第75話『境界線』
「おいっ!!!そこの3人っ!!!遅刻だぞっ!!!職員室で遅刻届出していくんだな!!!いいな!?……ったく、最近のクソガキは教師を馬鹿にしとる……ブツブツ」
五里沢は遅刻した3人(エリス、麻里先輩、謎の男)に向かって馬鹿でかい声で罵った。
……え、ちょっと……今のエリスに対して謝罪も無し………?……上等じゃない。
「………」
「………え?」
私が一言文句でも言ってやろうと五里沢の前に出ようとした所で謎の男に手で制される。
「おい、ゴリラ」
「……あぁ!?」
ドスッ………
「がぁっ!?」
「………っ!?」
謎の男は五里沢を呼び止め………五里沢が振り向いた瞬間、鳩尾に己の拳をめり込ませていた。
そして、うずくまった五里沢の背中に足を乗せ、踏みつけていた………まるで蟻でも潰すかのように……
「ちょ、ちょっと!あんた!いくらなんでもそれはやりすぎよ!!!止め……っ!?」
「………」
私はその男の顔を覗き込んでゾッとした。
………奴の顔は表情1つ無い……真顔だった。
「……ねぇ、あんたさぁ……遅刻で俺達を注意する前に言う事があんじゃないの?」
……何だ、この男………冷静過ぎる………何で……こんな………
「き、貴様ぁ………きょ、教師に対して………こ、こんな事してタダで済むと思って………がぁ!!!」
グリグリ………キシキシ………
謎の男はさらに五里沢を踏みつける………骨のきしむ不快な音が聞こえる………
「クックク………へぇ、タダじゃ済まないないんだ?じゃあ、何で返してくれるんだろ?楽しみだな、っと」
グリグリ………キリキリ………
「あっ、あ、ぐばぁ………ふ、ぐ……ぁ」
五里沢は既に謎の男の声は聞こえていないようだった………さっきまでの余裕そうな顔はどこに行ったのか?見る見る耐え難い苦痛と恐怖の表情に染まりつつあった………
「……ねぇ、教・え・て・よ・?」
グリィ!グリィ!………ギリギリ………
「……ぁぁぁああああ!!!あ………ぁぁああああ!!!!」
止めないと………この男を止めないと………そうは思いつつも私はその場から動く事ができなかった………私は怖かった。その男の底知れぬ恐怖が………
「や……も、もう止めてくださいっ!!!!!」
パチーーーーーン!!!!!
………朝の校門で乾いた音が響き渡った。もう、既に授業が始まっていたせいかやけにここだけ静かな気がする。まるでここだけ温度差が違うような錯覚だった。
「………はぁ、ハァ」
………エリスが謎の男の頬を引っ叩いた。
「………」
その男は倒れはしなかったが、下を向いているようで表情は読み取れない。
「え、エリス………」
私は機転を利かしてエリスを庇うように謎の男の目の前に立った。
「………」
その男はじっとしていた。……くっ……何で私、こんなに………振るえてんのよ………し、しっかりしないと………私は………エリスの姉なのだから………
「………っ」
まだ、その場から動かなかった。………五里沢は奴の傍でうつ伏せで倒れている。どうやら、気絶しているだけのようだ。
「………な、なんとか言いなさいよ………」
私は終に痺れを切らしてその男に声を掛けた………奴の動きによってはここからせめてエリスだけでも逃がすという選択肢も考えなくてはならない。
「………」
そして奴は顔をゆっくりと上げ………
「………っ」
「いや〜〜〜♪今のビンタは効いたね♪君、名前なんていうの?制服からして俺と同じこのガッコに通ってるっぽいけどさ♪」
………
「………は、はぁ?」
な、何……この男?よ、予想外の反応が返ってきたわよ?さっきとキャラ変わってんじゃない………(汗)
「え、えっと………エ、エリスです………」
「へぇ〜〜〜エリスちゃんかぁ〜〜〜♪かぁいいね♪」
なんだこの爽やか軟派野郎は………(汗)
「で?君は?」
「あ、あたし………?」
「ん♪そっ♪」
答えるべきか否か………この態度の急変には少し戸惑ったが………ここは答えておくべきか。
「………………アリスよ」
「ふ〜〜〜ん、アリスちゃんか〜〜〜………ちょっとツンデレっぽい顔してるけどかぁいいね♪」
「だ、誰がツンデレよっ!!!」
「そんな初々しい顔も素敵♪」
「〜〜〜っ(///)」
な、何なんだ………この男は………それに何?この………してやられてる感は………な、なんかムカつくわね………
「ハァー………はふぅ〜〜〜……や、やっと着いたにゃ〜〜〜………」
そして、今頃になって麻里先輩はようやく校門に着いた。遅すぎ。
「で?こっちのおちびちゃんは誰?」
「お、おちびぃ!?」
この男、さらりと禁句を言ってしまった………
「やいやいやいやい!!!!!!!!!!あちしを誰だと思ってる!!!!!あちしは天下の八尾麻里……」
「へぇ〜、麻里ちゃんか。ヨロシク♪」
「うん、ヨロチク♪モグモグ………」
謎の男から差し出されたドラ焼きを受け取りいきなり上機嫌になる麻里先輩………この人は子供か……(汗)
「あ、そうそう………俺の名前まだ言ってなかったね」
………今思えば、私はこの時に気付くべきだった。
「俺、小田原浩二ね♪ヨロシク♪」
………この男の『裏の顔』が垣間見えたこの瞬間が最後のチャンスだったのかもしれない。