ他所で! 近所迷惑だぞ」


 ジミーがなおも、のんびりと他人事のように言う。


「なに言ってんだよ! 狙われてるのは旦那だぞ!」


 バットが険のある声で怒鳴った。


「ほう、俺を狙ってねえ」


 ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、ジミーがゆっくりと近付いていくと、小屋の前にひとり、バットの近くにもうひとり黒装束の者が転がり、どちらも首筋にナイフが突き立っているのが見えた。


「おいおい、物騒な連中だな。知ってるのか、このザッカラでは武器のたぐいは、所持しているだけで重罪なんだぜ」


 バットや武装した黒装束の賊を見渡して、ジミーがにやりと笑う。


 ジミーがへらへらと笑っていると、バットを囲むように立っていた賊達の中の二人が、ジミーに向かって、目にも止まらぬほどの早さで迫る。

 しかし、ジミーが右手をポケットから出し、小指の先ぐらいの大きさの鉄球を二度親指で弾く。すると、その二人はジミーに届く寸前に、崩れるように地に転がった。


 それを見た、黒装束の賊達のリーダーらしき者が、後方から前に進み出る。


「指弾か……お前が死なずのジミー。ジミー・ブラウンだな」


 そのリーダーらしき男が、低い声でジミーに話しかけた。


「俺のことを知ってるのか。軍にいた頃のとおり名を……お前ら誰だ」


 顔から表情を消し、ジミーが鋭い視線をおくる。


「あんたらうるさいよ! 揉め事なら他所でやりな!」


 リーダーらしき者とジミーが睨みあっていると、近所の者なのか、近くの家屋の窓から怒鳴り声が通りに響いた。


「ふっ、どうする。このままだと騒ぎになるぜ」


 ジミーが表情を緩めて、またへらへらと笑いを浮かべる。リーダーらしき男はしばらくジミーを睨み付けた後、周りの者達に合図を出し闇の中にすっと姿を消した。


「おーい、こいつらどうするんだよ。あれっ、」


 バットが地に転がってる賊達を指差し叫んでいたが、いつのまにやら転がっていた賊も消えていた。


「けっ、なんだあいつら……俺の一張羅がだいなしだぜ」


 ぼやき声をあげるバットは無傷だったが、真っ赤な上下の服があちらこちら切り裂かれて、ぼろぎれのようになっていた。


「しかし、あいつらは脚力、いや速度に関するギフト持ちだったようだが、よく無事だったな」


 ジミーが驚いた顔で、感心したように訊ねる。


「へへっ、あいつらがどんなに速くても、俺にはあたらねえよ」


 鼻を擦って、バットが得意気な顔をする。


「ほう、それはお前のギフトに関係しているのか」


 ジミーが物問い気に顔を向ける。


「まぁな……旦那になら教えてもいいか。俺のギフトは匂いなのさ」


「匂い? 嗅覚のギフト?」


 ジミーが片眉をあげ、不思議そうにバットを見つめる。


「へへへ、嗅覚もそうだが、俺にはヤバイ事や場所なんかも匂いでわかる。調子のいいときなんかは、前以てわかったりするのさ。だから相手の動きもわかるし、どうかわせばいいのかとかもある程度わかるぜ」


 バットは嬉しそうに鼻をひくひく動かし、自慢気な様子を見せている。


「ほう……予知と気配察知を組み込んだ嗅覚か、面白れえギフトをもってるな。それにしては、あっさり囲まれていたようだがな」


 バットが得意気な顔を一転させ、ばつが悪そうに顔をしかめて曇らせた。


「それを言われると辛いが、旦那のせいでもあるのさ。旦那の小屋の前に立ったときから、どうにも嫌なヤバイ匂いがプンプンしていたからな。それがずっと続いていやがるせいで調子がおかしいのさ」


