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番外編その38『裸サスペンダーはお好き?』 

休日の繁華街のとあるハチ公前にて。

俺は一人、腕時計と睨めっこしながら突っ立っていた。

「……あいつら遅いな。もう約束の時間から三十分以上経ってるぞ……」

というのも昨晩、そろそろ冬眠に入ろうかと布団にもぐりこんだ瞬間、俺の携帯が火を噴いた。……大げさだった、俺の携帯の着信音が鳴った。発信元は宮古の携帯からだった。

『明日、○○のハチ公前に十時集合だよー。もちろん、夏っちも来るから今日はいてたアフリカン象柄のブリーフなんか履いてないでちゃんとお洒落してきてねー』

それだけ言うと、奴は俺が返事をする前に問答無用で切りやがった。

俺の性質上、無視することもできずそのまま手を引かれた連れ子の様にのこのこと約束の場所へやってきたってわけだ。……どうでもいいが、俺はそんな悪趣味なブリーフなんぞ履いていない。

「あー、いたいた! お~い!!」

内心イライラしながら、足踏みをし、待っていると聞き慣れた声が聞こえてきた。

その声の発信源に目を向けると、二人の少女が手を繋いでこちらへ駆け寄ってくる。一人は、ピンクの小花柄のキャスケット帽を深めに被った金髪のロングの少女……宮古、か。藍色のジーンズに黒のブラウスという出で立ち。もう一人は、宮古よりも少し、いや大分控えめな身長げふんげふん、の少女。紺色のニット帽を被ったロングの金髪……だ、誰だ?梨らのその少女は赤のカーディガンにチェック柄のスカートという出で立ちだった。

「ごめーん、待ってないよね?」

「待ったぞコラ……もう、三十分も過ぎてんじゃねえか、ルーズすぎるぞ」

「もぉ、男のくせに細かいねー耕司君は。そこは、ほら? 男のおっきな器量というかイチモツを見せるべきじゃないかなー」

宮古は人差し指を立てて、そんなことをのたまう。

女子が往来で平気な顔してイチモツとか言うなよ……聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるわ。

「……悪かったな、小さくて。で? 急に呼び出して……いったい何の用だよ……ていうか、その……隣の子、誰だよ」

「……ガーンッ!」

俺がそう言うと宮古は信じられないといった表情で大げさに声を上げる。

「……お兄ちゃん? ボクが分からないの?」

すると知らぬ少女が口を開く……こ、この声は。

「……夏美、か?」

「そうだよー、耕司くん! 自分の愛人相手にこいつ誰はないと思うなー」

「愛人とか言うな。そ、そうか……いつもと違って髪下ろしてたからな。す、すまん」

俺は夏美に向かって頭を下げる。

「…………」

夏美はホッペをたこ焼きのように膨らませてプイッと明後日の方向へ向く。今にもツーンという言葉が聞こえてきそうだ。

「あーあ、怒らせちゃった。そうだねー、怒った女の子を宥めるにはフォアグラを二人分奢らないとイケナイね」

宮古は腕を組んで云々と頷く。

……何でブルジョワ奢りなんだよ。あと、なんでお前の分も数に入ってるんだ。






「うわーい、醤油味のアイス何て私初めて-」

「おいしいねー」

宮古と夏美は大層、幸せそうな顔してアイスキャンディを舐めている。

……結局二人分奢ることになった。まあ、別にこれくらいの散財は……気になんかしていない、ぞ。

「ところでよ、今日は一体何の用なんだ? 男子高校生の休日は貴重なんだ、手短に済ませてくれよ」

「……お兄ちゃんは私と一緒にいるのがイヤ?」

夏美はキラキラとした瞳で俺をジッと見つめてくる。うっ……その顔は止めろ……。

「あーあ、幸せもんだねー耕司君は」

「やかましい。……で、用って何だよ」

「えっと……ね。お兄ちゃんて……裸サスペンダーが大好物、何だよね……」

いきなり夏美から謂れのない侮辱を受けた。

「どこ情報だ、それ」

「ううっ……しかも自分でやるのが好き……何だよね? 誰もいない真っ暗なお部屋で……『フォォオオウ、フォォオオオーーーーウ』とか奇声を上げながらパチーンパチーンって……その、ぼ、ボク……よくわかんないんだけど……お、お、おちちが……当たって、き、きき気持ちイイの? そういうの……うう……っ、だから、その……」

「待て、待てこら待て待て、ストップストップオンザストップ。お前、今自分が何言ってんのか分かってんの? 言いなさい、お兄ちゃんに言いなさい。誰に言われたのそんなキチ外情報? ぶん殴ってやるから言いなさい……メガネか? エテ公か? 近所のオッサンか? ……もう面倒だから纏めてやっちまうか」

まったく……。

いきなり、夏美が普段言わないようなトンデモ話をし出すもんだからついカッとなっちまった。そうだな、まず……腹パン一発、倒れたところから腕ひしぎ十字固めの止めに地獄車ってところか。村上スペシャルだぜ。

