第55話『その先に見えるもの』
(※鈴奈視点)
私は雨の中を当ても無く走り続けていた。
謝りたくて。
私の・・・私の・・・もう1人の『お母さん』に・・・・・・
謝りたかった・・・・・・
ただ・・・・・・それだけ・・・・・・
ただ、それだけだった・・・・・・・
大雨のせいでずいぶん視界が悪い。
走っている途中、道路で車に轢かれそうにそうになりとっさに避けたが車輪で跳ねた水溜りの泥水が服やら顔やらにかかった。けど・・・・・今はそんな事を気にしている場合じゃない・・・・・早く・・・早く・・・
早くお母さんに謝らなきゃ・・・・・・ごめんねって・・・・・・
「はぁ!はぁ!・・・・・はぁ!はぁ!」
お母さんは・・・・・家に居るんだろうか?だったら早く帰らないと・・・・・
私はすぐに家に向かった。
(※夏子視点)
・・・・・あれから走り回り続けて1時間・・・・・・
未だに鈴奈ちゃんの姿を見つけることはできなかった・・・・・・
目ぼしい場所は全て回った・・・・・・
なのに・・・・・・見つからない・・・・・・
・・・・・・まさか・・・・・・
この雨だ・・・・・川も増水して・・・きっと・・・・そうとう、流れがきつくなっているはずだ・・・・・
「・・・・・・っ!」
一瞬、最悪の事態を想像してしまった・・・・・
そんなこと・・・・・あるはずない・・・・・・夏子・・・・・何考えてるの・・・・・・
あの子は幼いながらも運動神経がいい・・・・・・
そんな・・・・・危ない場所行くはずが無いじゃない・・・・・・
「・・・・・どこか・・・・・まだ、どこかに・・・・・・きっと・・・・・・・」
疲れ切った体を無理矢理動かし、再び鈴奈ちゃんを探すために当ても無くとぼとぼと歩いた・・・・・
・・・・・
ふと目の前を見ると・・・・・いつの間にか大きな交差点まで私は来ていた・・・・・・
「・・・・・・」
信号が赤だったので私はじっと・・・・・立ち尽くしていた・・・・・・
私は・・・・・これまでの事を考えていた・・・・・・
・・・・・思えば、鈴奈ちゃんが私と勇輝と暮らし始めるきっかけとなったあの交通事故・・・・・
・・・・・酷い交通事故だった。
・・・・・私の妹、陽子は22歳という若さでこの世を去った・・・・・
相手の夫も陽子と同年齢でこの世を去った・・・・・
陽子は両親から結婚を反対されていた。
18歳という若さで鈴奈ちゃんを生み、その当時から両親に反対されていたがそれを押し切って、逃げるように両親の目の前から姿を消した。
そして、2年後・・・・・・
私の前に姿を現した陽子は本当に心から幸せそうだった。
陽子の夫の真樹さんも満面の笑みを浮かべてそれまであった出来事(ほとんどが鈴奈ちゃんに関する話題だったが)を詳細に私に話していた。
そんな話を私にしていると隣で座っていた陽子はむすっと頬を膨らませ・・・・・
『真樹さんったら・・・・・さっきから鈴奈のことばっかり・・・・・・』
・・・・・・私はそんな自分の娘に嫉妬する陽子の姿を見てちょっぴり可愛いなと思ってしまったり。
真樹さんは苦笑いでタジタジだったけど・・・・・・
・・・・・多分、この家族は将来、亭主関白にはならないわね・・・・・・と思っていた。
その当時の鈴奈ちゃんはまだ陽子の胸の中で寝ていて、もうすごく可愛かった・・・・・
いつまでも・・・・・この家族にこんな笑顔が続けばいいな・・・・・・と思っていた。
けれど・・・・・・そんな日も短かった・・・・・
それからちょくちょく私の家に家族3人で訪れていたが・・・・・多分、鈴奈ちゃんはその当時のことは覚えていないだろう・・・・・まだ、ちっちゃかったし・・・・・・
・・・・・しかし・・・・・・
・・・・・偶然、来るはずの無い私と陽子の両親が私の家に来てしまい鉢合わせになってしまった・・・・・
・・・当然、両親は再び陽子に罵声を浴びせ、たちまち親子喧嘩が始まってしまった・・・・・
・・・取っ組み合いになるほどの大喧嘩だった・・・・・
・・・私と真樹さんはその喧嘩を止めようと間に割って入ったが、真樹さんは頬を殴られ、口から血を流していた・・・・・
幼心にもその事態が響いたのか、鈴奈ちゃんは大声で泣き出した・・・・・
・・・・・正直、私も陽子と同じく両親は大嫌いだった・・・・・
いつも自己中心的・・・・・・子供の頃も両親とも毎日喧嘩ばかりでその八つ当たりで毎日、陽子は両親から酷い暴力を受けていた・・・・・・
その度、私は陽子を庇っていた・・・・・・