「嫌な事を言うやつだな。まるで俺が臭い匂いの元みたいじゃねえか」


「まったくその通りだぜ。旦那といると、まるで猛獣の檻の中にいるみたいだ」


 バットがジミーの周りで、クンクンと匂いを嗅ぐ真似をして顔を歪めた。


「犬コロみたいな野郎だな」


 バットの様子を見たジミーが嫌そうに顔を歪めた。


「それで旦那、ちゃんとグラントさんに俺の話をしてきてくれたのか」


 バットが期待のこもった目で見詰める。


「あぁ、ちゃんと話したさ。だが、お前の聞き込んできた話しによってはまた変わるかもな」


 にやついた顔でジミーが答えると、嬉しそうにバットが話し出した。


「本当かそれ、俺はちゃんとすげえ話を聞き込んできたぞ。まずは、“酔いどれ亭”の親父に聞いてきたが、マークに家出の兆候はなかったようだし脅迫なんぞもないらしい、それであちこちの酒場のマスターに噂話を聞いてまわると、最近になってガキの行方不明や家出が、かなり多いのがわかった。どうもその数が百をこえそうな勢いだ。それで、近くの噂になってる行方不明のガキ達の周辺で聞くと、どいつも今年10歳になったガキばかりだった」


「……10歳か、10歳といえば、ギフトの儀式……で、他には何か聞いてないのか」


 ジミーが腕を組み、思案しながら先を促す。


「それで俺は、それだけの数のガキがいなくなってりゃ、警衛隊でも騒ぎになってるかとおもって、表通りにある詰所を覗いてみた。すると、衛士共はそれどころじゃないようだ。なにかあると思って若い衛士に握らせると、どうやらギルドの評議会議長のガキも行方不明になってるらしく、衛士達はその捜索でてんてこ舞いのようだった。しかし、旦那に出会ったおかげでえらい散財だぜ。ちゃんと、グラントさんによろしく言ってくれよ」


 バットが最後はボヤキを交えて話し、肩をすくめた。


「まさか、議長のガキも10歳か」


「その通り。どうも、10歳になったばかりのガキを集めているようだぜ。なんとも妙な話だ」


「やはり、ギフトが関係してるのか……他はもうないのか」


 バットが困惑した顔をすると、ジミーは右手で顎をさすりながら考えこむ。


「うーん、こいつは関係してるのかわからないが、最近マーロン帝国からきた商隊の中に、結構な数の軍属らしき者が混じってたって話だ。俺が聞いた話はこれぐらいだ。旦那、どうだよちゃんと仕事してるだろ。俺は匂いで誰にどう聞けばいいかわかるからな。グラントさんにもできる男だと伝えてくれよ」


 バットが胸を張り、得意気に話す。


「帝国からの商隊……モーガン商会か、さっきの連中も、もしかすると」


 ジミーが誰にいうともなく呟き、鋭い目をバットに向ける。


「バットお前、目をつけられ、尾行されたのじゃないだろうな」


「そんなヘマはしねえよ」


 バットが心外だといわんばかりに、口を尖らせ答える。


「なら、婆さんの線か……バット、婆さんの所に行くぞ」


 ジミーとバットは、裏通りでマルグ婆さんが、いつも辻占いをしている場所へと急いだ。


「ところで、旦那のギフトはどんなのだ」


 バットが並んで走りながら、興味深そうな顔をジミーにむける。


「俺か……俺はギフトなんぞもらってねえからな」


 ジミーが前を向いたまま呟くように答えた。


「またまた旦那、そんなはずねえだろ。誰でも……それとも儀式をうけてねえのか」


 バットが訊ねるが、ジミーはそれ以上の質問を拒否するように、厳しい顔をしていた。

 その横でバットが、ぶつぶつ文句を言っていると、マルグ婆さんがいつも占いをしている場所にきていた。


 裏通りの中央になるその場所は、少しひらけた広場になっている。様々な屋台がたち並ぶ賑やかな場所で、いつもマルグ婆さんが簡易テントを出している所は、焼き鳥の屋台と立ち飲みの屋台の間にあった。だが、今日はテントがたたまれたままだった。


