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第82話『生贄』

(※エリス視点)

「……で?これでいいの?エリスちゃん?」

「………………」

私の目の前でやれやれといった様子で机に腰を掛ける彼………小田原浩二。

「はぁ……返事くらいしてくれよ、やれやれ……そんなに俺は信用ないかね?」

彼はぎこちない笑顔で私に返事を求める。が、私には彼のその態度に何か裏があるように見えて………敢えて返事をしなかった。そこで仕方なく私は軽く首を横に振った。

「………へぇ、やっぱり、ね。そんな事だろうと思ったよ」

彼は私に下卑な笑みを向け意味深な台詞を吐いた。一瞬、胸がドキッとする……まさか、そんな……だ、大丈夫………そんなはずはない、そんなはずは……ない……

「な、何を………っ」

思わず私は彼に問おうとしたが………口を閉ざした。しまった……少し動揺してしまった。しかし、この程度の事……取り繕うまでもない。落ち着け……落ち着くんだ私………ここで……ここで、失敗は許されないんだ………ここで私が一歩謝れば………多分、その先は底なし沼ならぬ地獄が待ち構えている………地雷を踏むわけにはいかない。そのために私はこれまで『仮面』で取り繕っていたのだから………






私はその場でふと目を閉じた………目を閉じればそこは闇、今まさに私は彼という闇の中、無我夢中でもがいているのだ………闇に飲み込まれぬよう必死にもがいてもがいて………一筋の光を探し出す。でも、前後を見ても左右を見ても上下を見ても闇、闇、闇………四方八方に闇、闇、闇、この世界は永遠の闇で包まれていた………感覚が無い、感触が無い、足場も無い、あるのは『恐怖』という感情だけ、それだけで耐えている。怖い、目の前…いや、私の全てを包む闇が怖い………この感情さえも無くなってしまえば私はどうなってしまうのだろうか………想像もしたくない………闇に飲み込まれ私は間違いなく人間としての機能を失うだろう。その前に………そのために早く、早く光を探さなければ………






お姉ちゃんは私にとって光のような存在だった。





だから……今、目の前にいる彼、闇に飲み込まれるわけにはいかないのだ………






でも、もし。






私が闇に飲み込まれたとしても。






その時は喜んで犠牲、いや生贄となろう………






光を遮る闇の生贄と………











「君、俺の事、正直嫌いでしょ?」

「一一一一一一」

彼の一言で脳に断続的なノイズが流れる一一一………やっぱり、この人は一一一………一一一………

「な、何を……言ってるんですか………私はーーー」

「嘘だねぇ……」

…にぃっと、なぜか愉快に……嫌味ったらしく口の端を歪める彼………まるで目の前の私を辱めるように………そんな寒気を覚える一言であった。

「ホント君分かりやすい子だねぇ。君、ギャンブルとか絶対苦手でしょ?ほら、ババ抜きとかポーカーとか」

「……話の腰を折らないでください。どこに……どこにそんな証拠があるって言うんですか………」

落ち着け私一一一多分、目の前の彼、いやこの男は私の反応を見ているんだ。いや、見ながら楽しんでいる………だから、私が少しでも動揺すれば………勘繰る……だから、悟られる………私は自分にそう言い聞かせていた………言い聞かせていた、が。

「それが全てだよん」

にっと………今度はさっきとうってかわって爽やかに笑う………私はそのギャップに一瞬背筋にゾッとしたものが走った………そして同時に………私の中の何かが崩れた………それはもう、あっけなく。

「どういう意味………ですか」

そう問いつつも私はすでに確信していた………彼が、闇が蠢く、私の意図に勘付いて。

「さて………悪いけど俺もう帰らなくちゃ」

彼は机から離れ、私に背を向け教室を出て行こうとする………私は咄嗟に彼を追いかけ、いや止めようと……

「………っ!」

「おっと、俺に近づかない方がいいよ。俺はまだ君の告白『もどき』に返事をしたつもりはないからね」

「う、嘘っ!さっき、私の事っ………」






「俺に近づくなって言ってんだよ?小娘」






ゾゾゾゾゾ………………

「………っ」

……な、なに?今の悪寒………虫が……虫が……虫が私の身体を這うような感覚は………?

い、い、や………な、何で……?何で………私………動けない………?

「まっ……そんなところだとは思ってたけどさ………まぁ、こうもあからさまにやられるとは思いもしなかったけどね」

全身から汗という汗が流れてくる………彼が喋るにつれ、眩暈・頭痛・吐き気も催してきた………

「はっ……はぁはぁー………くっ、はっはぁ……」

くっ……声が出ない………それどころか息切れが激しい………く、苦しい………私は堪らずその場でうずくまってしまった。

「おや?どうしたの?顔……辛そうだね………保健室……行く?」

彼の平坦な声が頭上から聞こえてくる………私の目の前で突っ立っている………が、今の私には上を見る余裕は無かった。それでも私はお腹に力を入れ………

「はっ、はぁーはぁー………なっ、ん、で………」

「ん〜?」

「なんで………私、……私、貴方のこ………んっ!?」






パチーン………






左頬に鋭い痛みが走った………

「そんな自分を偽るのはもうよそうよ?いい加減イライラしてくるんだよね?そういうの」

「………っ」

笑っている………見ていないけど……彼は今、私を………嗤っているんだ………

「痛み………って分かる?エリスちゃん?今俺が君に手を上げたのも分かってほしいから………痛みを、ね?痛いでしょ?すっごく痛かったでしょ?うん、俺にも分かるよその気持ち……まぁ、俺の痛みはそんなんじゃあ治まりきれないけどね……と、まぁ言ってみたものの………俺はそんなセンチメンタルな人間じゃないんだけどね」

彼は突然ワケが分からないことを語りだす………

「あぁ、分からないさ。俺はこんな痛みも!こんな痛みも!!こんな痛みも!!!」

パチンパチンパチン

続け様に彼は私の頬を打つ………私は必死で彼の暴力に耐えていた………

「……っ、ぁ」

「あ、痛い?痛いでしょ?でも、俺にはそれが分からない!知らない!!誰も教えてくれなかった!!!」

パチンパチンパチン

私は……ただ耐えるしかなかった………ただひたすら耐えて、耐えて、耐えて………彼の目線が『他』に走らぬように………

「は、ははっ、やっぱり。やっぱり………君は、いや……君もそうやって、ずっと……ずっと……僕の前で我慢し続けるんだね……残念だよ………」

「………」

彼はふと振り上げた手を止め………

「そう、君がその気なら………俺は………」











「僕は君の全てを受け入れるとしよう」






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