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第79話『寄生虫』

ジリリリリリリ………………カチッ

「………」

私は耳元でいつまでも鳴り響く喧しい時計のスイッチを押した。

実は結構前から鳴っていたのだが私はあえて無視………というより本当はスイッチを押す気は無かった。

このまま二度寝でもしてやろうか………そんな事まで思ったくらいだ、しかし別に眠たいわけでは無い。

押す気力が無い………気だるい………というより、また新たな1日が始まるのが欝だったから。

「………寒い」

冬の朝は容赦なく凍てつくように寒い。

こんなにも晴れているのに………私への当て付けだろうか?そんな馬鹿な事まで考えてしまう。

とにもかくにも、ようやく目が冴えて来た私はふと枕もとの時計に目をやる。

「………………7時30分、完全なる遅刻ね」

学校じゃない、新聞配達のアルバイトだ。

……まぁ、やってしまったのは仕方が無い。

今から行った所で既に配達は終わっているだろう……そもそも生徒の身分で早朝のバイトは無理がある。

それに………私は家事もしている。

ろくに家事も出来ないエリスのために………いや、何も出来ないエリ………

「っ!な、何考えてんの………私……」

決めたじゃないか、約束したじゃないか、祖母が亡くなったあの日ーーーーー






『アリスちゃん……………最後に………最後に1つだけおばあちゃんのわがまま………聞いてくれるかい?』






「………ハハ」

馬鹿だ、私は。

すっかりあの日の約束を忘れて。

自分の事ばっかり考えて。

「ごめんね………おばあちゃん」

祖母の遺影を見つめながら私はふと思うーーーーー






でも今はもうあの日のおばあちゃんの『わがまま』、忘れちゃったよーーーーー






「………」

パジャマ姿の私はそろそろ1階に降りようと階下に向かおうとした時………ある異変に気が付いた。

「………何、この匂い」

異変………といっても別にこの間のようなえげつない臭いではなく、むしろお味噌汁のいい匂いが階下からした。でも、それが我が家にとっては異変であってありえないことである。なぜなら、我が家で料理ができるのは私くらい。もちろん、エリスが出来るわけが無い。麻里先輩も然り、だ。なら、何だこの食欲のそそるいい香りは………この間とは違う嫌な汗が出てきた………

「………」

私は恐る恐るゆっくりと一段一段、階段を下りていく。

あぁ、何だ。この何とも言い難い緊張感は………気持ち悪い、それはまるで私の中に異物が取り込まれるよう………うじゃうじゃと何か嫌な『虫』が疼いている様………あぁ、嫌だ嫌だ………






ウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャ

ウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャ

ウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャウジャ






「おっ、起きてきたねん♪ア〜リスちゃん♪おっはー♪」






……そこに、『虫』がいた。






ーーーそれは、まるでーーー

ーーー私達の日常を覆すがごとく………日常と非日常が混純し……ーーー

ーーー非日常こそが日常ーーー

ーーーそう、それが当たり前なのだと……ーーー

ーーーこの男に諭されているようで……ーーー

ーーー私は一瞬、ほんの一瞬、安心してしまった……ーーー

ーーーでも、ほんの一瞬の後、暗転……ーーー

ーーー安心を奪われた……この男の手によって……ーーー

ーーーあぁ、眩暈がする……ーーー

ーーーこの男に侵されていく……ーーー






「あっ、お姉ちゃん!おはよう!」

エリスの声で我に返る。……小田原の傍にエリスがいた。

「………エリス、あんた………な、に、してるの?」

私が台所で見た光景は目にもしたくない………エリスと小田原が互いに寄り添って、その……仲むつましく朝食を作っていた………それは傍から見ればまるで………恋人同士………あぁ、何だこれは。……嫌だ、この場から逃げ出したい………どこか遠くへーーー

「何って………見れば分かるよね?浩二君と一緒に朝ご飯作ってるんだよ♪」

「いやはや………エリスちゃんって言わせてもらったら悪いけど………ぶっきようだね〜〜〜♪包丁使わせたら見ているこっちが怖い怖い………俺が何度止めたか………俺が止めなかったらこのまな板血まみれだよ?」

「もっ、もぉ〜〜〜(///)浩二君っ!!!それはお姉ちゃんの前で言わない約束だよぉ!?」

「あはは!!!ごめんごめん………いやぁ、でもそんなおっちょこちょいのエリスちゃんはかぁいいなぁ〜〜〜ってつい思ってしまうわけですよ!俺ちんは!」

………浩二君?この男の名前………いつの間に………そんな、………

「もぉ!!!そんな恥ずかしいこと言わないでよ!!!浩二君!!!(///)」

「あははっ!!!俺っち、つい好きな人にいじわるしちゃうんだけどねぇ………ほら、赤くなってるエリスちゃんかぁいいし♪」

「〜〜〜っ(///)」

「耳まで赤くなってる………♪ほんとーーーにっ、かぁいいなぁ〜〜〜エリスちゃん♪」

「もっ、もぉ………(///)」

エリスは小田原の言葉に恥ずかしがって入るものの満更でもない様子………これではまるで………

「あっ、お姉ちゃん、朝ご飯もう少ししたらできるから待ってて!」

「そうそう、待っててね♪俺がほとんどやってンだけどね♪」

「も、もぉ!!!浩二君は余計な事、言わないでぇ!!!(///)」

「………」

私は………イスに座り、じっと………じっと幸せそうなエリスと小田原を眺めていた………今、私はどんな顔をしているのだろう………ただ、私はその光景を、じっと、見つめていた。………………






その後、食卓には色とりどりの、朝食とは思えないほどの、豪華な料理が並べられたが、味は覚えていない。






「そういえば、もうすぐうちの学園祭だよね?エリスちゃんのクラスの出し物は何やんの?」

私、エリス、そして小田原が朝の通学路を歩いていた………その時、エリスに学園祭の話を振ってきた。そうか……もう、学園祭……そんな時期。日々、忙しかったからその存在もすっかり忘れていた………

「え?私のクラス?メイド喫茶だよ?」

「へぇ、えらい学園祭の定番所をやるんだね。まぁ、俺っち、覗きに行くからさ♪エリスちゃんのメイド姿とスカートの中♪」

「も、もぉ!恥ずかしいなぁ……!最後のはセクハラだよ!!!(///)」

恥ずかしそうに俯くエリス………朝から何度この反応を見たか。

「ははっ………まぁ、それは冗談として………アリスちゃんは何やんの?」

「………」

「………お姉ちゃん?」

エリスが私の顔を覗く………仕方ない。

「………ふ、普通の喫茶店………よ」

嘘をついた………実のところ知らない。だって、私はクラスから浮いていたから………

「………ふ〜ん」

小田原は私をじっと見つめる………嘘、ばれた………?いや、そんな、訳、無い………でも、何?その………目?まるで、見透かされているような………やだ………寒気がする………

「おっ、今日は余裕で学校到着だね」

小田原は私から目を離すとそう言って校門の中をくぐり、エリスはそれに続いて校門をくぐって行った………






………今日も、私の、日常が、始まる……ーーーーー






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