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第83話『混沌とした純黒の中で』

今回は前話の小田原浩二視点となります。

混色。

世界を構成する物質の飾り付けを為す色は一つ一つ意味があって、ソレを特徴とする色を採用している。

情熱の赤。

冷静の青。

恋情のピンク……などなど。

といったように、確かにひとつひとつ何かしらの意味がそこには存在する。

そのように色を誇示する事でそのものに質感を与える。

それだけではない、同時にこれらの色は何かを暗示している。

前に挙げた赤は情熱、青は冷静………といったように。






混色。

世界を構成する物質の飾り付けを為す色は一つ一つ意味があって、ソレを特徴とする色を採用している。

ただし、色の意義は三つ。

1.色のひとつひとつは何かしらの意味が存在する、そのものに質感を与える。

2.暗示する、しかしそれは人それぞれ感じ方が違う。

3.混色は世界が許さない、だってそれは混沌を意味するのだから。

混色は単色では無い、という意味ではない。

例えば、白。

これは光の三原色である赤、緑、青を混ぜれば出来上がる。

白は混色ではない、混色で出来上がるものではあるがここで意味する混色とは意味が違う。

ここでの混色とはカオス、混沌を意味するところにある。

なので………それとは正反対の色、黒をイメージすると良い。

黒は全ての波長の光を吸収する。

これの意味するところは常に黒が黒であり続けるところにある。


つまり………黒に何色を混ぜても黒なのだ、赤、緑、青、黄、白、紫………何を混ぜても黒、黒でしかない。

しかし、逆に黒を作ることは出来る、色の三原色である緑青シアン赤紫マゼンタ(イエローを減法混色すれば良い。先ほど述べたとおり黒を分解、黒を失くすことはできない。

黒に可逆はない、一方通行。

ここで言う混色とはそういうもの。何を、いくら混ぜても黒は黒でしかない、だから混色。

一度、黒に染まったモノは黒でしかない。






小田原浩二という人間はすでに黒に染まっていた。






「浩二君………私、あなたの事、好きっ、好きなの………」

目の前にいる小娘は俺にそう告げていた。

俺の目の前にいる小娘は確か、エリスと言ったか………ふぅん、容姿は逸品だね。

しかしまさかこうも早い段階で仕掛けてくるとは………これが本心で言ってるのならちょっぴりときめいちゃうのかも。

「………それで?何?」

だが、俺は知っている。この小娘は嘘をついている、と。

「それでって………」

俺がとぼけたフリをすると目の前の小娘の顔は少し困惑した表情に変わる。

さっきまでは恥ずかしそうに頬を染めていたのにコロコロと表情が切り替わるものなのだな、見ていて実に面白い。

「………」

俺は敢えて返事をせず、小娘の次の言葉を待った。

「好き………浩二君の事が好きなのっ!!!!!」

すると今度は大声で目の前の小娘は俺に叫んだ。もしかして外に漏れてるんじゃあないか、コレ?

「………」

目の前の小娘は射抜くように無言で俺を見つめる………これで分かった?とでも言いたいのか?

まさか、ラブコメの主人公でもさっきの言葉で気付かぬほど鈍感じゃあるまいし………気付かぬわけがない。

……返事待ちか、小娘?強気なその瞳には今にも透明な液体がこぼれてしまいそう………慣れていないの丸出しだよ。俺は頭を掻いてこう呟いた………

「好き………俺もお前のことが好きだ」

「………っ!」

驚きの表情、あらら。これ、君が求めていた台詞なんじゃないの?

「……で?これでいいの?エリスちゃん?」

「………………」

返事もなしか、小娘。

「はぁ……返事くらいしてくれよ、やれやれ……そんなに俺は信用ないかね?」

痺れを切らした俺はついそう呟いてしまった。

いっけね、ちょっと先走りすぎたかな?……まっ、いっか。俺は無理矢理な笑顔を小娘に向けた。

すると目の前の小娘は首を横に振った………すでにそれが拒絶の意味なんだけどねぇ………

「………へぇ、やっぱり、ね。そんな事だろうと思ったよ」

もう限界、か。

このまま俺が俺であることを隠し続けても無意味なようだし、彼女は彼女で気付いているだろうし………

「な、何を………っ」

今頃、焦る?焦るの?

もしかして、気付いていない?まさか。

俺は分かってるんだよ、エリスちゃん。君がそう……俺に好意を向けるのを。

それは嫌悪の裏返し、ってね。






「君、俺の事、正直嫌いでしょ?」

「一一一一一一」

彼女の顔が蒼白になる。………気付いていなかったのか。この俺を騙し通せるとでも?

