第76話『first kiss』
「いや〜〜〜しかし、派手にやっちゃったもんだね〜〜〜」
校門の傍で気絶している巨漢の五里沢を見ながら頭を掻きながら言う小田原。やったのはお前だ。
「お、お姉ちゃん……ど、どうしよう……?」
エリスは不安そうな顔でオロオロしながら私に尋ねる。この出来事が他の教師に伝われば………停学……いや、最悪、退学ということも考えられる………
「エリス、あんたは先に教室に行ってなさい」
だから私はほとんど巻き込まれた形になったエリス(と麻里先輩)を教室に行かせることにした。
「えっ……?だ、だめだよっ!!!お姉ちゃん!!!私も一緒に………!!!」
「いいからっ!あんたは麻里先輩と……」
「ん?あ、いいよいいよ、この件は俺がちゃんと処理しとくからさ。3人とも教室行きなよ」
「………はぁ?」
私がエリスを説得しようとしていると小田原は淡々とそんな事を言ってきた。
「……あんた、一体何を………」
「まぁ、いいじゃん。この事は全部俺が悪かったってことで。ていうか、俺が悪いんだけどね、ハハハ」
……つまり、なんだ。この場は全て任せて私達は見て見ぬフリをしろと?……エリスと先輩はそれでいい、けど……
「ふざけないで。冗談じゃないわ、あんたに借りを作るなんて溜まったもんじゃないわ」
少なくとも、目の前の男と同じような事を私もしようとしていたのだから私も罪に問われてもおかしくない。
………個人的にこの男を信用できないのもある。
「ふ〜ん……まっ、俺はいいけどね。そういうちょっと強気な所も俺好みだし♪」
「うるさい、とっとと職員室に行くわよ」
そして私と小田原はエリスと先輩に背を向け、職員室に向かった。
「お、お姉ちゃん!!!わ、私も行くっ………!」
「あ〜あ〜、エリスちゃん、落ち着きにゃさいって。ああ言ったら最後、アリスちゃんは頑固だからねぇ〜〜
〜……行っても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!!!!!!!!!」
……少しは役に立つわね、麻里先輩。遠くから聞こえるエリスの不満そうな声を聞き流して私と小田原は職員室に向かった。
「いや〜〜〜俺、草抜きなんて地味な天罰、幼稚園以来だよ!!!いや〜〜〜しかし、身体を動かすっていいよねぇ。俺、ヘビースモーカーだから久しぶりに身体動かすのってしんどいんだよねー」
職員室でこってり絞られた私と小田原は学園の裏庭の草抜きと停学1週間という素敵なプレゼントを頂いた。
そして、現在、その草抜きをやっている。無論、奴とは話すことなどこれぽっちも無いので黙々と作業に没頭していた私だが、その間、何かやたら絡んでくるので私は正直イライラしていた。
「………あんた、なんでそんなに嬉しそうなのよ。何?それはアンタ流の私へのあてつけ?嫌がらせ?私に喧嘩売ってんの?」
「んー?だって、アリスみたいな綺麗な女の子と草抜きできるなんてすんげぇ嬉しいもん。カンドーもんだよ。男だったら誰でも願うシチュエーションじゃん」
何だ……この軟派男。
「………ぶん殴るわよ?」
「ふ〜ん?この細い腕で?無理だと思うけどなぁ〜〜〜」
「っ!?」
小田原はいつの間にか私の背後に回り、私の右腕を掴んでいた。
「な、何すんのよっ!!!!!」
ドスッ!!!
「うぐっ!?」
私は小田原の鳩尾に左腕の肘を思いっきり入れた。小田原はその場で蹲った。
「いててて…………へへっ、結構いいもん持ってんじゃん、アリス………」
ゆらりと起き上がる小田原………結構、ダメージあると思ったのに………この男………
「うるさいっ!!!こ、これ以上こっちに来るんじゃないわよ!!!」
私は少し間合いを空けようと奴から離れようとした………が
ガシッ
「キャッ………!?」
ワケも分からぬまま奴に押し倒されていた。それは一瞬の出来事で………私には何が何だか分からなかった。
「………」
そして私を押し倒した奴は………真顔で口元だけ歪めていた。それは………何か獲物を見つけたときの………人間であって人間でない生き物………何かに取り付かれた曰く形容しがたい化け物………その顔を見た私は血の気が引く感覚を覚えた。
「………」
「っや、………っ」
奴の顔が私にゆっくり近づいていく………ぬらり……と、私の身体に絡みつくような奇妙な感覚に寒気を覚えた………何、よ……コレ………う、動けない………
「………」
「っ……ぁ…ぁぁ………」
怖い………悲鳴を上げたいのに………声すら出ない………誰か………誰か………助け………て………
ぬるっ………
「っん!?」
………この少し湿った肉の感覚は……………奴の………唇………?
「………」
ぬるっ………ぬるっ………
「ぃ……っ!」
ぃ…やっ………や、め……て………
声が出ない………出ない………目から…………温かい………あれ?私、泣いて………
「………ふぅ」
………
「………ごちそうさまでした、と」
………
「んじゃあ、またねっ♪アリス♪」
………タタタ………
……あれ?……そっか、私………
奪われたんだ………
私は日が暮れるまで草の上で仰向けで静かに泣いた。