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第86話『Happy Birthday To You』

ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデートゥーユー






ハッピーバースデー、ディア………






………………






ハッピーバースデートゥーユー………











『僕は君の全てを受け入れるとしよう』






そう言うと彼は私の頬を軽くさすり、私に向けて笑みを見せた。

『…っ……』

その笑みに私は背筋に嫌な寒気が走った……い、一体この人……何を、何を考えているの………

『ごめんねぇ……痛かっただろう?』

『ひっ……?!』

彼はそう言いながら引き続き先ほど打った私の頬をさすり始めた……

『い、嫌っ!』

その不気味な行為に私は思わず彼の手を強く叩いた。

『………』

『あ、貴方っ……い、一体……何を考えているんですっ!』

私はそう言いながら一歩、また一歩……すぐ逃げ出せる教室のドア付近まで後退した。

『……何、考えてる………?それはこっちの台詞だよ、エリスちゃん』

『………なっ、何を』

『君は僕にこう言った。好きだ、と。それに対して僕は受け入れた。なのに今は君は逆に僕を拒絶している。おかしいのは君の方だろう?』

『………っ』

確かに、私は私は………好き、と言った。

でも、それは……お姉ちゃんからこの目の前の彼を遠ざけるため。

私が本心で口にしたわけじゃない………でも、でも、私は………

『いいじゃないか、君の算段はこれで大成功。これで大好きなお姉ちゃんも安全モーマンタイ。何も心配する事ない。これで君と僕は彼氏彼女の関係、それが全て。それが全てなんだよエリスちゃん』

一歩、また一歩……彼はゆっくり私に近づき、私との距離を詰めてくる………

『い、嫌っ!こ、来ないでっ!』

怖い!怖い!怖い!

今の私にはそれだけしか考えられなかった。

『………』

『ひっ?!』

彼はついに私の目の前まで近づき、そして私の顎をすっと触り……

『だから僕は今から君の彼氏、だ』

嫌……やっぱり、嫌……でも私は………拒絶できない………

『言わない………で』

もう、私は………私は引き返せない……この底なし沼から……

『だから、僕は……君の言う事は何でもする、いや……してあげたいんだ』

真剣な瞳で私に尋ねる彼………

『………』

『なんだい?言ってごらん?』

『………誕生日』






『………誕生日?』

私が今、脳裏に思い浮かべる光景は毎年、お祖母ちゃんと、お姉ちゃんと、私が3人でケーキを囲みながら静かながら……でも楽しかったそんな光景。何故かそれだけが、脳裏に印象強く残っていた。でも、それは思い出であって到底、お祖母ちゃんが亡くなった今では考えられない小さな催し。

『………祝ってあげたいんだね、お姉ちゃんを』

お姉ちゃんと私は二卵性双生児。

同じ日に生まれ、同じ場所で、同じ一時を生きてきた。

『………それはいつ?』

私は今までお姉ちゃんに苦労をかけてきた、私がどんくさいから。

いじめを受けていた私を庇い、そのせいで友達から目の敵にされたり………挙句の果てに家事から面倒ごとはは任せっきり。貰うだけ貰っておいて、私自身は何も返せていない………

『………』

『………いつ?』

私は……私は返せるのだろうか………?

この、この………想いを、返しても返し足りないこのありったけの想いを………

『………10月、13日』

『………それはちょうど前夜祭の日だね、うん!分かった!僕、いい事思いついちゃったよエリスちゃん』

彼はそう言いながら、笑顔で……汚れない笑顔で話を続けた。

『エリスちゃんの家でアリスちゃんとエリスちゃんの誕生日を僕が祝ってあげるよ!』

『………え』

『あっ、でもそれじゃあ意味ないよね。エリスちゃん、お姉ちゃんを祝ってあげたいんだよね?う〜ん……それじゃあ、こういうのはどうかな?僕とエリスちゃんでアリスちゃんを祝ってあげるとか、どう?でも、もちろんこれはエリスちゃんの誕生日でもあるからね!プレゼントも用意しておくよ!あっ、でも当日まで本人には内緒、ね?そっちのが面白いというかいいでしょ?ね?エリスちゃん♪』

『………は、はいっ』

信じられない………この人がここまで考えていたなんて………私が考えていた計画とほぼ同じ。

思わず、私は彼の提案を呑んだ………

『ははっ、喜んでもらえて嬉しいよ!当日が楽しみだね!あっ、もちケーキも用意しておくからね!』

『は、はいっ!あ、ありがとうございます!』






でも、それが、それが!………こんな、こんな!………こんなことになるなんて!!!






「んっ、んむ………んむぅ、んちゅ……んむ」

「はむっ………ん、んくっ、んむっ………んくっ」

今私の目の前に広がる光景は何……?何なの………?何なのコレ……?ねぇ、誰か教えて……教えて、よ……

「はぁ、はぁ……」

「ぷはぁー……アリスちゃんの唇……おいしいよ」

「は、恥ずかしい事言わないでっ(///)」

あぁぁぁぁーーーーー!!!!!

嘘っ、嘘っ、嘘っ!!!こんなの嘘っ!!!絶対嘘っ!!!ありえない!!!こんなの!!!

