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第81話『優しい拒絶』

キーンコーンカーンコーン………

「………ん」

校舎の鐘が鳴り響く音で私は今まで机に伏せていた顔をゆっくり上げた。

周囲を見ると教科書や携帯ゲーム、その他諸々を鞄にしまう者、痴話をする者、愚痴を吐く者等でひしめき合っていた。そうか……もう、放課後………結局今日も1日中寝てしまった。まぁ、今に始まった事じゃないし………最初の内は教師があれこれ煩くのたまわっていたが、疲れたのかもう最近では何も言わなくなった。

「………」

もう、ここに長居する理由が無い。

そう思った私は何時までも騒がしい放課後の教室を後にした。






夕日に染まる廊下を意味なく徘徊する。

そんな、他人から見れば不審な行動が私にとっては唯一の癒しに値するものだった。

それも、クラスメイトに見つかってはオジャン。1人で行動するからいい……ううん、そうじゃないと意味が無い。何より、これは少しでもあいつらと距離を置きたかったからだ。

距離を置きたかった……いや、それだと私から離れていったみたいで癪ね。

距離を置きざるを得なかった……うん、こっちの方がしっくりくる。

別にあいつらの事が嫌いなわけではない。あいつらは私の事をどう思っているか知らないけれど。

興味が無い、関心が無い………まぁ、そんな所か。

あの事件以来、クラスメイト達は何も言わなくなった。

病院で生死を彷徨った私の脳裏にはっきりと残っていたものは妹の泣きじゃくる声、ただそれだけ。

後は曖昧、事件の存在は残っていたが自分が何をしたのか、何をされたのか、忘れたわけでは無いけれど何かもやで薄れかけていた。

回復後、クラスメイトの反応は一貫していた。

何も言わないから直接聞き出したわけではないけれど、明らかに私を見るソレは………恐怖と畏怖がひしひしと表れていた。狂人、狂人、狂人………授業中にぼそっとそんな声が聞こえた。それは私に向けられた言葉なのか、空耳なのか、それは分からないがとにかくそれから私とクラスメイト達は距離を置く関係となった。

苦痛ではない、むしろ疲れないし、私はこの現状を変えようとも思わなかった。

以前の私ならこんな現状は絶対許せなかった、何よりこんなひねた自分が許せなかっただろう………きっと。

でも、今はどうだ。そんな綺麗な考え方ができない。






なんで奴らのために自分が変わらなくちゃならないの?

なんで奴らのために自分から歩み寄らなきゃならないの?

なんで奴らのために自分が必死にならなきゃならないの?






別に答えが欲しいわけではない。むしろ、真面目に返答されたら困る。(我が妹ならしそうだが)

自分にそう言い聞かせる事で納得したかっただけだ。ほら、これならどうだ。これなら今まで胸の中に溜まっていたカァっとした熱さが冷めてくる。冷めると………クラスの事等どうでもよくなってくる、いや何もかもどうでもよくなってくる。1つを除いて。

でも、これは単なる己の逃げ道。ひねた考え方以外の何物でもない。

けど、そんなことは分かりきっている。フフ………ますます性質が悪いわね。






人間は1人では生きていけない。






そんな事、誰が最初に言ったのか知らないけれど今の私には胸にグサッとくる。

それを否定できない自分に対して………否定したいけれど否定しきれない自分に。

衣食住……そういう現実的な面に対して否定できない、そういうわけではない。

ひねた自分の拠り所、開かずの部屋に差し込む唯一の光………それが自分の中で存在するからだ。






エリスというたった1人の妹であり家族………そして、唯一の私の開かずの部屋の『鍵』。











「そんなんじゃ、ぜーんぜん誤魔化せないよ」






廊下を歩いていると聞き覚えのある声が私の耳に届いた。

聞き覚えのある声……いや、聞きたくなかった、少なくとも今の私は………でも、聞こえてしまった。

無視すればいいものを………どこかまだ人と繋がりたかったのか、馬鹿な私は気持ちとは裏腹に声の震源地の方に振り向いてしまった。

とある教室、誰もいなくなったはずの教室。

未だ消されず、前の黒板に残る数学の板書。

日直は2人指名されている………サボり、ね、ざらにあることだ。

全然整理整頓できていない机、机の引き出しに教科書やプリント類がぐっちゃぐちゃに詰められている。

それだけではない、コンビニで買ったのか、紙パックに入ったジュース(中身は残っていないだろうが)や雑誌類が無造作に机の上に置かれている。ゴミ箱はゴミで溢れかえっている。

言い方が悪いだろうがこれだけでこのクラスの生徒の質が知れる、第一印象は大事だなとつくづく考えさせられる光景である。教師は何をしているのだろうか?……いや、今そんなことはどうでもいいことか。

冷静にどうでもいいことを分析し終わった………というよりもそんなどうでもいいことを考える事で自分を落ち着かせた、心を冷やした、が……それでもこの………熱さは振り切れない。






誰もいないはずの妹の教室でエリスと………あの男、いや寄生虫ーーー小田原浩二が対面していた。






「………っ!」

2人から見える位置にいた私は慌てて教室の廊下側の窓の下に隠れた。

「……ん?今、誰かいた………?」

不快な小田原の声が聞こえる………

「気のせいだよ………それより、返事、聞かせて浩二君」

エリスの声が聞こえる。

どうやら見つかっていない模様……あぁ良かった、と安心はできない。

それより、この状況は何だ………さっきの小田原の………

『そんなんじゃ、ぜーんぜん誤魔化せないよ』

……どういう意味?全然、分からないが……私はこの今の状況にただ苛立ちを感じていた………

「だからさぁ……そんなんじゃ全然、誤魔化せてないって、あはは」

エリスの言葉に小田原は薄ら笑いを浮かべていた………そんな小田原の様子にますます苛立ちを覚える………

今にも飛び出して殴りかかりたいところだが………とりあえず状況がよく分からないので様子を見る。

「………………」

「黙ってても俺にはぜーんぶわかっているんだよーん。君がそんな必死になっていることも、急に君が俺に接近してきたことも、君のお姉さん、アリスちゃんの態度がおかしいのも、ぜーんぶ、ね♪」

小田原はちゃらけた様子で答える………が、何だ………言葉の節々に伝わる確信めいた何か………ますます、私の中の熱さが込み上げてくる………何だろう?苛立ちとは別に何か不安が募ってくる………

「お姉ちゃんは………関係ない」

エリスの………冷たい言葉が聞こえてくる………

普段とは違うエリスの………まるで何か、私の………私を、まさか私を拒絶している………嘘、でしょ?

私は………私は………

「ありゃ〜?お姉ちゃんは関係ないの?てっきり俺は、いや絶対……」

「とにかく……お姉ちゃんは貴方とは無関係、私はお姉ちゃんとは血は繋がっているだけで………ただそれだけ、この件に関して何も関係ない。それより私は貴方の返事が聞きたい。私は真剣だから……」

血が繋がっているだけ………私とエリスは………そんな………

「んー……そっか、まっ……いいでしょ。エリスちゃんの質問に対する俺の答えは決まっているわけだし」

「そう、なら………返事、聞かせて」

………






いたたまれなくなった私はその場から、誰にも気付かれぬよう逃げ出した………






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