「な、何を……言ってるんですか………私はーーー」

だから俺は言ってやった、敬意を込めて、嫌らしく。

「嘘だねぇ……」

ますます彼女の顔は蒼白になる。

俺はそんな小娘の様子を見て背筋がゾクゾクしてきた………楽しい、なっと。

最初は引いて引いてひたすら引き伸ばして最後に楽しもうかと思ったんだけど………もうその必要も無い。

ここで楽しもうーーーー………

「ホント君分かりやすい子だねぇ。君、ギャンブルとか絶対苦手でしょ?ほら、ババ抜きとかポーカーとか」

だけど、目の前にいる小娘、いや玩具をそのまま壊してしまうのは実に勿体無い。

少し、心の余裕?って奴を持たせておいて少しずつ……じわりじわり……じっくりと楽しもう、この状況を。

あぁ!なんて楽しいんだろう!ワクワクする………この玩具が壊れていく様を想像できよう。

「……話の腰を折らないでください。どこに……どこにそんな証拠があるって言うんですか………」

すると目の前の玩具は心に少し余裕が出来たのかもっともらしい事を口にする。

証拠なんて無いんだよ、証拠なんていらない。だって俺は、いや俺そのもの存在が混沌なのだから。

だから、目の前の玩具が困惑する様が楽しい。俺の遊び心がますます心を掻きたててゆく。

「それが全てだよん」

ほら、玩具よ、悩め!悩め!悩め!

そうやって、俺にそういう弱いところを全て晒し出せ!ほら!ほら!ほら!

ただし受け止めてやれるかどうかは別だがな、くひひ!

「どういう意味………ですか」

ほう、まだ冷静でいられるか。

意外とこの玩具、もつな。あの弱い姉……いや、メスブタに比べて。くひひ!

だけど、そんな猶予は与えてやら無い。俺の目の前で苦しめ!苦しめ!もっと苦しめ!くひひ!

「さて………悪いけど俺もう帰らなくちゃ」

もちろん嘘だ、逆だ、帰りたくない、この場から。

帰してやるものか、玩具、お前は選択を誤った。そのまま引いていればいいものを。

姉のために俺から遠ざけようと嘘の告白をしたお前の罪だ、コレは、ほぉら抗え!抗え!もっと抗え!俺を楽しませろ!!!!!くひひひひひひ!!!!!

「………っ!」

「おっと、俺に近づかない方がいいよ。俺はまだ君の告白『もどき』に返事をしたつもりはないからね」

「う、嘘っ!さっき、私の事っ………」






「俺に近づくなって言ってんだよ?小娘」






玩具はその場から動かなくなった。

ほぉら、来た、これだ、待っていた、待ち続けていたこの時を。

もう逃がさない、ここからだ、おたのしみは。玩具にひびが入った。くひひ。

「………っ」

そうだ、その表情だ、もっと俺に向けろその表情を、楽しい、楽しい、たのしい、タノシイ!くひひ!

「まっ……そんなところだとは思ってたけどさ………まぁ、こうもあからさまにやられるとは思いもしなかったけどね」

ねちねちと目の前の玩具に台詞をくれてやる。

今、俺の口から練りだされている台詞はあくまで目の前の玩具を少しずつ……少しずつ痛めつけてやるもの。

こんな台詞に意味なんてあるものか、くひひ。

「はっ……はぁはぁー………くっ、はっはぁ……」

あはっ、なんだその吐息は………俺を誘っているのか?くひひ。

「おや?どうしたの?顔……辛そうだね………保健室……行く?」

こんなものもうっそ!嘘!うっそ〜♪誰が行かせてやるものか!くひひ!

「はっ、はぁーはぁー………なっ、ん、で………」

「ん〜?」

「なんで………私、……私、貴方のこ………んっ!?」






パチーン………






「そんな自分を偽るのはもうよそうよ?いい加減イライラしてくるんだよね?そういうの」

イライラなんかしない、むしろワクワクしてくる。

目の前の玩具は思った通りの働きをしてくれる、なんて優秀な作品なんだ!くひひ!

「………っ」

怯えてる怯えてる………玩具がドンドン壊れていく………く、ひひっ!

「痛み………って分かる?エリスちゃん?今俺が君に手を上げたのも分かってほしいから………痛みを、ね?痛いでしょ?すっごく痛かったでしょ?うん、俺にも分かるよその気持ち……まぁ、俺の痛みはそんなんじゃあ治まりきれないけどね……と、まぁ言ってみたものの………俺はそんなセンチメンタルな人間じゃないんだけどね」

何で俺はこんな口からでまかせが次々とでてくるんだろう………くっくっひひっひひ!!!!!

玩具、玩具、玩具、俺はただお前の表情が見たいだけなんだよっ!くひひゃひひっひ!!!!!

「あぁ、分からないさ。俺はこんな痛みも!こんな痛みも!!こんな痛みも!!!」

パチンパチンパチン

あぁ!楽しい!楽しい!楽しすぎて!止まらない!止まらない!止まらない!くひひひひひ!!!!!

「……っ、ぁ」

「あ、痛い?痛いでしょ?でも、俺にはそれが分からない!知らない!!誰も教えてくれなかった!!!」

パチンパチンパチン

なんて可愛い玩具なんだろう!玩具!玩具!お前は一生僕が壊してあげるからねっ!くひひひひひ!!!!!

時間も忘れてしまうっ!くひひひっひゃははははは!!!!!くひっ!!!!!!

「は、ははっ、やっぱり。やっぱり………君は、いや……君もそうやって、ずっと……ずっと……僕の前で我慢し続けるんだね……残念だよ………」

何が残念なのか、自分でも分からない。満足だ、でも足りない。

壊してしまいたい、玩具を。目の前にいる玩具を。徹底的に、ボロボロに、何もかも。

「………」

「そう、君がその気なら………俺は………」











「僕は君の全てを受け入れるとしよう」






そう、この混沌の中で。

玩具を壊す。

僕はただ、それに身を委ねるのみ。

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