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2話 「出会い」 前編

追記 一部の文章を修正しました。 イシュルドアの名前をランスロットに変更しました。

 多くの魔法使いや戦士達は、ボロボロの状態になりながらもなんとか帰路についていた。その中で重傷者や重体の者は家畜であった馬や牛などを総動員して荷車や馬車にして先に砦へと帰還している。それでも予断は許されないので足の速い者は護衛やこれから彼らが帰る場所であるロック砦へと伝令として行き、今頃救護部隊が救援として先に運ばれている重傷者や重体のところへと駆けつけ手当をしているだろう。


 一方、今こうして徒歩で帰ることになっている人々は皆疲れ切っている。なにしろ一個大隊の歩兵とCTRの2個中隊、つまり24機のCTRを相手に戦っていたのだ。1機で一般兵50人を相手にし、全員を打倒すことが出来るのがCTRだ。熟練兵にもなると小隊で300人もの魔法使いを相手にしたと聞いている。そんな存在を敵の兵士達と戦って消耗している中彼らは相手にしていたのだ。


 生き延びたことは奇跡に近い。それだけ生死を懸けた戦いをしていたのだ。


 しかし、救護部隊に人員を割いておりこちらには護衛の一人もこない。さらに帰路とはいえ魔物がでないとは限ならない。そのため適度に休憩を入れたり、周囲に偵察として赴いたりして、いざという時、魔物などが大群で来られた場合に彼らは備えている。


 そんな張りつめた空気でも休憩中は、兵士達はそれぞれ同じ仲間同士で、集まって談笑している。先日の激戦の話。亡くなった戦友の話。他愛もない日常の話。そんな中一か所だけ魔法使いも戦士も様々な職業に、性格も、趣味も違う人々が集まって一人の男の話を聞いていた。


 「そこで旦那はこう言った。「おまえは確かに強かった。だから最高の一撃でお返しだ!」。そう言って刀を振るった。するともうそれは、言葉にできなかったんだ。旦那は一振りでCTRを両断して、しかもそこから先100m近くも焼野原にしちまった!そして、旦那の一撃で静まり返った戦場で「これで…9機。」そうつぶやくと、あら不思議。敵の指揮官は怯え竦んで全軍を撤退させちまったんだぜ!」


 男が言い終えると周囲でどっと笑いが起こった。


 「はははっ、そりゃすげぇ。あの無敵を誇るCTRを一刀両断するんなんて。それも9機も!」


 「俺も旦那の戦いを見ていたが、すごいとしか言いようがなかったな。」


 「そうだよな。CTRの銃弾をただ魔力を込めた壁で無効化して、しかも身体強化も無しで避けてまでいたもんな。」


 「旦那がいればこれから先も負ける気がしないな。」


 また笑いが起きる。CTRを倒すということは彼らにとってそれだけのことなのだ。しかし、


 「あれは経験でどうにかなる。大事なのは敵をよく見ることさ。」


 旦那が、少年が答える。


 「でもよう、効かなければ意味がないだろう。」


 一人が疑問を投げかける。その答えを周囲の人々は興味を持って少年の方を向いて待つ。少年はその疑問がどうでもいいくらいにあっさり答える。


 「そんなもん、思い込んでしまってるだけだ。馬鹿正直に装甲に当てる必要はない。関節など装甲と装甲の継ぎ目やエネルギーを放出する場所。たとえば背中の推進器とか。この二つを叩くだけで目には見えなくとも十分通用すると思うぞ。」


 周囲が驚きとともに感心する。


 「それに加えて、範囲魔法とかはCTRには逆効果だな。装甲をいくら削っても、倒しきる前に逃げられてしまう。だから面より点。一点集中できる魔法の方が効率は良い。実際に俺はお前らには無理だろうが一振りに線で奥まで斬り下ろしている。そうすることが最大の威力を発揮するから一撃離脱も可能になっているな。」


 「そりゃむりだわ。はははっ!」

 

 少年の絶技に観衆は半分呆れ半分面白がっていた。それでも何人かの戦士や魔法使いは少年の言葉から対策を講じようとしていた。

 

 「とにかく、CTRも人間と同じということか。それは盲点だったな。ならば頭を集中して狙えば良いのか?」


 「それもいいが、人間が乗っているところの方が低いし、衝撃とかすごいんじゃないか。」


 「アキレス腱とかなら戦士でも十分狙えるな。」


 「魔法でも的が大きいからいけるだろう。」


 そう自分に合った対抗策をみんなで考えて練っていく。ふと、一人の魔法使いが聞く。


 「そういえばまだ旦那のことは何も知らなかったな。古参の連中はだいたい顔見知りになっているがあんたのように強くて敵を倒しまくっているのに名前を知らないのは悪かった。出来れば名前を教えてくれないか?」


