1話 「争いの日常」 後編
死神にであったら祈ることしか出来ない。
追記:いろいろ文を加筆しました。
「おい、なにがどうなってやがる!」
「俺が知るか!だが、隊長がやられたのなら、あのガキの仕業だろう。」
「たかが子供にやられるなんて、ありえねえだろ…」
「あれは魔法使いだ。いくぞガッツ2。ガキを仕留める。俺は訳が分からないまま死にたくないからな。」
「くそっ、やってやるよ!」
2機のCTRは突然の事態に混乱しながらもなんとか状況を把握する。そして30m程離れた少年に目がけてそれぞれ右手のライフルとマシンガンを構えた。
しかし、2機が射撃体勢に入ったと同時に、少年はまるで予期していたかのようにこちらに振り向きもせず左手をこちらに向けてかざす。すると、それに従うように少年の左側の地面にいくつもの魔法陣が浮かび、魔法陣から炎の柱が少年のかざした左手を軸に半円を描くように何本も現れ壁を形成した。
「なんだ、ありゃあ。防御魔法のつもりか!」
「構うな。所詮子供の魔法だ、撃て!」
直後、2機が発砲。その弾丸の群れは獲物を食い破ろうと少年と、それを取り囲む炎の壁に向かっていった。
ガッツ3はふと当たり前のことを考えていた。まぐれあたりでCTRを倒せたんだろうが、所詮は子供。子供程度の防御魔法では弾丸を防げるわけがないだろうと。
事実CTRから放たれた弾丸はそこらの魔法使い達の防御魔法を易々と破っている。だから今回もそうだ。そう結論付けて弾丸の行方を見守った。
放たれた弾丸は炎の壁に吸い込まれ、そして消えた。
「やったか!」
「かもな。だが油断はするな。奴は突然あらわれ…」
弾丸が吸い込まれて、数秒。ガッツ3の言葉が終わる前に炎の壁は魔力を失ったのか塵となって消えていった。
「「なっ!!」」
2機は驚愕した。消えた炎の中にいたはずの少年が消えていたのだ。
「くそっ、どこだ!」
ガッツ2は動転して周囲を機体ごと動かして探索する。巨体を揺らして土煙が舞い始めるためガッツ2の機体の周りは視認できなくなっていった。
馬鹿が。レーダーを使え!と思いながらガッツ3は今使っている熱源探知からより魔法使いを見つけやすい魔力探知レーダーに切り替える。そしてすぐにレーダーの方に目を向ける。
「っ!いたぞ!」
「だからどこだよ!!」
「お前の正面だ!」
「はっ・・・」
ガッツ2は改めて正面を見た。
そこには、どうして今まで気づかなかったのか駆けながら抜刀をし始めた少年の姿が見えた。
「ひぃぃぃ!!」
ガッツ2は野生のカンとでもいうかのごとく恐怖し、すぐさま左手に持っていた盾を構えて防御態勢にはいった。
一瞬の刹那。刀が当たったとは思えないほどの衝撃音を響かせる。
目にも止まらぬ速さで抜き放った少年の刀はガッツ2の機体に当たり、盾ごと左腕を斬って吹き飛ばし、機体も衝撃に耐えきれなくなったのか吹き飛んだ。
「うわぁぁぁ!!」
「ガッツ2!!くそっ、なんなんだあれはっ!」
ガッツ3は戦慄していた。少年の力を目の当たりにして。
「(おかしいだろ。CTRを吹き飛ばすほどの腕力も先ほどの銃弾を消し炭にするほどの魔力も)」
ガッツ3は先ほど炎の壁があった場所をしっかりとみていた。先ほど放った銃弾は炎の壁に飲み込まれ後ろに突き抜けていかなかったのだから少年に当たるしかなかった。
しかし、少年は健在で炎の壁があった付近に弾丸が落ちた形跡がなかったことがここからでも確認できた。それは、すべて炎の壁によって燃やされたからだった。つまり、一般の魔法使いでは出来ないほどの魔力を一瞬で込めたということになる。
「くっ、不味い!」
少年は迷うことなくガッツ2の機体へ向かう。それを見たガッツ3は右手のマシンガンを狙いもつけずに放つ。
