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番外編その31『離れていく心』

「えへへへーーー♪ミンちゃん!ミンちゃん!コレどうかなぁ?」

百合は鏡の前でくるっと一回転して私に意見を求めてきた。百合は薄青色のキャミソール姿だった。全体的にこじんまりとした体格の百合にはちょうどいい大きさで、可愛らしい格好だった。

「百合……キャミは下着、服じゃないよ……」

「そ、それくらい分かってますっ!ミンちゃんは失礼な子ですねっ!(///)」

どうだか……キャミ選ぶだけで30分も時間掛けてたし……キャミ選ぶのに必死で肝心の服の事を忘れてたんじゃないかなぁ……

「じゃあ………服、何着て行くかもう決めているの?」

「………もっ、もちろんですぅ!ま、待っててください!いいの選んできますからっ!」

……百合、墓穴掘ってるよ。選んでくるって言ってる時点で服のこと考えていなかったの丸出し。何故か慌てた表情で百合は洋服タンスを漁り始めた。……本当に何も考えていなかったんだね百合。

「うぅー、こっちのワンピースも捨てがたいですし……でもぉ、ちょっとラフすぎるかなぁ……?こっちのジーパンは……うぅ、論外です。男の子っぽいですぅ……」

百合が必死で着て行く服を選んでいる理由、それは今日商店街の方へ買い物に行くから。でも、百合がこんなに張り切っている大きな理由は別にあって、それは耕司が一緒に来てくれるからだ。新しくデパートが出来たので百合が勇気を振り絞って耕司を誘った。その結果、耕司は快く了解してくれて……それで、何故か私と夏美ちゃんまで着いていく事に……私の心境としては、耕司と百合の二人で買い物に行ってくれた方が嬉しかったんだけど……でも、仕方ないよね。夏美ちゃんも百合と同じような感情を耕司に対して抱いているから。

「………百合、いい加減決まった?」

「うぅ……待ってください、あともう少し……こっちのパーカーも捨てがたいですぅ……」

もう約束の時間……早くしないと。気持ちは分かるけど、こういうのは考えれば考えるほどドツボに嵌まるような気がするの……ちなみに私は白の長袖に英文字がプリントされたシャツに下は普通の赤のスカートという姿だった。

コンコン

百合の部屋のドアが誰かの手によってノックされた。

ガラッ

「おーい、百合ちゃん……そろそろ行く………よ?」

「………あっ」

ノックの後、続け様にドアから耕司が百合の部屋に入ってきた。百合は下着のキャミ姿のまま、今日着ていく服を選んでいる最中だった。……二人の時が止まる。私は普段、口数が少ないから余計に微妙な空気になる。

「あっ、あぅ、あぅ………(///)」

見る見る内に百合の顔は真っ赤に染まっていく。それを見た耕司は冷や汗をかく。

「あ……あぁ、その……違うんだよ百合ちゃん?別に俺は君の未成熟な身体をじっくり拝みたいとか……そんなえっちな事は考えていないんだよ?その……これは、完全なる偶然というか陰謀というか……とにかくっ、結構かわいいキャミだね、それ(汗)」

「きっ………きゃぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(///)」

「ごっ、ごめんっ!」

バタン!

百合は両手で胸の辺りを隠し、耕司はそのまま回れ右をして百合の部屋から出て行った。どうして、耕司はいつも一言も二言も多いんだろう。それに、ノックしてから返事も聞かずに入るのはノックの意味無いと思う。耕司は優しいけれど、こういう細かな気配りが足りないと思う……






「うわぁーおっきぃーね!お兄ちゃん!」

夏美ちゃんはデパートに入ると大きな声で叫ぶ。……子供みたいだ、ある意味、百合に似ているかも。夏美ちゃんの服装は白のワンピースに麦藁帽という、田舎の美少女を思わせるような服装だった。そして、肝心の百合の服装は……

「……あぅ、あぅ(///)」

あれから散々、悩みに悩んでようやく選び出した百合の服は赤のパーカーに黒のスカートという結構、女の子にしては地味な感じの服装だった。でも、百合は何を着てもそれなりに似合うと思う……親友だから、贔屓しているとかそんなんじゃないよ。

「うぉおおお………この一階のフロアの広さ半端ねぇなぁ。それが五階かよ、でっけぇなぁ」

それに対して、耕司の今日の服装は前に『永遠の童貞』、後ろに『5000ぺリカ』と白地でプリントされた黒のTシャツに、下はジーパンという服のセンスを疑いたくなる格好だった。