 そういえばと周囲も呆れる。あれだけ派手にやっといてまだ名前すらも聞いていなかったのだ。少年は特に言っても困ることでもないので言った。


 「名前は火ノ鳥グレンだ。日向の血が流れているのは勘弁してくれ。それと旦那は止めてくれ。俺はまだ16だ。」


 えっ、と驚く人と、そうじゃないのか?と驚く人で群衆が分かれた。


 「俺は最初から少年とわかっていたぞ。最初戦場に現れた時は死にたがりかと思っちまったんだから。」


 少年の戦いぶりを間近でみた魔法使いが言う。


 「いやでも、立ち回りとか言葉づかいとか大人ぽかったし。」


 それを同じく戦場で見た戦士が反論する。


 「少年でも魔法を使える奴は使えるぞ。」


 古参の魔法使いが答える。


 「普通あれだけのことをしでかされたら大人かと思うだろ!」


 別の人間が仕方がないように叫ぶ。


 と口論になってしまった。


 それらを見ていた少年ことグレンは表には出さないが内心楽しんでいた。たまたまふらふら出た先で救援要請をしていた部隊がいて、それらを助けるために力を使ったことは特に気にしていなかった。


 むしろCTRや兵士達を狩れたことに嬉々としてした。16の少年が、なぜ簡単に人を殺すことが出来るのだろうか。


 それは火ノ鳥グレンが特殊な快楽殺人者だったからだ。


 グレンにとって人を殺すことは何の抵抗もない。そんなものは気づいた時にはなかった。それぐらい少年は人を、化け物を殺してきたのだ。そして少年は血に飢えていた。正確には力に。だが先ほどのような一方的な虐殺ではそうもとれてしまう。


 少年にとって弱者を殺すことは容易い。しかし少年が求めているモノは力なのだ。だから強者か罪人しか殺さないようにしていた。戦争に参加する前は、各地で賊や魔物を退治していたのだ。弱者を殺したところで得るものなどなにもないのだから。それだけでなく、グレンにとって弱者とは守るべき対象でもあったからだ。そう教えてくれた人はすでにこの世にいなくなってしまった。


 グレンから見ればCTRや軍人は強者に入るので殺すことに抵抗はなかった。だから16という歳で戦争を受け入れることができていた。そしてグレンは強者の中でも自分の中で納得がいくものがいれば見逃すこともあった。まるで豚を放置して、育ったところをいただくかのように。


 それらの行為の意味は他人には分かれない。少年が歩んできた過酷な道を知らないのだから。


 しかし、グレンには一人だけ、知ることは出来なくとも感じることはできる騎士がいたことを思い出していた。周囲がどこからか持ってきた酒を飲んで酔っぱらい始めながらも笑い続けている中、それとは無関係にグレンの記憶は鮮明に映し出していた。


 「(あいつとの出会いはどんなものだったかな・・・)」




 1189年 夏 クロスストリート近辺 基地入口


 クロスストリートはアイリ・スタ国首都を東に300kmほど行ったところにある城塞都市である。

周囲を壁で囲まれ、さらに町の中央を南北に分断するように壁が造られていた。それは包囲されない限り敵の侵攻を半分が受け止めて半分が安息の地になれるような設計をしていた。しかし、都市故に物流の拠点であり、国民の生活基盤を壊さないため、戦端が開かれると近辺に基地を造り、そちらに軍事力を置くことで物流の妨げにならないようにしていた。さらに都市と基地との間で交流を持つことで都市との迅速な連携ができるようにもなっていた。 


 その基地の入口に一人の少年が訪れた。2人の衛兵は少年の姿がボロボロなので不審に思いながら聞いた。


 「ここは、関係者以外立ち入り禁止だぞ。分かったら帰れ。」


 「…俺はここで働きに来たんだ。」


 衛兵の二人は首をかしげた。そんな話は聞いていないし、なにより子供が兵士として戦場に出ることは無茶としか言いようがなかったからだ。


 「しかし…お前のような子供が兵士の役割を果たせそうもないが。」


 「いや、もしかしたら雑用とかの仕事じゃないか?」


 「ああ、それなら問題ない、のか?」


 「分からない。だが前例がないわけじゃないだろう。」


 「そうだな。」

 

 2人は話し合ってそう納得した。しかし、


 「違う。俺は兵士として働きに来たんだ。」


 少年の言葉に2人は呆れる。


 「冗談はいい加減にしろよ。こっちは命を懸けているんだから。」


 「そうだ。分かったらお家へ帰れ。」


 衛兵の言葉にグレンは動じなかったが、内心苛立っていた。


 「(人を外見で判断するならば多少斬って実力を示しても問題ないかな。)」


 そう思いためらいもなく腰にある刀を鞘から抜こうと手を動かそうとしたら、背後から声をかけられた。


 「いったい何事だ。」


 少年は町からの道を歩いてきたので、おそらく声の主もそうなのだろう。


 「ランスロット様!」


 衛兵の2人が驚いて敬礼をしている。少年は、ランスロットと呼ばれた人物がお偉いさんなら少しは話が通じるといいかなと思い振り向くと、そこにはよれよれになった騎士服を身に着け、服とは裏腹にしっかりとした顔つきの騎士がいた。


「少年?」


「・・・騎士。」


 それがグレンとランスロットとの最初の出会いだった。


 

 

次回は戦争中最後まで関わってくる騎士とのお話

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