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第80話『そこにいる存在』

部屋と部屋を繋ぐ扉。

それはある空間と他方の空間を隔てるいわゆる『ついたて』のような役割をしている。

各個の部屋に他者の思想が反映されない『自分の空間』の形態を常に保つ、いや人はソレを保とうと日々努力している。まぁ、例外的に自分からソレを崩す者もいるが。

つまり、扉を開く事で初めて人と人は交流を交えて人から人へまたある人から人へ………人間関係を築き上げていく。しかしその交流関係は前述で述べたように扉が開く事で初めて発揮するもので扉が開かれぬ場合はそこで滞る。だからと言って人から人への交流が止まることはなく専ら別ルートで人は人へと交流を築き上げていく。従って、その交流を止めた人は特殊な人ーーー浮いた人となる、それは人間社会で既に暗黙の了解となっている。そうなったら、もう他者の介入、関係を失ってしまう。そこには他者の意思や思想は一生反映されない『開かずの部屋』ができてしまう。






そして、鍵。

それは部屋と部屋を繋ぐ扉を施錠する際に必要な道具。

扉は基本的に扉だけで機能しているわけでなく鍵とセットで機能している。(便宜上、ここでは鍵なしの扉は考えない事とする)さっき言った交流はこの鍵で制御できる。鍵をかけることで他人との交流を遮断する。

もっとも、それは人の意思により行われることで通常、施錠しないのが普通ではあるが。

つまり、人と人の関係が崩れてしまえばそこで鍵が掛けられる………かもしれない。

どちらかのアプローチで鍵で開けられ、また部屋と部屋が、人と人が繋がっていく………かもしれない。

いずれにせよそれは当人同士の問題で部屋が遠い、つまり繋がりが浅い者が簡単に介入できる問題ではない。

それと、鍵は単独で存在しない。

なぜならば、鍵を持つとは他者と関わりあう意と同様、そこには2人の所有物となり、複数存在する事になる。アメーバのように鍵が分裂するとは奇妙な話だが。つまり、その鍵の所有者が多くなる事で一種の『グループ』が形成されていく。人間関係でもよくある好きなもの同士のグループ分け、あれだ。

確固たる鍵が形成されてしまう事でますます『開かずの部屋』の住人は『あぶれた存在』化してしまう。

このように………鍵は人間関係を築いていく上で重要な道具となりうると同時に人間関係を壊しうる道具ともなりうるわけである。






アリスという少女は『開かずの部屋』の住人であった。

しかし、別に自らソレを望んだわけでは無い。周りの環境が徐々に彼女そのような住人に変えてしまった。

最初は髪の色だった。彼女の髪の色は銀色ーーー人によってはそれは美しいと称し、またある人によっては珍しい、またある人によっては好意を抱き、またある人によっては嫌悪を抱く者、そのように人は様々な感情を抱くであろう。少なからず、それは特別視されているわけで………

『あんたさぁ?最近調子乗ってない?』

そんな突拍子も無いことを罵られた事もしばしば。それは、まぁ、ある種の妬みからくるものだが………まぁ、妬みは厄介。なんせ、羨望、嫉妬の中でも最上級のもの、ワーストだ。ねちねちと………最初は言葉で吐かれ、責め続ける。これは正直苦痛である。しかし、こんな根拠も無い台詞に対して正義感の強い彼女は……

『調子なんか乗ってないんだけど』

馬鹿正直に答えてしまうのがアリスだった。しかし、彼女は気付いていなかった。この台詞に対して馬鹿正直に答えてしまうことが彼女にとってマイナスにしかなりえないことを。






ある日、アリスが教室に入るとどこか……いつもと違う空気が教室中に漂っていた。

同棲から発せられる視線という視線、視線、視線、視線ーーーーー

なんだろう………?アリスは不思議になり、近くのある女子達の会話に聞き耳を立てると………

『あいつ………アリスって絶対、調子に乗っているよね』

………アリスは心臓を捕まれるような気持ちになった。別にその言葉に対して不快を抱いたわけではない。なんせ、その台詞は昨日、嫌な女子に言われたのだからーーー………そこまで気にしていない。それが問題ではなくて………その、その会話を、よりによってその会話を………昨日まで仲良く話していた女子がしていた。

これだけで、頭がクラッとくる………そして、アリスは気になった。自分は………何か嫌な事を相手にしたのだろうか?何か、何か………そう頭の中でグルグル考えて、考えて、考えているいる内に………彼女はついにある行動に出た。

『ねぇ……私、あなたに何か………悪い事した?』

彼女、アリスはどこまでも馬鹿正直だった。どこまでも馬鹿正直で………純粋に正直な親友の気持ちを知りたかった。それで……指摘されたなら、そういう自分の悪いところを全て直したかった。いわゆる『完璧人間』でありたかった。いや、というよりも親友には嫌われたくなかった………親友だけには嫌われたくなかった。でも、アリスが望んだ答えは得られなかった………

『死ね』

………なんで、なんで?ねぇーーーワタシナニカワルイコトシタ……?

『つーか、あんたうざいのよ』

ワルイコトシタ………?ネェ、オシエテ………ワルイトコロナオスカラ………ネェ、ネェ、ネェ………?

『目障り』

オシエテ………ワルイトコロナオスカラ………ネェ………

『ウザイ』

ワルイトコロナオス………ナオス………カラ………ネェ………

『キモイ』

ワルイ………トコ………

『死ね』

………

『キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』











頭の中でグルグルグルグルーーーーーー

こうして、彼女、アリスという少女は狂った壊れた崩れた………

いつの間にか何人もの人という人に囲まれて罵倒されることで………彼女の中の何かが壊れた、壊された。

悪い事、悪いもの、悪い人………それは自分なんだと、そう、自分なんだと。

勝手に自分の頭の中で肯定してしまった………そこに否定するものはもう誰一人としていない。

最後の牙城………『自分』でさえも肯定してしまった………

そうなったら、もう歯車は止まらない………

グルグルグルグルーーーーーー

そんな悪い人はこの世の中から消えなくてはならない、そうアリスは悟った。

この世に未練もクソも何も無い………そんなものとうに捨てた。

グルグルグルグルーーーーーー

あるのは………この肉体、この汚れきった、いや汚れきった肉体………こんな肉体があるから。

こんなわけもわからぬ、汁………涙があふれ出る………何故だろう?

同時にそんな下らぬ自分の存在におかしく笑みがこぼれた。

何故?何故、こんな………わけがわからない、何故、自分はこの世に生れ落ちたのだろうか?

苦痛、後悔、自虐、懺悔ーーーーーー彼女の中で何か、大切なものが欠落した。






プシューーーーー………………






教室中に奇声と涙と血と狂気がーーーーーー舞った






それは、全て彼女のもので、美しく、まるで芸術のようーーーーーー






狂いながら意識が徐々に落ちていく彼女はそう思った。






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