「婆さんはいないようだな」


 ジミーがたたまれたテントを見詰め、眉を寄せて呟いていると、隣の屋台から甘いタレの焼けた香ばしい匂いが漂ってきた。


 隣の屋台で、拳大の鶏肉を串で焼いてるのを眺める。


「そういえば、昼から何も食べていなかったな。親父、その焼けてる串焼きを4本ほどもらおうか」


 そう言うと、振り返ってニヤリと笑い、バットを見詰める。


「はぁ、また俺かよ。旦那、本当にグラントさんに話をしてるのだろうな」


 バットがため息混じりに金を払った。


「それで親父、隣の婆さんはどうした」


「さっきまでいたが、いつのまにかどっかに行ったな」


 親父が鶏肉を焼きながら答える。


「ふーん、何か妙なことはなかったか」


 ジミーが鶏肉を頬張り、それとなく聞く。


「そういや、マルグ婆さんが店を始めるとすぐに妙な連中がきたな。ありゃ警衛関係か軍関係の……旦那達は何者だよ」


 屋台の親父が、立ち昇る串焼きの煙りの向こうから、ジロリと睨んだ。


「俺たちか、心配するな。俺達は婆さんの知り合いだよ」


 ジミー達は親父に手を振り、屋台の前から立ち去った。


「婆さん、家にでも戻ったのか」


 ジミーが呟き、3本目の串焼きを頬張り通りを歩るき出した。


「旦那、金を払ったのは俺だからな。俺にも食わせろよ」


 バットが最後に残った一本に手を伸ばすと、近くの屋台の陰から伸びた手が最後の一本を掠め取った。


「ヒャヒャヒャ、なんだい大の男が二人して、しけた顔で歩いてさ」


 驚く二人が振り向くと、マルグ婆さんが鶏肉を頬張りにやにやと笑っていた。


「婆さん、無事だったか」

「婆さん、俺達の事を喋ったろ」


 バットとジミーが同時に声をかけた。


「しょうがないだろ。あんな物騒な連中が相手だったら、喋らなかったら今ごろあたしゃ、ここに立っていないよ」


 マルグ婆さんが少し拗ねたように言う。


「婆さんが拗ねた素振りしてもちっとも可愛くねえぞ。それよりどんな連中だった」


 ジミーが、ジロリとマルグ婆さんを眺める。


「相変わらず口の悪い男だねえ。あたしに聞きにきた連中は、動きがちゃんとした訓練をした感じだったねえ。なんだったら自分で確かめたらどうだい。今もあたしらを監視してるからね。そのおかげであたしも、店をたたんで隠れてたのさ」


 マルグ婆さんが白く濁った瞳を周りに向けた。


「3人といった所か、遠視のギフト持ちかもしれんな」


 ジミーも見るとはなしに、周りを見渡して答える。


「いや、4人だよ。ほら、右斜め上あの建物の屋上にもいるよ」


 マルグ婆さんが訂正するように答える。


「ふんっ、確かに……二人共ちょっと待ってろ。片付けてくる」


 鼻を鳴らしたジミーが、人混みを流れるようにすり抜け、たちまち見えなくなった。


「旦那、大丈夫かな」


 ジミーが消えた方を向きながらバットが呟く。


「ジミーなら大丈夫だよ。あー見えて、元は帝国の特戦隊にいたからね。滅多なことじゃやられないよ」


「えっ、まじでか」


 バットが口を開けて驚く。


「あんたの所のボスが隊長で、ジミーが副官だったらしいよ」


「えぇー! グラントさんも……帝国の特戦隊といったら帝国の精鋭中の精鋭、大陸最強といわれる部隊だぜ……」


 バットは最後には絶句して、ジミーの消えた方向をもう一度眺めた。


「おや、なにも知らなかったのかい。こりゃまずかったかねえ。あたしから聞いたことは内緒だからね」


 固まるジミーに、マルグ婆さんが話しかけた。


     ◆


 気配を消したジミーが暗闇の中、屋上にいた男の背後に忍び寄る。男は何かを探すように、キョロキョロと広場を眺めていた。


「もしかして、俺を探してるのか」


 ジミーがにやりと笑って声をかける。

 驚いた男が振り向くと同時に、ジミーが右拳を男の顎に向かってカウンター気味に振り抜く。

 すると、男は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


 ジミーが男の持ち物を探るが、身元を示す物や手掛かりになる物は何も持っていない。


「ちっ、持ってるのはコンバットナイフが一本だけか」


 ナイフを右手で玩びながら男をながめる。


 男は短く刈り上げた短髪で、鍛えあげられた体をしていた。


「どう見ても軍の関係者だな。口も割りそうにないな」


 ナイフを男の首筋にあてようとするが、「ふぅ」とため息を吐き出しナイフを引っ込めた。そして、近くにあった洗濯物をぶら下げる革ひもを見つけると、首を振りつつ男を縛り上げた。


