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第57話『虚無』

・・・空は薄暗くなり、日も西の彼方に落ちかけた頃ーーーーー

高宮学園の屋上には対面で向き合う制服を着た2人の人間がいた。

1人は背はそこそこ高く少し筋肉がついた男ーーーーーでもなぜかどこかソワソワしており、その姿からはどちらかというと女思わせるような男・・・・・いや実際、中身は女の子だが。

そして、もう1人はその男よりも身長が数10cm低い女ーーーーーしかし、風体は堂々としており、しっかり目の前の男の顔を見つめむしろその姿からはどちらかというと男を連想させるような・・・・・いや実際、中身は男・・・じゃなくて見たまんまの女だが。






その2人ーーーーー村上耕司(諸事情で中身は上野夏美)と市本鈴奈が向き合って話をしていた・・・・・・






「私はあの日から・・・・・絶望と後悔という感情を同時に初めて味わったんだ・・・・・」

「あの時、私が逃げ出していなければ・・・・・・」

「あの時、私が母と向き合っていれば・・・・・・」

「あの時、私があの交差点にいなければ・・・・・・」

「あの時・・・・・・私・・・がっ・・・・・母の代わりに事故に遭っていれば・・・・・こんなこと・・・

・・・・には・・・・・っ!」






(※耕司(中身は夏美)視点)

・・・・・

ボクは下駄箱で転校生の市本鈴奈ちゃん・・・かな?もぅすずちゃんでいいや♪そのすずちゃんからお兄ちゃん宛ての手紙を読んだボクは軽い気持ちで・・・・・お兄ちゃんとすずちゃんの関係が少し・・・ほ、ほんのちょっぴりだよ!?ほんの・・・・・・ほんのちょっぴり気になって・・・・・・自然と屋上へ足を運んだ・・・けど・・・・・・そこに居たのは・・・・・・今にも泣き出しそうな顔をしたすずちゃんだった・・・・・・・・それで・・・・・ボクは・・・・・・ボクはすずちゃんの過去を聞いてしまった・・・・

・・知ってしまった・・・・・『幼馴染の村上耕司』として。・・・ボクは・・・・・ボクが決して聞いちゃいけない話だった・・・・・・だって・・・・・・ボクは何も・・・『できないから』。ボクは・・・・・なんてことを・・・・・なんて取り返しのつかないことをことをしてしまったんだろう・・・・・・軽い気持ちで行くんじゃなかった・・・・・・なんて・・・・・やっぱりボクは・・・・・・バカだな・・・・・お兄ちゃんに言っちゃえばよかった・・・・・・分かっていた事なんだけど・・・・・・・でも・・・・・・・・・

・?・・・・・あれ?・・・・・・なんで・・・ボク・・・・・・お兄ちゃんにこの事を・・・・・言わなかったんだろう・・・・・?・・・わからないけど・・・・・・とにかくこの話はお兄ちゃんに絶対聞いてもらわなきゃいけなかったんだ・・・・・!・・・お兄ちゃん・・・・・・ごめん・・・・・ね・・・・・・けど

・・・・・ボクはこの話に全然無関係なんだけど・・・・・・だけど・・・・・・なんだか・・・・・・すずちゃんの気持ちが・・・・・・少し分かった気がするんだ・・・・・・・・・・ぐすっ






「・・・?耕司?お、おい!耕司!?ど、どうしたんだ!?お前!?いきなり泣き出して・・・・・?」

「・・・だって・・・・・・だって、だってぇ・・・・・・そんなの・・・・・そんなの!つらいよ・・・・・・辛過ぎるよ・・・・・・そんなの・・・・・・ひっく・・・・ひっく・・・・・・」

だからボクは涙を出さずにはいられなかった・・・・・

「お前は・・・・・・昔より随分、女々しくなったな・・・・・・ふふっ、でもどことなく昔よりひとまわり大きくなった気がするぞ・・・・・・そうだな・・・・・・だから私は少し変わったお前にすぐに声をかけられなかったんだ・・・・・・身長もあっという間に私を抜かしおって・・・・・・あの頃は同じくらいだったのにな・・・・・ふふっ、本当に懐かしいな。こうしてお前と話すのも」

ごめんね・・・・・すずちゃん・・・・・・ボクはお兄ちゃんであってお兄ちゃんじゃないんだよ・・・・・

「・・・・・けどな、そうやってお前が泣いてくれると・・・・・・・・・・なんだか嬉しいな・・・・・」

・・・・・

「それだけじゃない・・・・・・お前は・・・・・・・私をそのどん底から救い出してくれたんだからな・・

・・・・・」

「・・・・・・え?」






「あの事故の日から私は狂ってしまった・・・・・・絶望と後悔という名の感情に押しつぶされて・・・・・

当然、兄貴の勇輝も同じだ・・・・・・私と同じように狂ってしまった・・・・・・・・・あれから家に引きこもり・・・・・・部屋から一歩も出なくなった・・・・・私もそうだ・・・・・・もう・・・・・・何も考えたくなかったんだ・・・・・・いっその事・・・・・・私は兄貴に責めて欲しかった・・・・・・・『お前のせいで母さんは死んだんだ!』とな・・・・・・けれど・・・・・・もう、兄貴はあれから一言も・・・

