番外編その35『男の娘はお好き?』
「おい、耕司ぃ。男の娘って知っているか?」ジョロロ……
休み時間。
男子便所で小便を嗜んでいると、隣にいたツレション野郎のサルがそんなことを俺に聞いてきた。
「はぁ?男の……ナニ?」チョロロ……
「チン●の話じゃあねぇよ。男の娘だよ、娘」ジョロロ……
「男の娘……?ますます、意味分からん。お前はよく唐突に変な話を吹っかけてくるよな」
男の娘だか何だか知らんが、どうせまたコイツのシモ話だろ。
小便を済ませた俺は愚息をしまい、ズボンのチャックを上げ、手洗いに便所の出口に向かう。
「お、おいっ……!耕司ぃ、お前は気にならねぇのかよっ、男の娘!」ジョロロ……
「別に。どーせ、またお前の下らないシモ系の話だろ?じゃあ先に教室に帰っとくぞ」
「こ、こらぁ……!待ちやがれ、耕司!お前は、ダチの小便も待ってられないのかぁ!?あれかっ、出すだけ出しといて、俺が気持ちよくなったから後は勝手に気持ちよくなってくださいビッチ、とか……そういうタイプの先走り人間かお前っ!?」ジョロロゥ!
「何の話をしてんだよ。あと、お前小便長すぎ。どんだけ溜めに溜めてんだよ」
「し、しかたねぇだろうがよぅ……俺は放尿プレイが好きなんだ(///)」ジョロロ……
「頬を染めるな。ったくしゃあねぇな。さっさと済ませろよ」
「……お前、案外優しいね(///)」チョロ……
「だから、頬を染めるな」
ったく、仕方ねぇな……まぁ、ダチのツレションくらい待ってやるか。
何だかんだ言っても、こいつとかメガネに付き合う俺の性格はこれからも変わらねぇんだろうな。
『『『素直になれないツンデレ乙!』』』
…………。
おい、誰だ今ツンデレとか言った奴。表に出ろ、こらぁ。
「で……さっきの話に戻るけど。男の娘ってのはだなぁ……」
「まだその話続けるのかよ」
「簡単に言うとだなぁ、『やだ奥さん!山田さんのお子さん、女の子だと思ったけれど実は……男の子なんですって!』『えぇ……?おほっ、おほほほ……やだわぁ噂は噂でしょう?ねぇ、安田さん?』『何言ってるのよぅ、三木谷さん。こうやって、私たちがごみ捨て場の前で集って、おしゃべりしているのはそういうトンデモガセネタを楽しむためでもあるでしょう?おほほのほ』『おほほっ、言うわね長谷円さん。だったらこの間のお宅の旦那さんのワイシャツのキスマーク……あれ、私の買った口紅と同じものなの』『あらぁ、別にかまわないわよぅ。だって私、主人の女癖が悪いことは前から知ってるし……おほほのほ』『そうねぇ』『そうだわ』『『『おほほほほほほ』』』『んなわけねぇだろこのババァ!てめぇか、あたいの主人をくどいたのはあぁん!?』『んだぁ、やんのかくららぁー!?』……てな、感じだ」
「…………」
「まぁ、もちっと掻い摘んで簡単に言うと、女の子みたいな男の子……女装してるの君?みたいな感じだ」
「だったら最初からそう言え」
コイツ何か面倒くせぇな。
ていうか、いつまでこんなくっさい便所で男と立ち話してなきゃならねぇんだよ。
女とならともかく……って、それはどんなシチュなんだよ、変態か俺は。
「てか、もうお前小便終わってるじゃねぇか。さっさと、教室に帰るぞ……」
「ま、まて!まだだっ、まだ俺の話は終わってねぇぞ!ここでお前を帰らすわけにはいくまい! 見てろ……赤い玉が出るまで、俺はここで血尿を垂れ流してお前を足止めしてやるぞ!フハハハハハハ!!!」
「どんな嫌がらせで何の意地をはってんだよお前は……」
め、めんどくせぇ!
あぁ、もう知らん!この馬鹿ザルには構ってられん!