「運のいい野郎だぜ。昔の俺なら……」


 ジミーは転がる男を眺めて呟くと、闇の中にまた消えていく。



 立ち飲みの屋台にもたれるようにして男が、鋭い視線を少し離れた所にいるバットとマルグ婆さんにおくっていた。

 その横を気配を消したジミーが、影のようにすり抜けながら親指で鉄球を弾くと、男が崩れるように倒れた。


「親父、こいつ酔っぱらって倒れたぜ」


 ジミーが屋台の親父に声をかける。


「あぁ、もう金はもらってるからほっとけばいいさ」


 屋台の親父が、邪魔くさそうに顔をしかめる。


「なんだこいつ、ガタイはいいが、もう酔っぱらったのか情けねえ」


 周りで飲んでいた男達が大笑いしていた。



 バット達から少し離れた場所にあるベンチに、男が二人腰掛けていた。


「おい、さっきから屋上にいたはずのサムの姿が見えない」


 片方の男が眉をしかめ、もうひとりに声をかける。


「そういや、トムの姿も見えないな」


 二人が屋台の辺りや屋上を眺めていると、片方の男の眉間に鉄球がめり込みスパークする。

 男が崩れ落ち、もうひとりの男が転がる鉄球を驚いて見詰めた。


「その鉄球は物に当たると、雷が発生するのさ」


 もうひとりの男の背後から声がかかると同時に、男の太い首に背後から伸びた腕が絡みつく。


「おいおい、こんなところで寝てたら風邪をひくぞ」


 ジミーが男を絞め落とし、周りを窺い、誰もこちらに注目していないのを確めると、その場から離れた。


     ◆


「待たせたな。騒ぎになる前にここを……なんだ、どうした」


 ジミーがバット達の所に戻ると、マルグ婆さんが興奮してバットが困惑していた。


「旦那、婆さんがどっか安全な所に匿えってうるさくて」


「当たり前だろ。あんた達が物騒な事件を私に持ち込み巻き込むから、あたしまでたちのよくない連中に目をつけられたんだよ。事件が片付くまで安全な場所を提供するのが当然じゃ」


 苦笑するバットに、マルグ婆さんが絡んでいた。


「婆さん、まさか酔っぱらってるのか」


 マルグ婆さんの手にはいつのまにか、酒の入った紙コップが握られていた。


「ちっ、バット。婆さんに酒を飲ませたのか。婆さんは絡み酒だからしつこいぞ」


「喉が渇いたとうるさいからつい」


 ジミーが顔をしかめると、バットがばつの悪そうな顔をする。


「仕方ねえな、バットお前の家にでも連れていってやれ」


「なっ、それは困る。俺の所は狭い上に幼い妹が」


 手を振り必死に断ろうとするバットに、 マルグ婆さんが興味を示す。


「なんじゃ、お前には妹がおるのかい。なら、あたしが面倒を見て上げようじゃないか」


「婆さんが……できんのかよ」


 バットが首を傾げながら迷うような素振りを見せた時に、ジミーが何かを思い付いたように言う。


「そういや、バットの妹はいくつだ」


「えーと確か、この間儀式を受けたから今年で10歳に……」


 答えながらバットがぎょっとしたように目をむくと、突然走り出した。


「おい待てバット!」


 ジミーも慌てて後を追いかけようとするが、マルグ婆さんがジミーにしがみついた。


「私をおいてどこにいくつもりじゃ」


「ちっ、仕方ねえ」


 片腕で婆さんを抱えてジミーが走り出す。


「こらっ、あたしゃ荷物じゃないよ。もう少し優しく扱いな」


 月夜の下、ジミーはマルグ婆さんの文句を響かせ、バットを追いかけた。



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