何も私に言わなかった・・・・・・それはまるで・・・・・人形のように・・・・・ただ、生きていたんだ」

・・・・・ボクには想像もつかない世界・・・・・でもそれはきっと誰かに怒られたり殴られたりするよりも辛いことなのかな・・・・・・・

「本当に・・・・・・あの後は目の前が真っ暗だったんだ・・・・・・私も兄貴も・・・・・ただ日々を・・

・・・・『無意味』な日々を・・・・・・無気力に・・・・・・虚無の日々を送っていたんだ・・・・・・」

・・・・・人は・・・日々に・・・・どこかで楽しみを見つけて・・・・・過ごしていく生き物・・・・・・けれど・・・その楽しみも見つけず・・・・・・ただ、生きていたら・・・・・・行き着く先は当然・・・・

「・・・・・もちろん・・・・・私は何度も自殺を考えたさ・・・・・・けれど・・・・・・出来なかった」

・・・・・

「・・・・・ある日、カッターで自分の指先を切って見たんだ・・・・・・自傷だ・・・・・・その指先からは・・・・・・血が噴出していたんだ・・・・・・その時、私は・・・・・・ゾッとした・・・・・・だって・・・・・その色は・・・・・・母のあの時の・・・・・・あの時の色と一緒だったんだ・・・・・・私は・・・・・それから怖くてその色が見れなくなった・・・・・・だから自殺も出来なかったんだ・・・・」

それは・・・・・・一種のトラウマ・・・・・・かな・・・・・・・

「・・・・・私は何もかも怖くなった・・・・・・けれど・・・・・・ある日、ある公園に行ったんだ・・・

・・その公園は今まで兄貴と遊んでいた場所・・・・・夕方になったらいつも母が迎えに来てくれた場所・・

・・・・なぜか・・・・・その場所に来ていた・・・・・・ずっと・・・・・何をするわけでもなく・・・・

砂場の穴をシャベルで掘っていた・・・・・・何度も何度も同じ場所を・・・・・・」

傍から見ていた人はどう感じたんだろう・・・・・・異常な光景に見えたに違いない・・・・・・・・

「・・・そして・・・・・・いつの間にか私は毎日、その公園に来ては穴を掘っていた・・・・・・雨の日も風の日も・・・・・・ずっと穴を掘り続けていたんだ・・・・・・・何度も死にそうになったよ・・・それを望んでいた私だったが・・・・

・・・だって、止めてくれる人はいなかったんだからな・・・・・・だからある日からずっと公園にいるようになった・・・・・・朝から晩までずっと同じ作業を続け・・・・・・お腹がすいたら水でお腹を膨らませ・

・・・・夜は寒い中でベンチで横になって睡眠・・・・・そんな事の繰り返しだったさ・・・・・・」

・・・きっと・・・・・・家に戻りたくなかったんだよね・・・・・・・・・・

「・・・それだけじゃない・・・・・・そんな異常な私をある日、子供連れの親が見ていてな・・・・・私がふとそちらに目を向けると・・・・・逃げていくんだ・・・・・・」

・・・きっと・・・・・・自分のお母さんと重ね合わせたんだろうね・・・・・・・・・・

「・・・自然と・・・・・・涙が溢れてきた・・・・・・感情を持ち合わせていなかった私に涙・・・・・・

はは・・・・・こんな事・・・・・・おかしいだろ・・・・・・?」

・・・おかしくなんかない・・・・・

「・・・もう・・・・・これで私もおしまいだと思った・・・・・・これで・・・・・やっと・・・やっと・

・・・・解放される・・・・・・そう思っていた私の元に・・・・・・ある日、お前がやって来た・・・・」











『・・・ねえ、こんなところでなにしてるの?』

『・・・・・ぶらんこ』

キー・・・キー・・・

ブランコを動かす音が空しく響く・・・・・

『・・・ねえ、誰かと遊ばないの?』

『・・・・・いない』

『・・・ねえ、だったら僕と遊ばない?』

『・・・・・え?』

『僕の名前はむらかみこうじ。君の名前はなに?』

『・・・・・いちかわすずな』

『ん、じゃあすずちゃん!向こうで砂遊びしよ!』

『わっ・・・・・』











それが耕司と鈴奈の最初の出会いだったーーーーー











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