そんな酷い事を昔からしていたくせに・・・・・・両親は陽子の結婚が耳に入ったとき猛烈に反対した・・・
・・・・・そんな両親の姿を見たとき正直、私は憤りを感じた・・・・・
だから・・・・・・・・・・私は両親に言ってやった・・・・・・・・・・
『・・・あなた達は・・・・・・今まで、陽子に何をしてきたかわかっているんですか・・・・・?あなた達のエゴのぶつかり合いのせいで勝手に引き起こった喧嘩・・・・・それに巻き込まれた陽子・・・それだけじゃありません。あなた達は・・・・・・自分の娘、陽子を人間として見ていなかった・・・・・食費がかかるからと言って食事を与えず、家の中にも入れず・・・・・・その度に私は陽子を庇っていました・・・・・けれど・・・・・あの子はもう限界でした。顔に生気がないんです。私は・・・・・見ていられなかった・・・・・そんなあの子が17の頃でした、笑顔で自分の付き合っている人を私に紹介してくれたんです。そんな・・・・・そんな、向日葵のような笑顔を私はずっと今まで一緒に暮らしてきて一度も見たことがなかった・・・・・・・そんな笑顔・・・・・・そんな笑顔まで奪う気ですか?あなた達は!!!そんな笑顔を奪う権利があなた達にはあるんですかっ!?今までしてきた行為をあなた達にはなにも感じられないんですか!?だったらこれ以上、陽子を苦しめないで下さい!!!!!なんなら、私含めて勘当してもらってもかまいません!!!!!お願いです!!!!!陽子をこれ以上、苦しめないで下さい!!!!!もう、自由にしてやってください!!!!!』
私は両親に対する憎悪をぶつけてやった・・・・・・
私の言葉を聞いた両親は・・・・・・私に殴りかかってきた・・・・・・
・・・・・足でお腹や腕を蹴られ・・・・・
・・・・・鈴奈ちゃんの泣き声はますます大きくなり・・・・・・
『もうーーーーー嫌っ!!!!!!!!!!』
そして、陽子は泣きながら真樹さんと鈴奈ちゃんを連れて外に逃げていった・・・・・
・・・・・その帰り道で事故が起きた・・・・・
酷い事故だった・・・・・
ちょうど、交差点のど真ん中で車2台が正面衝突ーーーーー
車は跡かとも無くグチャグチャにーーーーー
・・・・・真樹さんは即死だった・・・・・
・・・・・陽子は・・・・・重体・・・・・しかし病院で息を引き取った・・・・・
・・・・・鈴奈ちゃんは奇跡的に助かった・・・・・
・・・・・最後に陽子が私に残した言葉ーーーーー
『夏子姉さん・・・・・・あの子・・・・・鈴奈の事・・・・・・よろしくね・・・・・』
・・・・・
一晩中、陽子の傍で泣き続けた・・・・・
・・・・・声が枯れても・・・・・
・・・・・涙が枯れても・・・・・
・・・・・心が枯れても・・・・・
・・・・・ずっと・・・・・
・・・・・ずっと・・・・・
「・・・・・・」
信号機は・・・・・・まだ、赤だった・・・・・・
・・・・・自然と私の目から温かいものが流れていた・・・・・
「・・・鈴奈ちゃん・・・」
・・・・・鈴奈ちゃんは・・・・・これからもずっと・・・・・ずっと・・・・・私が育てる・・・・・
陽子の変わりに・・・・・・
『お母さん』として・・・・・・
・・・・・目を・・・・・閉じた・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・何か・・・・・足音が聞こえる・・・・・・
タン・・・タン・・・
タン・・・タン・・・
タン・・・タン・・・
・・・・・
これは・・・・・・どこから・・・・・?
そして・・・・・・再び目を開くと・・・・・・
・・・・・私の視界に・・・・・
向こう側の道路から必死で駆けて来る鈴奈ちゃんの姿がはっきり見えた。
私は躊躇無く、道路に飛び出した。
まだ、『あお』が灯っていない道路に・・・・・
「鈴奈ちゃーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
鈴奈ちゃんを思いっきり突き飛ばした。なんと道路まで飛んで行った。これなら軽い怪我で済むわね・・・・
そして・・・・・・・私は・・・・・・・
最後に夢を見た。
陽子と真樹さん・・・・・そして大きくなった鈴奈ちゃんが笑顔で並んでいるの・・・・・・
私が写真を撮って・・・・・・けど・・・・・・陽子に『はやく!姉さん!こっち!こっと!』と・・・・・
・・・・・・・・・・ああーーーーーーーーーーー今、行くわ・・・・・・・・・・陽子・・・・・・・・・
ーーーーーーーーーードスンっ
・・・・・・・・・・そこで私の短い夢は途切れた・・・・・・・・・・