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MDS ~物の怪デリバリーサービス~  作者: 沙φ亜竜
第1章 MDSのお仕事……って、こんな感じ!?
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-7-

 さて……まずは迷子の犬、フランソワちゃんの捜索だ。

 でも、どこをどう探せばいいのやら。

 もし私だけで探すとしたら、確実に途方に暮れていただろう。


 ちらりと狐子ちゃんに視線を送ってみると、まったく焦った様子はない。

 狐子ちゃんには変身能力があるけど、そんな能力なんて、迷子の犬を探す上ではあまり意味がないはずだ。

 そう考えて、どうするつもりなのか尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。


「いわば同族みたいなものだからね。ザマスおばさんが話していた男の子だと思われる気配は、すでに感じ取ってるんだよ」


 その言葉どおり、狐子ちゃんは迷ったりする気配もなく、歩みを進めていった。

 入り組んだ住宅地だから、まっすぐ歩いていけばいいだけではなかったけど。

 それでもなんともあっさりと、私たちは目的地にたどり着くことができた。




 神社の境内。

 その片隅に茂っている植え込みの陰に、男の子と犬がいた。


 犬のほうは、赤いリボンをつけた、可愛らしいヨークシャーテリアだった。

 ザマスおばさんから写真を見せてもらってある。この犬がフランソワちゃんで間違いない。

 ただ、気になってしまうのは、もう一方の男の子だ。


 妖狐かもしれない。狐子ちゃんはそう言っていた。

 私に身の危険が及ぶかもしれず、そのために狐子ちゃんからおまじないまでしてもらった。

 そりゃあ、妖狐かもしれない、ということは、違う可能性もあったのは確かなのだけど。


 それにしたって、その男の子は、なんというか――。

 見るからに、狸! といった感じの耳と尻尾を生やしていた。


 これはいったい、どういうことだろう?

 昔話とかだと、狐と同様、狸も人を化かす獣だったりする。

 広義で考えれば、狐の同族と言えなくもない。


 実際にフランソワちゃんはこうしてここにいるわけだから、この男の子が連れ去った犯人だというのは紛れもない事実だと思う。

 とすると、狐子ちゃんが妖狐かもしれないと感じていた気配が、実は狸だったという、単なる間違いだったのかな……?


 疑問符を飛ばしまくりながらも、ビデオカメラに録画するのは忘れない。

 私はカメラの画面を通して、状況を見守る。


 狸の男の子は、少々怯えていた。

 私たちがフランソワちゃんを連れ戻しに来たと、気づいているのだろう。

 そして、狐子ちゃんが感じていたのと同様に、狸の子も狐子ちゃんが物の怪だと感じ取っているのだろう。


 狐耳狐尻尾の女の子と、狸耳狸尻尾の男の子が対峙する光景――。

 これはこれで、なかなかレア度の高い興味深い場面だと言える。

 カメラマン・カモメ、存分に萌え映像を撮影させていただきます!


 私がレンズを向けている前で、狐子ちゃんは男の子に話しかけた。


「フランソワちゃんを連れてきちゃったのは、キミだよね?」

「……うん」

「ダメでしょ? 勝手に人が飼っているペットを連れてきちゃ」

「だって! オイラはこのワンちゃんがかわいそうだと思ったんだ! こんなリボンをつけられて、服まで着せられてることがあった! ワンちゃんだって、鬱陶しがってたよ!」


 必死になって訴えかけてくる狸の子。

 なるほど、その気持ちもわからなくはない。

 あのザマスおばさんのことだから、異常なほどに猫可愛がり、というか犬可愛がり? していそうだし。


「そうかもしれないね。だけど、ボクたちでも動物とお話できるわけじゃない。なんとなく気持ちは感じることができるけど……。キミだってそうだよね?」

「うん」

「鬱陶しそうにしていたって、あの家で飼われていること自体を嫌がっていたわけじゃないと、ボクは思うんだ」

「うっ……」

「かわいそうって思って連れてきてしまったのは、キミの身勝手でしかないんだよ。わかる?」


 狐子ちゃんは、文字どおり小さな子を諭すように、優しい声で語りかける。

 語りかけている狐子ちゃん自身も小さな子供の姿をしているからか、妙に微笑ましさが増しているように感じられた。


「で……でも……」

「その証拠に、ほら。フランソワちゃん、震えてるでしょ? にわか雨が降ったあと、そのまま放っておいたからに違いないよね。それに、おなかもすかせてるみたいだよ? 少しは食べ物を与えたみたいだけど、充分ではなかった。それはわかってる?」

「うう……」

「おしおきが必要だね」

「え……?」


 突然そんなことを言い出し、狐子ちゃんは狸の子に迫る。

 おしおきなんて軽めな言い方をしてはいるけど、狐子ちゃんも狸の子も物の怪なのだ。

 どんな凄惨なおしおきが待っているのか。

 微笑ましさから一転して、血の気が引く。


「ちょ……ちょっと、狐子ちゃん! あまりひどいことは……」

「めっ!」


 私が止める前に、おしおきは開始され……そして終了していた。

 めっ、というひと言を添えて、ぺちんと軽くおでこを叩く。

 たったそれだけだった。


「フランソワちゃんは、返してくれるよね?」

「う……うん……」

「いい子だ。それじゃあ、気をつけて帰りなさい」

「うん!」


 微笑みを伴って送り出す狐子ちゃんに、狸の子は手を大きく左右に揺らして何度もこっちを振り返りながら、神社の境内から去っていった。


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