「じゃあ、どこ行く?」

耕司は私達に聞いてきた。そういうのは普通、引っ張っていくのが男の子だと思うけれど……耕司は多分、素で聞いていると思うし……仕方ないのかな。

「あ……あのっ、もうそろそろお昼ですし………お昼ごはん食べませんか?(///)」

百合は恥ずかしいのか、モジモジしながらそう言った。偉い偉い……もう少し、恥ずかしがるのを抑えると完璧だけど自分からそういうことを言うのは耕司にも百合にもプラスになると思うな。

「よっし、そうだな。じゃあ昼飯にするか」

「でも、お兄ちゃん……どこでお昼ごはん食べるの?このデパートの案内には書いてないよ?」

デパートの中は雑貨屋、レディース、メンズ、子供物の服、靴屋、時計屋、装飾屋等様々な店が入っていることは案内に書いてあったが、肝心の食事コーナーは触れられていなかった。

「んー……そうだな、あそこにいるサービスカウンターの綺麗で美人なお姉さんに聞いてくるよ」

そう言うと、耕司はそのままサービスカウンターに小走りで向かった。

「……むぅ」

「……うぅ」

残された百合と夏美ちゃんは耕司をジッと睨みつけていた。……嫉妬、そんな色を帯びた目で。あの程度で嫉妬される耕司は幸せ者なのか不幸なのか分からない。

「すいませーん、この辺で食事コーナーとかありませんか?」

「ハーイ♪このデパートの五階に少しですが食事コーナーをご用意しておりまーす♪」

「ありがとうございます」

「いえいえ……私達、従業員はお客様に気持ち良くなって帰ってもらうことが目的………セヤァアア!」

パチ-ン

「うがぁ!?」

耕司はサービスカウンターのお姉さんに何故か、突然思いっきり頬を打たれていた。

「幼女三匹に囲まれてハーレムうっはうはーか?調子乗ってんじゃねぇぞ♪この……ブタ野郎が♪」

そして、耕司はそのまま私達の元へとぼとぼと帰って来た。心なしかその姿は元気が無いように思える。

「……え、俺何かした?」

……それは百合と夏美ちゃんの嫉妬という名の怨念だと思うの。






私は人の事は言えないけど、百合は引っ込み思案だと思う。

例えば、そう。今、私達はデパートの五階で食事している。百合はエビドリヤ、私はハンバーグセット、夏美ちゃんは何故かチョコパフェ、耕司はナポリタンを食べている。いや、料理のことはどうでもいいけれど。

「あっ、お兄ちゃん。唇の横、ついてるよ」

耕司の口の辺りにナポリタンのあとがついていた。それにいち早く気付いた夏美ちゃんがそれを耕司に伝えた。

「ん…あ、あぁ……サンキュー」

耕司少し慌ててティッシュで拭こうとする……けど。

「あ、お兄ちゃん待って」

夏美ちゃんは耕司の口元に自分が用意したティッシュを持っていく。

「お、おい……」

フキフキ……

漫画や小説やアニメでよく見るけれどこれがあの『口元フッキフキ』。ご飯粒を取ってソレを食べるっていう展開の方がラブコメ展開に多そうだけど。けれどお生憎様、耕司はナポリタンを食べていたので仕方ない。

「す、すまん……(///)」

「えへへ、いいよ(///)」

何だろう、この空気を読まない人達は。耕司の向かって正面にいる百合はそのイチャラブ(?)光景に『うっ~~~』と恨めしそうに耕司を見つめていた。百合もチャンスはあったのに……私は確かに見た。百合が夏美ちゃんより早くに耕司の口元にナポリタンのあとがついていたのを。それなのに百合はちっちゃな声で『あっ……』と言うだけでその後は何も言えず、夏美ちゃんに先を越されたの。……ここはやっぱり私の出番なのだろうか。