だって、だって………お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、彼のこと大嫌いで、それでそれで………私も大嫌いで………ははっ、嘘、嘘だよこんなの……茶番、茶番、茶番だよっ!!!こんなのっ!!!

「ははっ………」

乾いた笑みが零れた。

嘘、嘘、嘘、絶対嘘………お姉ちゃんは………お姉ちゃんは忘れていないはず。

今日がどんな日か絶対忘れていないはず、だって去年は………去年は覚えていたんだもん、私が家に帰ると豪華なご馳走が用意してあって、それでそれで………麻里ちゃん騒いで、楽しくて、でも、ちょっとお祖母ちゃんがいなくて寂しくて………でもでも!楽しかったんだから!嬉しかったんだから!忘れているはずない!うん!絶対ない!ないないないないないないないないないない!!!!!!!!!!ないんだからっ!!!!!

「もう1回………やる?」

「………ん」

ははっ、ねぇ……?

お姉ちゃん、それ私を驚かそうとしているだけなんだよね?

わ、私は分かってるんだよ………じ、実は知ってて、それであの……その、冗談言って………

あははっ、はは………も、もぅ!お姉ちゃんったら、悪趣味だな〜なんて………ねぇ。

「んちゅ」

「ん、んぅ………」

そ、そんな迫真の演技見せられても、わ、私は驚かないんだからねっ!

い、いつまでも子供扱いしないでよねっ!全然、ビックリしないんだから!そんなの………

「んちゅ……好き、浩二好き………大好き………」

「俺も……んちゅ、好き……だよ、アリス………」

あ、ぁ、あぁ…あぁぁ………ぁあああ………

聞きたくない、聞きたくない………演技でもそんなの………聞きたくない、聞きたくないよ………

何故か、何故かいつの間にか私の頬に暖かい何か、何か暖かい液が流れ落ちていくのが分かった………

ポタッ、ポタッ……

それが地面に落ちて楕円状の印をつけていく。周期的に、いや時間が経つごとにそれは増えていった。

苦しい、苦しいよお姉ちゃん………

痛い、痛いよお姉ちゃん………

ひどい、ひどいよお姉ちゃん………

こんな、こんな、いくらなんでもこんな性質の悪い冗談………私本気にしちゃうじゃない………

私は、私はどんな顔して飛び出せばいいの?

笑って?怒って?泣いて?

本当に酷いよお姉ちゃん………私、こんな冗談……受け入れられないよ………

「………………」

何故か、居たたまれなくなった私はじっとその光景を眺めていた………

「んちゅ、んむぅ………」

「ん……っ、んむ………………っ!」

目が合った、お姉ちゃんとじゃない。彼と。

お姉ちゃんは私に背を向けているので必然的に彼が私の方に向いていることになる。

私は二人の見えないような位置にいたけど………彼にはばれてしまったようだ。

でも、それならそれでいい。彼なら目の合図で飛び出せーとかしてくれるだろう………

でもそれは、次の瞬間ーーーーー……………






にぃ………






笑った、彼は笑った。

あきらかに私に向けて。

でも、それは合図でもなんでもなく。

私に伝えていた。

いや、私は分かってしまった、その意味を。






『馬鹿だな、お前』






私はその瞬間駆け出した。

足に力という力を加えて、駆け出した。

全体重を足にかけて、全力疾走。

誰の力も借りることなく、誰の力も借りずに。

駆け抜ける。

夜の校門という名の地獄門を通り抜けて。

坂道も、こけてもまた立ち上がって、コンクリートだから擦り剥いたら痛いけれど。

でも、そんなの気にしていられない。

だって、痛くないもん。

こんなの、あの痛みに比べれば。

ふと自分の膝を見ると血で滲んでいた、でも痛くない、痛くない。

もう少し、もう少しで我が家に着く、着くんだ。

それでそれで、今日はご馳走いっぱい用意したの。

去年よりもずっと豪華、豪華なの。

それに、ケーキ、お姉ちゃんの大好きなケーキ。

もちろん私も大好きだよ、チョコケーキ。

おいしい、本当においしいの。

頬が腫れちゃうくらい、おいしいの。

切り分けてあげるね、お姉ちゃんの分。

一切れじゃ足りないよね?、じゃあ二人でこのケーキ丸々半分こしちゃおっか。

えっ、そんなに食べきれない?

じゃあ、私が食べちゃうねっ

いいの?ほんとうにいいの?後で後悔しても知らないんだからっ

そう?じゃあ、私がたべちゃうね、いただきまーす。

もぐもぐ………

おいしいのぉー

もぐもぐ………

おいしい、おいしいのぉー

えっ、食べたい?でも、もう遅いもーん、エリスが全部食べちゃう、食べちゃうもーん。

………

おいしいね、本当においしいねこのチョコケーキ

もぐもぐ………

あっ、お姉ちゃん、いつものあれ歌ってなかったよね。

あれだよ〜ほら、あれー………

ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデー、ディア………

ハッピーバースデートゥーユー………






ハッピーバースデートゥーユー

ハッピーバースデートゥーユー






ハッピーバースデー、ディア………

ハッピーバースデートゥーユー………






………………






ハッピーバースデートゥーユー………






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