「(一発でも当たればっ!!)」
しかし、ガッツ3の思いも空しくそれらの弾はすべて避けられる。少年はガッツ2の機体しか見ておらず、こちらは後ろから攻撃しているにも関わらず少年は後ろに目がついているかのごとく最小限の動きで全ての弾丸を避けきった。
そして少年は膝をついているガッツ2の機体にたどり着き、今度は右腰の鞘と鍔の間がほんのりと紅く染まってから、一閃。
斬撃。そして炎上。
刀を抜く前の一瞬の変色は、少年が刀に魔力を込めたことを示す。それもCTRの装甲を凌駕するほどの。
先ほどの斬撃とは違い今度は、切られたガッツ2の機体は一瞬にして燃えた。断末魔すら聞こえなかった。
「(おそらく魔法なのだろう。ガッツ2の断末魔が聞こえたような気がした。だが、それはない。奴の機体は中央部分から真っ二つに割れていたんだ。恐らく中身ごと。)」
ここにきてガッツ3は動けなかった。手が震えてうまく操縦桿が握れない。それでも、目の前の少年を殺さなければならないという思いは消えなかった。
理由はわからなかった。だが逃げようと思えばガッツ2の機体が切られたときにできたはずだ。
しかし逃げてもどうにもならないと錯覚させるのが、目の前にいる少年だった。その少年は死神のように黒く不気味に見えた。
少年はガッツ2を切った後、刀を鞘に納め、ゆっくりとガッツ3の10m程近くまで来ていた。そして何を思ったのか今まで斬撃を放った構えとは違う構え方をした。
いままでは駆けながらも素早く放てる小振りな構え方に対し、いま目の前での構え方は、鞘を斜め上向きにし、大振りする構え方だ。そして先ほどとは明らかに違うほど刀に魔力が込められていた。
「あんたはそこそこの実力だった。だが、だれであろうと倒すだけだ。」
少年の声が聞こえた。それは俺に対して称賛をしていた。そんなまやかしにも惑わされず、ただ腕の銃を乱射する。
弾は少年にあたっているはずなのに、少年は身じろぎすらしない。
「・・・化け物めっ。」
そう思うもつかの間少年の刀が振り下ろされた。
目の前が真っ白になり、そこで意識が途絶えた。最後に聞こえたのは今まで聞いたどんな音よりも激しいものだった。
少年はただ斬撃を放った。炎の刃を伴って。その刃は起点で巨大になり地表か15m程の大きさで全てを焼き尽くしながら彼方まで地を砕いていった。そして消え入りそうな距離まで突き進んだ後それは霧散する。
ガッツ3のCTRは中央部分から縦に溶けていて地平線の彼方まで見通せるぐらい何もなかった。
「ふぅ…、これで9機か。上出来かな。」
少年の周りの空気は完全に沈黙していた。敵も味方も圧倒的な力を誇示した目の前の存在に恐れを抱いていた。
そして先に動いたのは機械派の指揮官だった。
「撤退しろー!総員撤退!!」
それを合図にCTR部隊を殿に残存兵たちはぞろぞろと戦場から退いて行った。CTR部隊の当初の目的である歩兵大隊の救助は成功したのだから彼らにはこれ以上戦場に留まる意味はなかった。
魔法派の魔法使いたちは追撃をしなかった。それをするだけの力も兵力もなくなっていたのだから。少年も特に興味を示さなかったのか機械派の後を追うことはしなかった。
それに加えて敵を追い返したことによる勝利の歓声は無きに等しく負け戦であったにも関わらず生き延びたことへの気持ちが勝り、皆安堵しているのもあった。
ここにおいて幾度となく起こった国内中央部攻防戦の一幕は終結した。
今回は戦闘だけですね。戦争関係のことはほとんどうろ覚えの知識ですし、主人公の戦い方も結構アバウトに書いてます。へたくそな表現力でごめんなさい。とにかく、ここまで読んでいただきありがとうございました。