「ぼ、暴力はだめだよお兄ちゃん……」

「そうだよーお兄ちゃん! 性的な暴力は駄目だよ」

「だ・れ・が・? 性的な暴力だなんていったのかな宮古サン? あと、お前までお兄ちゃんって言うな」

「ええーっ、ひどいぞーお兄ちゃんプレイはんたーい!」

「知るかよ。どうでもいいけれど、夏美、それ誰情報なんだよ……」

「え、えっちなことしない……?」

「しねぇよ。言っておくが、お前が今考えたってのは無しな。ありえんてぃだから」

さらに、尋問しようとしていると背後から『フォォオオウ、フォォオオオーーーーウ』という変な雄叫びとパチンパチンという何かを叩く音が聞こえてきた。……何か愉快なイベントでもやってんのか。






……数秒後。

「ズバリ、お答えしよう!! 裸サスペンダー紳士こと、わたくし、チン、はぶぅ」

あっ、いっけね、俺の背後に何やらピンク色な殺気を感じたから衝動的に裏拳をかましちまった。

振り向くと、何故か頬を染めて路上にうずくまる髭男爵がいた。その髭男爵は上半身が何故か裸サスペンダー姿だった。殴っておいて、何だけれどまた変なのが出てきたな……。

「すまん……見ず知らずのオッサン」

「ふふん、いいのだ少年……わたくしのこのサスペンダーがベルトにつながっていなければこんなことにはならなかったのだからね……ママンはミルキーの味ってやつかな?」

何を言っとるんだこのオッサン。

「あー! このおぢさんだよー、夏っちに耕司君が裸サスペンダーLOVEって吹き込んだの!」

「うっ……わたくしは、ソンナコトイッテナイのだ!!」

「じゃあ、その不気味な裸サスペンダーは何だ」

「ぶーぶー嘘つくなよー、マザコン紳士ー……ねー、夏っちコノヒトでしょ?」

「う、うん……宮っちと待ち合わせの場所まで向かっているときにいきなり『君の身近にいる少年は間違いなく裸サスペンダー愛好家なのだよ……彼は乳首をビンビンにパチンパチン言わせるのがお好きなのだろう』って耳元で囁かれたの……」

夏美は少し俯いて、恥ずかしそうにそんなことを言う。何だその囁きプレイ。こええよ。

「完全なる不審者じゃねえかよ。ポリス小屋に連れていくか」

「ま、待て待て待て待ちたまいよ少年……ワタクシは、不審者ではないのだ。ただの、通りすがりの裸サスペンダー紳士だ」

オッサンは降参のつもりか、両手をあげるジェスチャーをする。通りすがりの裸サスペンダーって不自然すぎるだろ。

「不審者は自分の事、不審者だっていわねえからな。だいたいお前の姿・恰好が既に犯罪なんだよ」

「待て……少年、君にはこのサスペンダーの素晴らしさが分からないのか。そうとも、裸サスペンダーは素晴らしいものだ……ネクタイ代わりに裸で装着していったらセンターで入室した時点で即不合格で桜が散りました(笑)とか、これ傑作だよ君ィ、はっはっは」

オッサンは一人で拍手しながら、そんなことをのたまう。

全然笑えねえよ。ていうかこのオッサンは一体何歳なんだよ。

「サスペンダーを否定するつもりはい……問題は何でそこに裸の組み合わせが入るか、だよ」

「サスペンダーだけなど……一味唐辛子がかかっていないお好み焼きのようなものだよ少年。ぽっかり胸に穴が開いた様な気分になるだろう?」

ならねえよ、対して重要じぇねえじゃねえかそれ。

「なんだよー、サスペンダーより女の子は男の子のびしっとした背広姿の方がキュンキュンするんだぞー……って塾の先生が言ってた」

「キェーッ、だまらっしゃいアマ公(※アマ=素人えーぶい女)!! 神聖なる男同士の糸を引くような絡み合いに口出しするのではない!!」

「絡み合いとか言うな。あと、糸を引くってそれはどういう意味だ」

「ふっふっふ……まあ、いいではないか少年。それでは裸サスペンダーがいかに素晴らしいかを、まずは数億年の世界の歴史を振り返ってワタクシが特別に解説しようではないかフォォオオオーーーーフォオオオオーーーーウ!!!!」

「あの、君、ちょっといいかな?」

街のど真ん中でサスペンダー講座を開こうとしているオッサンの肩に誰かの手が乗った。

……案の定、青い人の声掛けだった。

「……ワタクシは怪しい人ではありません」

第一声がそれかよ。

「うん、じゃあちょっとこっちに来てくれる?」

「……はい。あの……家内と娘には内緒にしてくれませんか?」

オッサンは青い人たちに笑顔で首を横に振られると、ガックリと肩をすくめてポリス小屋に連れて行かれた。……あのオッサン、家族持ちだったのか。






「ああー、怖かったねー夏っち」

「うん……」

「そういえば……結局、待ち合わせって何のようだった……」

「…………」

「…………」

俺が尋ねると、二人して顔を見合わせて……。

「行こっ、夏っち! じゃあねー耕司君、アイスごちそうさま!」

「あっ、うん! ご、ごめんねお兄ちゃん!」

そのまま、街中へ消えていくのだった。

……結局。

俺は一人寂しく、街中のゲーセンで休日の貴重な時間を潰すのであった。

振り回されるだけ振り回されて……結局何だったんだよ、これ。俺の胸中は白い靄のようなものがかかっていた。

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