「………」

バッシャァアアアアーーーーー………

「うおっ、冷っ」

「お兄ちゃん!?」

「耕司さんっ!?」

「……手が滑ったの」

私は百合が耕司さんと触れ合えるキッカケ作りのためにわざと水の入ったコップを耕司にかけた。

「………あの、ミントさん?」

耕司は戸惑った表情で私を見てきた。……しまった。わざとやり過ぎたの。けれど、諦めない。

「滑ったの」

「………えっと」

「滑ったの」

「………」

「ミンちゃん?たとえわざとじゃなくても耕司さんに謝らないと、です!」

……違う百合、そうじゃない。今、私にとって百合がして欲しい態度は……そうじゃないの。

「………」

「……ミンちゃん?いくらミンちゃんでも私、怒りますよ?」

百合……怒ってる。どうして、どうして………どうしてそんな積極的に私には接する事ができるのに……

「お兄ちゃん、大丈夫?はい、タオル」

「お、おぉ……わりぃな夏美。上着だけちょっと水で濡れただけだから大丈夫だ」

……遅かった。夏美ちゃんは偶々、持っていたタオルを耕司に渡していた。

「……ごめんなさい」

こうなったら私は謝ることしかできなかった。裏目に出た……

「あ、あぁ……いいよ。俺もちょっとしか濡れなかったし、ハハハ」

……耕司は何事も無かったような表情で笑った。……イラッ。

バッシャァアアアアアアアーーーーー………

「ミンちゃん!?」

「………」

「また滑ったの」






私の気分は最悪だった。

あれから四人で買い物みたいな感じになったけど、百合は積極的に耕司に喋りかけない。私も普段は喋らないキャラなので必然的に耕司と夏美ちゃんが二人でよく喋っていた。……これじゃあ、四人で買い物に来た意味が無い。せっかく、百合は頑張って着ていく服を選んできたのに。百合の表情も何だかシュンとしていて、疲れている様子。……何か、何か無いの。私は百合がチャンスを掴めるものは無いものかと辺りを見回していると……あっ、あんな所に……

「耕司……」

クイッ

私は夏美ちゃんと喋っている耕司の服の袖をくいっと引っ張った。

「ん?あれは………UFOキャッチャーか?……ミント、やりたいのか?」

「うん………でも」

私は耕司がそう聞いてきたタイミングで百合の方に向いた。これなら耕司も気付いてくれるだろう。

「ん?百合ちゃんもやりたいの?」

「えっ………は、はい」

百合は一瞬、ビックリしたような表情を浮かべるが急に振られたからか勢いで了解した感じだった。でも、それでもいい。チャンスは増えたのだから。

「じゃあ、やろうか」

「は、ハイ………」

百合は戸惑っている様子……百合、自信を持って。貴方はやれば出来る子。頑張れば出来る子。

「あーお兄ちゃん!アレとってー!」

……また、まただ。また、夏美ちゃんに先を越された。また、流される……そこに入れない。百合も私も。介入できない……今になって思う。自分の性格が恨めしい、と。もっと、自分が夏美ちゃんや宮子さんのような明るい子だったならもっと百合のサポート役に徹せるのに。

「ん……?何だアレ?芋虫じゃねぇか……気持ち悪ぃな……あんなのがいいのかお前は」

「むぅー!いいのっ!お兄ちゃん!アレ早くとって!」

……またさっきと同じだ。耕司と夏美ちゃん、私と百合。そこで断絶される。それはきっと、色々な要素がかみ合って悪循環を生んでいる。引っ込み思案な私と百合、それとは対照的に元気で積極的な夏美ちゃん、なかなかその境界線に気付けない耕司………どれもこれも百合にとってはマイナス要素。

「おっ……!丁度いい具合に掴めたぞ!」

「あ、そのまま……そのままー!」

「………」

夏美ちゃんが指定したヌイグルミは間もなく取れそうだった。その二人の姿を百合は後ろから唇をかみながらジッと見つめていた……

「おぉ!やったぜっ!ほらっ、夏美!」

ポンポン

「えへへーありがと、お兄ちゃん♪」

耕司はヌイグルミを手に入れると夏美ちゃんにそれを渡し、頭を撫でた。それに対して夏美ちゃんは嬉しそうに、幸せそうな顔で笑っていた。

「………っ」

ダッ!

その場の空気に耐え切れなくなったのか、百合はそのままこの場から逃げ出してしまった。

「百合っ……!」

私は百合の後を追った。そして、百合が逃げ出したことに気付いた耕司と夏美ちゃんは慌てた表情を浮かべた。

「「百合ちゃん!?」」

二人も百合の後を追おうとしていたが………

「耕司と夏美ちゃんは来ないで」

「えっ!?」

「で、でも……」

「来ないで」

私は二人にそう言うと百合の後を追った。






「はぁはぁ……うっ」

百合は化粧室に入って、鏡の前で苦しそうに伏せていた。

「百合っ!」

私はすぐに百合の元へ駆けつけ、百合の背中をさすった。

「……はぁ、はぁ………ミン、ちゃん………?」

「百合………大丈夫?」

「……う、ん。大丈夫………大丈夫だから」

百合はまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。

「百合………」

「ミンちゃん………私、すごく嫌な事考えちゃった」

……嫌な事、容易に想像はできる。耕司も夏美ちゃんも、別にわざとああやって見せ付けているわけでは無い。あれがいつもの二人なのだ。自然な二人なのだ。でも……それが分かっていても百合には……

「ミンちゃん………私、笑えているかな?私、私、私………もう、もうどうしたらいいか……うっ、うぅう……」

百合は手で顔を隠し、そのまま静かに泣き続けた。私はその姿にどうする事もできず、ただただ背中をさすっているだけしかなかった。






耕司………お願い、気付いてあげて。百合の闇………

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