第59話『届かない声』
更新遅れてすみません!(汗)
流れ込むーーーーー淀みなく
流れ込むーーーーー溢れ返る
流れ込むーーーーーそして、崩れていく
お兄ちゃんの『記憶』という名の『海』をがむしゃらに泳ぎ続けてどのくらい経っただろうか………
泳げば泳ぐほどボクの身体、精神に流れ込むお兄ちゃんの『記憶』………『過去』………
………ボクは形容しがたい苦しみを味わった………
頭が割れそうに痛い………痛い、痛い、痛い、イタイ、イタイ、イタイ………
これが………これがお兄ちゃんが今まで辿ってきた道………
こんな………こんなの………
………
無理………ボクが………ボクがお兄ちゃんの『記憶』を『共有』出来るわけが無い………
………
考えてみれば分かりきった事だった………
『過去』に味わったお兄ちゃんの過ち…苦しみ…後悔…そんなお兄ちゃんにしか分からない苦痛を赤の他人であるボクが簡単に分かるわけが無い………
たとえ、分かった気でいてもそれはお兄ちゃんの心の中に土足でズカズカと踏み込むのと同じ………
最低だ………
いや………すでにボクは最低な事を………お兄ちゃんの『全て』を知ってしまった………
鈴ちゃんの事………雪美ちゃんって言う子の事……
………
『……つまり、夏美ちゃんもそのコージ君と鈴ちゃんの大切な『思い出』を『共有』しなくちゃいけないんだよ?…夏美ちゃん、あなたにその覚悟が………ある?』
………
やっぱりあの子の言うとおりだった………
ボクには荷が重過ぎる………できない、できないよお兄ちゃん………
ああ、ダメだ………意識が飛びそう………辛い、熱い、苦しい、吐き気がする………
いっぺんにお兄ちゃんの『記憶』が流れてきたから………
………
でも、ボクにはどうする事もできない………
助けてあげることも………一緒に過去の『重荷』を背負っていく事も………
………
あぁ、もぅ……ここにいたくない………
ごめんね……お兄ちゃん…
ボク………
………
とうにボクは泳ぐのを止めた。
事実上、お兄ちゃんと鈴ちゃんを救う事を諦めたのだ。
………
分かってる、自分の中では………
お兄ちゃんを過去の苦しみから解放させてあげる事………
ボクとお兄ちゃんの心が入れ替わっているから………お兄ちゃんと鈴ちゃんを本当の意味での『再会』をさせてあげる事………
………
だけど………
ボクはソレを拒絶している、否定している、受け入れられない。
最初は………この『海』が持つ、苦しみをボクが耐えられないだけだと思った………
だけど………それだけじゃなかった………違う。
ボクは今、はっきりと分かった………別の苦しみがあるっていうことを。
お兄ちゃんと鈴ちゃん………2人が一緒に笑いあう姿を想像してしまう………
『………っ』
ダメ……ッ!そんなの………嫌っ!
絶えられない………ボクが………そんなの………この今、味わっている苦しみの比にならないくらい辛い……
分かっている………その考えがどれだけ身勝手な事であるか………我儘なことであるか………
だけど……分かってしまった自分の気持ちに嘘はつけない………
………
あぁ、早く楽になりたい………
早く解放されたい………この………限りなく広くて深い『海』から………
………
ごめんね……お兄ちゃん、ボク何もできないけど………
………
お兄ちゃん………大好き………
『……やっぱり、あなたには無理だったみたいね………』
『……本当にあなた2年前の私とそっくりね………』
『……自分では何をするべきか分かってはいるけど、つい自分の気持ちを最優先してしまうところ………』
『……本当にそっくり……まるで双子のように………』
『……だから、あなたのその気持ちは痛いほど私にもよく分かる………けどね』
『それじゃあ、結局誰も救えない、幸せになれない』
『友人も…家族も…想い人も……』
『自分自身も………ね』
『あなたはもうとっくに分かっているでしょう?私の事』
『コージ君の記憶の『海』を泳いでいたから……過去に私とコージ君の間で何があったかを』
『……私は自分の気持ちを最優先して挙句の果てには………勝手に1人で死んだ馬鹿な子………』
『だからこんなところにいるのもおかしな話なのだけど………』
『………コージ君は記憶の片隅でまだ私の事を忘れないでいるから………』
『……私はこんな事全然、望んでいなかったけれどね………』
『……けど今、こうやってあなたに『忠告』できる……』
『……このままじゃ、あなたは確実に私と同じ末路を辿ることになる………』
『……けど、安心して…コージ君とあなたは……元の身体に戻れる』
『コージ君とあなたは………ね』
『これがどういう意味かあなたには分かる?……あなたには分からないでしょうね』
『じゃあ、ひとつヒントをあげる………』
『2年前………死んだのは私1人だけ………本当にそう思う?』
『………話はそれだけ。できればあなたには私と同じ後悔をして欲しくなかったのだけれど』
『………もう、時間ね。バイバイ……夏美ちゃん』
『最後に………せめて私と違う未来でありますように………』
(※耕司視点)
「………あれ?」
目を覚ますと………いつの間にか屋上に俺はいた。
「………なんで俺こんなとこで『1人』でいるんだ?」
………う〜む、思い出せん………つい、気持ちよかったから屋上で寝てしまったとか?
