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MDS ~物の怪デリバリーサービス~  作者: 沙φ亜竜
第1章 MDSのお仕事……って、こんな感じ!?
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-5-

 ぽかぽかと暖かい陽気で、日差しが肌をほどよく温めてくれる中、私と狐子ちゃんは駅に向かって歩いていた。

 雫さんと一緒にいたときには雨が降っていたけど、今は完全に晴れ渡っている。

 さっきの雨は、雫さんの物の怪としての能力によって引き起こされていた、ということなのだろう。

 外出すると必ず雨が降ってしまうなんて、かなり気が滅入りそうだ。


「雫さんは嬉しそうだけどね。雨が大好きな雨ラブ人種なんだよ!」

「……雨ラブ人種って、なによそれ。だいたい物の怪なのに……」

「地味ラブ人種なお姉ちゃんには、雫さんを否定する資格はないと思うな」

「うっ……。でも今は春らしいワンピース姿だし……」

「付け焼刃で着飾っただけじゃ、内面の地味さは隠しきれないものだよ、お姉ちゃん!」


 邪気のなさそうな満面の笑みで、邪気たっぷりの言葉をぶつけられる。


「子供のくせに、生意気なこと言わないで!」

「いやいや、ボクは子供じゃないよ? なにせ物の怪だからね。生きてきた時間で考えたら、お姉ちゃんと比べてずっと年上だよ! つまり、見た目は子供、頭脳は大人!」

「そうなんだ……」

「だからボクは名探偵!」

「それは違うと思う」


 苦笑をこぼしながら、狐子ちゃんとともに春の川原を往く。

 実年齢的には年上みたいだから、狐子さんと呼ぶべきかな……?

 う~ん……。やっぱり見た目は子供だし、狐子ちゃんでいいよね。


 その狐子ちゃんは、身長も私より低く、動物キャラクターの柄が入った子供用の黄色い着物を身にまとっている。

 それだけではなく、頭には黄色っぽい毛の生えた耳がぴょこぴょこ揺れていて、着物の裾からも、同じように黄色っぽいふさふさの尻尾が見え隠れしている。

 ……というか、完全に見えている。


 狐子ちゃんは狐の物の怪で、変身能力を持っているらしい。

 ということは、この耳と尻尾は狐としての正体が隠しきれず、はみ出してしまっている状態なのだろう。


「狐子ちゃん……耳と尻尾が出てるよ?」


 気を遣って耳打ちしてみたのだけど、


「あっ、これはわざとだよ! 狐のコスプレをする人間に化けてるって設定なんだ!」


 とのこと。

 コスプレって……。しかも、設定って……。

 ツッコミを入れ始めると、次から次へとボケが来そうで面倒だったので、私は細かいことはスルーする意思を固めた。

 と、そんなことよりも。


「そろそろ今回の依頼内容について、聞かせてくれる?」

「あっ、そうだったね! すっかり忘れてた!」


 にははっ、と底抜けに明るい笑い声を響かせる狐子ちゃん。


「その忘れっぽさで大人を主張するなんて。あっ、むしろ老化……?」

「ちょっと、お姉ちゃん! ひどいよ!」

「あはは、ごめんごめん」


 むーっと頬を膨らます狐子ちゃんの仕草も可愛らしいな~なんて思いながら、私は話の先を促してみた。


 人間では解決できない依頼を受け持つのが、物の怪デリバリーサービスの仕事となっている。

 はたして、どんな難解な依頼が待ち受けているのだろうか?


 考えてみたら、記録係としてついていくだけと気楽に構えていたけど、実はものすごく大変な仕事で、私にまで命の危険が迫るなんてこともあったりして……。

 などと、少々恐怖心を抱いていたのだけど。


「今回の依頼は……まぁ、ひと言で言えば、迷子の飼い犬探しかな」


 …………。


「えっ?」

「だから、迷子の犬を探すの! それが今回の仕事!」


 狐子ちゃんが言い直してくれた。

 べつに聞こえなかったわけじゃなかったのに……。


「MDSとしての仕事だよね? それが、犬探し?」

「うん!」


 再度確認してみても、元気に即答が返ってくるだけだった。


「それって、物の怪に頼むようなことなの?」

「ま、依頼といっても、いろいろあるからね~。基本的になんでもやるのが、MDSってものなんだよ!」

「便利屋みたい」

「似たようなものかもね!」


 若干頭を抱えつつも、どうやら大変な仕事ではなさそうだということに、私は胸を撫で下ろす。


「もっとも、物の怪が絡んでいるっていうのは確かみたいだけど」

「え……?」


 油断させておいてからの不意打ち。


「よく飼い犬と遊んでいた小さな男の子が、どうやら物の怪だったらしいって話でね。その子が連れ去ってしまったんじゃないかって、依頼主は考えてるんだよ」

「そうなんだ」


 物の怪が絡んでいる。

 そう思って再び湧き上がってきた不安は、相手が小さな男の子ということで、すぐに薄らいでいく。

 だけど、


「男の子の姿をしてる物の怪、ってことだからね? 子供ではない可能性も高い。ボクみたいにずっと子供の姿でいる物の怪もいるわけだし」


 薄らいだと思った瞬間、不安は狐子ちゃんの言葉によってまたしても膨れ上がる結果となってしまった。




「…………?」


 不意に、なにやら視線を感じたような気がした。

 慌てて周囲を見回すも、おかしな人影などは見当たらない。


「どうしたの? お姉ちゃん」

「ん……なんか、誰かに見られていたような……」


 普段は地味な私だけど、今日は春らしい爽やかなワンピース姿で歩いている。

 誰かが私のことをじっと見つめていても、おかしくないのかも……?

 すなわち、世に言う、ひと目惚れってやつね!


 ああ、なんと可愛らしい女性だ! 連れ去ってしまいたい! なんて思いながら、隠れて見ている人がいるのかも!

 といった妄想を、私は思わず口走ってしまっていたみたいで、すかさず狐子ちゃんからツッコミが入る。


「お姉ちゃん、自意識過剰~! さっきも言ったけどさ、服装だけじゃ隠しきれない地味さが、全身からにじみ出てるんだから。ひと目惚れされるなんて、あるわけないじゃん!」

「うっ……」


 随分と失礼なことを言われてしまったけど、確かにそのとおりだとは思うし、まったくもって言葉も出ない。


「だいたい、隣にこのボクがいるんだよ? こんなに可愛いボクのほうこそ、ひと目惚れされて見つめられてるんじゃないかな?」

「狐子ちゃんみたいなお子様にひと目惚れする人なんて、いるはずないよ! それに、もし本当に見られてるとしても、理由はどう考えたって耳と尻尾がついてるからでしょ!? 狐子ちゃんこそ、自意識過剰~!」


 私はここぞとばかりに勢いよくツッコミをぶつける。


「なんだよ~! お姉ちゃん、ひどい!」

「そっちこそ!」

「この地味子!」

「地味でいいんです~!」


 そして、口ゲンカが始まってしまった。

 自分で言うのもなんだけど、どっちも子供だ。


 ひとしきり悪口を飛ばし合ったあと、さっきの視線については、気のせいだったと結論づけることにした。

 視線に気づくなんて鋭い感覚を、鈍感な私が持ち合わせているはずもないのだから。


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