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ビル内を捜索しながら、私たちは八階まで上がってきた。
各フロアにある部屋は基本的にオートロックで、カードキーを使って中に入るタイプとなっている。
そんなわけで、私たちは普通に入れる場所だけを回っているのだけど。
仮にそうでなくとも、ビルを使用しているのは基本的に会社なのだから、中に入って調べるなんてことはできなかったに違いない。
どちらにしても、部屋の中に人がいるのなら、もし異変があれば気づくはずだ。
カードキーなしで入れる場所といえば、廊下やエレベータースペースなんかがほとんどとなる。
それでもここは二十階以上もある大きなビル。フロアの面積もかなり広かった。
疲労の色が濃くなってきた私は、口数も極端に少なくなっていたようで、
「少し休憩しようか……?」
双刃さんが気を遣って提案してくれた。
「そうですね」
このビルには、各フロアに自動販売機が置いてあって、ちょっとした休憩スペースが設けられている。
その休憩スペースは従業員のために用意されているのだとは思うけど、カードキーが必要なエリアではなく、誰でも入れる場所にあった。
同じフロアに複数の会社が入ることもあるため、共同で使用できるように配慮されているのだろう。
私たちはそこで飲み物を買い、足を休めることにした。
双刃さんはペットボトルのお茶、私は缶のメロンソーダを購入して喉を潤す。
「をどろし荘のみなさんって、お茶が好きですよね。アパートの給湯室にも、お茶っ葉が何種類も置いてあるし。物の怪ってお茶が好きなものなんですか?」
「いや、べつにそういうわけじゃないと思うけど……。オレはコーヒーも好きだし……」
「へぇ~、そうなんですか~。逆に苦手な飲み物とかは、ないんですか?」
「カモメちゃんが飲んでるような、炭酸飲料はちょっと苦手かな……。喉がシュワシュワーってなって痛くない……?」
「えええ~っ!? このシュワシュワ感がいいんじゃないですか! 私は炭酸大好きです。コーラとかレモンスカッシュとかラムネとか。今だと微炭酸なんて飲み物もありますけど、シュワシュワ感を弱めた飲み物なんて、私に言わせれば邪道ですよ邪道!」
他愛のない話題で盛り上がる。
地味ラブな私にしては珍しく熱くなってしまったのは、炭酸パワーを充分に補給して気分がよくなっていたからだろうか。
とはいえ、そんな炭酸パワーもさほど長くは続かなかった。
目がかすみ、まぶたが重くのしかかってくる。
そう、眠くなってきていたのだ。
原因は寝不足。
昨日の夜、叔父さんにまた会えると思って、わくわくしてなかなか寝つけなかったからだ。
恋人になれるような未来はないとしても、憧れの気持ちを抱き続けるくらいならバチは当たらないよね……。
実はそれ以外にも、前回の仕事の際の出来事――すなわち、狐子ちゃんに胸を揉まれキスまでされてしまった場面を思い出したりして。
女の子同士だけど、あれはあれで嫌な気分ではなかったな、なんて考えて赤面して。
そんな感じでいろいろと頭の中で思い描いていた私は、結局明け方になるまで眠れなかった。
自業自得ではあるけど、激しく眠い。
まぶたをこすりつつ、周囲に視線を向ける。
こんな状態だと、幻覚を見たとしても不思議ではないのかもしれないな。
などと考えていたら……。
「あれ……?」
今、視界の端っこのほうで、なにか動いたような……?
私は慌てて目を凝らす。
そこには、確かに存在していた。なにやら緑色っぽい服を身にまとい、緑色の三角帽子をかぶった、小さな姿が。
小さいといっても子供ではない。
もっとずっと小さい、手のひらに乗るほどのサイズ。
人形だろうか?
でもついさっきまで、そんなのはなかったような気がするけど……。
目が合う。
刹那、目を逸らされた。
動いた!?
と思ったと同時に、その小さな人形っぽい物体は、足をちょこまかと動かして一目散に逃げていった。
「な……なにあれ……。お話とかに出てくる、小人みたいな……」
「いや、小人でいいんだと思うよ……。物の怪の一種……だったと思う……。記憶がまだ、はっきりしてないけど……」
双刃さんも目撃したのだろう、必死に記憶をたどって解説してくれた。
驚いて眠気なんて吹き飛んではいたけど、私は念のためメロンソーダを一気飲みして脳の活性化を図る。
「ごほごほっ、げほっ! ……ゲェッ!」
その結果、急ぎすぎてむせた上、大きなゲップをしてしまうという失態を、思いっきり双刃さんに見られてしまった。
はう、恥ずかしい……。汚い女の子って思われちゃったかな……?
と、そんなことを考えている暇はない。
空き缶をゴミ箱に投げ入れると、私は休憩スペースを飛び出した。
当然ながら双刃さんも続く。
近くに小人の姿はない。
辺り一帯に視線を配りながらも、階段付近まで向かってみると、器用にジャンプして上っていく小人の姿を発見した。
私はすかさず一段抜かしで駆け上がる。はしたないこと、この上ない。
スカート姿だったし、後ろからついてきている双刃さんに見られてしまったかもしれないけど、恥ずかしがっている余裕なんてなかった。
小人が物の怪の一種だと、双刃さんは言っていた。
いろいろな物の怪が存在しているのだから、小人くらいいてもおかしくはない。
体が小さいというのは、隠れて作業するにはうってつけだろう。
小人サイズでも持ち運べるような爆弾じゃ小さすぎるだろうし、あの小人が爆弾を仕掛けて回っているとは考えにくいけど。
少なくとも、予告状にあった『スターマイン』という署名の犯人に関して、なんらかの手がかりになるのは間違いない。
物の怪は、数が減ってはいても確実に存在している。
だから、あの小人は初めからこのビルに住み着いていただけで、爆破予告とは無関係という可能性もある。
仮にそうだとしても、ビルに住み着いているのならば、他の物の怪が侵入していれば気づくはずだ。
まずはあの小人を捕まえて情報を聞き出すのが先決。
人間の言葉が話せるかは、捕まえてみないとわからないけど……。
ともかく、私はひたすら走り、小人を追った。
ひとつのフロアが広く、通路が入り組んでいる場所もあり、さらには各階にトイレがある。
そんな中を、騒がしく走り回る私と双刃さん。
たまに廊下を通りかかる人たちが、何事かと不思議そうに目を向けてきたりもしたけど、気にしてはいられない。
入り組んだ構造を利用し、双刃さんとふた手に分かれて挟み撃ちなんかも試してみたものの、小人は身軽に飛び回り、いとも簡単にかわしてしまう。
どれくらいの時間、追いかけっこが続いただろうか。
私の運動能力が足りないのも原因か、まったく捕まえられる気配がない。
そろそろ体力的に限界が近い。
ここまでか……。
荒い息を吐き出し、双刃さんに体を支えてもらいながら、廊下の先に視線を飛ばす。
あっかんべ~!
声こそしなかったけど、目の下の部分を指で下げ、ベロを出す仕草で、小人はこちらを完全に小バカにしている。
そしてそのまま、廊下の角を曲がって走り去ってしまった。
そのすぐあとだった。
ビルの上層階のほうからだろうか、突然、耳を疑いたくなるような大きな爆発音が聞こえてきたのは。