「………わからん」
ふと空を見上げるとすでに空色は黒かった。
「………って、もう夜じゃねぇか!!!やっべ!!!早く帰らねぇと!!!」
寮の門限破ったら千里さんこえぇもんな………竹刀でケツ100回叩かれるとか情けなくてしゃーねぇもんな………しかも叩いている最中もニコニコ笑顔なんだぜ?千里さん。……なんか変な気分になっちまうじゃねぇか………はぁはぁ……
「……って、そんな事言ってる場合じゃなかったな」
早く帰らねぇと。
………?なんか大切な事を忘れているような気が………
それに、なんかこの掌に残った『温かみ』はなんだろうな?
………ま、いっか。
(※夏美視点)
ボクは目を覚ますとなぜか教室にいた。
「………百合、起きたよ、夏」
「え?本当ですか!?ミンちゃん!?あ!やっと、起きたんですね♪夏ちゃん♪」
「………ん、2人とも待っててくれたんだ………ありがとうね」
「当たり前ですよ!だって私達は『友達』じゃないですか!」
「友達………うん、そうだね」
何か引っかかる気がするけど………なんでだろ?
「そのまま、目が覚めると1人真っ暗な教室に……!ってのも面白いかもね」
「アリスちゃん、意地悪ですよぉ〜」
「アリスちゃんも残っていてくれたんだね、ありがとね」
「え?いいわよ、それくらい。私、今まで部活してて教室に明かりがついていたからたまたま覗きに来ただけなんだから」
アリスちゃんを見ると格好は制服だったけど竹刀を持っていた。
「………アリスちゃん、剣道部の部員増えたんだよね?」
「……は?何言ってんのよ?今までどうり私と麗奈さんしかいないわよ?」
……あれ?ボクなんでそんな事聞いたんだろ?
「部員2人で部活が成立するってのもすごいですよね……」
「え?だって、麗奈さんのお祖母さんがこの学園の理事長でしょ?なんでもありよ」
「でも……顧問がいないんじゃあ……」
「教頭になってもらったわよ」
「……なんだか激しく暴力の匂いがプンプン漂うんですが(汗)」
「や〜ね〜♪別に嫌がる教頭を脅したりとかしてないから♪」
「したんですねっ!?(汗)」
「失礼ね。嫌そうな顔をした教頭の髪をちょっとむしりとっただけよ。そしたら、素敵な笑顔で顧問になってくれるのを了承してくれたわよ」
「充分酷いような気がします………(汗)」
「………百合、お腹………すいた」
「あ…そうですね。夏ちゃんも起きたし皆で帰りましょうか。………門限破りは……千里さんのアレが待ってますからね………あ、あ……思い出したら寒気がしてきました」
「………ぷるぷる」(ミント)
「………(汗)」(アリス)
あ、あれ?皆、急に顔が青白くなっちゃったけど………どうしたんだろう?(汗)
………何か大切な事を忘れているような気がするけど………
………
『耕司………耕司っ!………耕司ぃ………耕司ぃ…………』
「………?みんな今なんか言った?」
「え?何も言ってないわよ?」
「………言ってないよ」
「私も言ってませんが……気のせいじゃないですか?」
………そうなのかな?
………
…
(※???)
………そして、1人の少女は永遠にその少年を守る事ができませんでした……と。
フフフ………結末は『届かない声』………ですか。
さて、次はどのようなお話を彼女達は紡いでくれるのでしょうか?
この………狂った世界で。
とりあえず、鈴奈編終了です。いかがだったでしょうか?どんな事でもいいので、できれば感想をお待ちしております。次回からはまたコメディが続きます。……なんか最近シリアスばっか書いているような気がします(汗)