俺はさっと手を洗い、何かトイレの奥できばっているサルをそのまま残して、便所を出た。
『お、おいっ!このまま俺を見捨てる気かぁ!? い、いいかぁ!ゆ、勇者のお前がそんなことをしても第二のサルや第三のサルが黙っていないからなぁ!必ずお前を地の果てまで追いかけ……ふぬぬぬっ、アッ、ちょっぴり身が出ちゃったよぉ……///』
「やぁ、どこ行ってたんだい耕司キュン。ウ●コかい?」
サルの魔の手から逃れ、教室に入るといきなりメガネが声を掛けてきた。
「お兄ちゃん、きたなーい!」
「やだ、汚いわね。その手でその辺のもの触らないでよ」
「ふっけっつっ!ふっけっつっ!おっむっつっ!耕司君は不潔イェ~イ!」
メガネの近くにいた夏美とアリスさんはしかめっ面で俺から距離を取る。さらには、宮子が応援団員みたいな格好で大声で言う。
「ちゃうわっ、ウン●でもねぇし!あと、何で俺は手を洗っていない前提で話が進んでいるんだよ!やめろっ、宮子!クラス中に俺を不潔キャラとかあることないことぶちまけるなっ!」
「あらそう、別にあんたが不潔であろうと何であろうとどうでもいいけれど……ふぁ、じゃあ私は寝るから邪魔したら細切れにするわよ」
「お兄ちゃん、手はちゃんと洗うんだよ?汚いんだからねっ」
「えぇ~、そんなのツマンネー、耕司君はツマラン!君はヒッジョーにツマラン人間だっ」
アリスは自分の机に戻り、夏美や宮子もどこかに散って行った。
な、なんちゅーやつらだ……。
仮にも俺は主人公なんだぞ……その主人公をス●トロ野郎にする気かこいつら……。
くそぉ、俺は泣くぞこらぁ……。泣いちゃうぞ、こらぁ……。泣いちゃうんだぞこらぁ……。
「大丈夫です、耕司さん……僕は耕司さんのウン●まみれの手……大好きですよ///」
「あの、ジョウイチロウクン……?何で俺の手を触って……えっ、可愛らしく舌先を出して……えっえっえっ?ジョウイチロウクン?な、何をしようとしているのかな君は……?」
脳内で泣きそうになっていると、俺の右手を両手で優しくつかみ、うっとりしているジョウイチロウクンが傍にいた。こわっ……全然気配を感じなかったんですけど……!?こわっ……!
「耕司さん……この耕司さんのウン●まみれのこの手……舐めても……いいですか?」
「いやっ、だめだよ!ウ●コまみれでもねぇし!ていうか……!?何か君、ものすごく怖いんですよ!?ジョウイチロウクン!?ねぇ、ジョウイチロウクン!?」
「さて、ウ●コの話は置いておいて……男の娘を知ってるかい耕司キュン?」
「お前はサルの回し者か何かか」
危うく、ジョウイチロウクンのペロペロ攻撃から解放された俺にメガネは話を振ってきた。また、男のなんたらかよ……あれだろ?女の子みたいなのに実は……とか、そういうやつだろ?明らかに俺を二重の意味でホの字に連れ込むつもりだろ……何か今、うまいこといっちゃったが。
「そこで今日は何も知らない耕司キュンのために講師をお呼びしたよ」
「いいよもう。さっき、トイレでサルに聞いたし。大体、それを俺に教えて何になる?」
「ご紹介しよう!こちらが、その道百年の男の娘同愛会第十三支部連合副総長……!」
ガララッ
「ブヒッwww腐女子扶助子でふwwwよwwwろwwwしwwwこwwwナマステwww」
「ま た お ま え か」
教室のドアが突如開くとそこにいたのは不潔人間、扶助子だった。
前と変わらず、いや前以上に不快なスメルを醸し出しているなこの怪物は……。
「耕司キュン、我々の業界用語をしっかり押さえておけば世界が変わると思うんだ」
「そいつが入ってきた時点で色んな意味で世界が変わったけれどな」
「うぇwwwうぇwwwてれるwww扶助子てれますwwwうぇwwwうぇwww」
「ほめてねぇよ」
もう、ちょっとホントきつい……。
同じ空間で息を吸いたくないほど臭い奴っていたんだね……。こんな奴、再登場させんなよな……。
「今日は村上殿にとっておきの『あいてむ』を持ってきたのでござるよwwwぶふっwwwギガワロスwww」
「何で終始笑ってんだよ」
扶助子は汚い鞄をごそごそ漁り何かを出そうとしている……。
逃げるか、逃げるべきなのか俺。何だか嫌な予感がする。
「おふっwwwこれwwwこwwwれwwwこれでふよwwwぷぷっwww」
「何だこれ……うわっ、くさっ……」
扶助子は俺にキノコ型のオブジェを渡す。何だよこの何かを思い出すようなオブジェは……。
「男の娘www欲しいwww記念おなにぃあいてむ『等身大ティムティム』でふwww」
俺は口でオブジェを食い千切った。