いかにして僕は中世のお姫様に転生して幸福になったか
・細かいことは気にしないでください
こんにちは。
パラレル中世で姫をやっているアリシア15歳です。
艶やかな黒髪にすらっとした身体、使いきれないほどの財産と権力をもった美少女です。
……僕は今、不幸です。
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王城、中央塔。
その中ほどにあるお兄様の部屋を目指して僕は歩き続けます。
日が暮れて結構立ちました。
今なら取り巻きに邪魔されずにお兄様と話せるはず……
そっとドアを開けます。
居ました。
ふんだんに布地を使って豪奢に飾り立てたベッドの上で、お兄様は一人でじっと祈りをささげて居ました。
「アリシア!?」
驚きを隠せずにお兄様がこちらを振り向きます。
……よっぽど思いつめていたのか、眉間には深いしわが刻まれ、目は虚ろです。
「まさか、護衛には誰も近づけるなと言ってあったはず……」
「……護衛さんは邪魔なので遠慮してもらったのですよ」
僕のメイド隊による色仕掛けで今頃暗がりに引きずり込まれてる頃合いなのです。
「……そうか、アリシアにはすべてばれていたのか。
わかった、そなたの勝ちだ。
……妹よ。
好きにするがよい」
お兄様はすべてをあきらめたような顔をしてそういいました。
僕が、クーデターを起こして、お兄様を害しに来た。
そう理解したようです。
僕は、もう我慢できませんでした。
ぽろぽろと熱いものが頬を伝います。
「ご……ごめんなさい……
僕の愛する、大好きなお兄様をこんなに追い詰めてしまったのは……
僕なのです。
僕が何も考えずにお兄様が不安になるようなことばっかりしたからなのです……」
「アリシア……」
はっと、お兄様が僕の顔を見つめます。
「お兄様に……お兄様に嫌われるぐらいなら、要らないのです。
全部、要らないのです。
お金も荘園も鉱山も役人も歩兵たちも、僕の持っているすべてをお兄様に差し上げます。
僕も、お兄様の気の済むように、縛り首にするなり、修道院に放り込むなりしてくれていいのです。
だから……
だから……お願いです……
僕を嫌いにならないでください……」
僕は泣きながら自分の死刑宣告文を読み上げます。
家族と仲良く暮らす。
僕も前世の僕もそれだけが欲しかったのです。
僕の前世、21世紀の日本人、ナカムラマミは、独りでした。
親を早くに亡くし、学校でも、会社でもずっと一人ぼっち。
趣味のボーイズラブと歴史小説、エロゲーにのめり込み、人との共通の話題を無くしてさらに孤立していました。
たっぷりある時間で知識だけをひたすら溜め込んでいる時間だけが幸せでした。
部屋からほとんど出ずに、身体を少しずつ悪くして、心臓病で死ぬまで30年間。
前の僕は独りでした。
だから、今生の僕は……
「僕は……お兄様がいて幸せだったのです。
お父様、お母様と一緒に暮らせて、幸せだったのです。
その僕が、お兄様を不幸にしてしまったのなら……
僕は……」
「アリシア!!」
あ……お兄様が泣いているのです。
ごめんなさい、結局お兄様を不幸にして、泣かせて、僕は悪い妹なのです……
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ふぁさっ……
気が付くと僕は暖かいものに包まれていました。
お兄様が僕を抱きしめています。
「アリシア……すまなかった……」
「お兄様……」
「私は……ただ一人の肉親を失うところだった……」
「お兄様は……僕を許してくれるのですか?」
お兄様は何も言わずに、僕を抱きしめながら、何度も頷いてくれました。
「……嬉しい……」
僕は、夢中でお兄様のほっぺにキスをします。
子供のころから何度もしていた、家族同士の親愛のキスを。
ちゅっ……
お兄様は僕の顔を見据えて「私もキスをしていいか?」と聞いてきます。
「……僕はお兄様の妹なのですよ、お兄様のしたいようにしていいのです」
それを聞くと、お兄様は、何かを決心したような顔で、僕の顎を軽くつかむと、お兄様の唇を僕の唇に重ねました。
え?
これは恋人のキスですよ?お兄様?
「そなたが悪いのだぞ、小さいころから何かあれば私と結婚するなどと……
お蔭で私はまだ独身だ。責任を取ってもらおう」
そしてお兄様は僕を抱き上げると、ベッドに……
ええええっ?!
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そこから何があったのか僕はおぼろげにしか覚えていません。
でもすごく幸せでした。
初めて感じる甘い痛みが僕を貫きます。
粘膜の感覚が僕の頭の裏を灼きます。
「アリシア、愛しているよ……」
「僕もです……お兄様……」
あっ……暖かい液体が僕の身体に広がるのを感じます。
のしかかってくるお兄様の体重とともに、僕はお兄様の愛を全身を感じさせてもらいました。
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チュン、チュン……
朝鳥の啼く声が聞こえてきます。
お兄様のベッドの中で目を覚ました僕は隣で幸せそうに寝息を立てているお兄様を確認すると、そっとベッドを降りました。
あっ……あう、ちょっと痛いです。
「えへへへへ……」
だめだ、顔がにやける。
男なんて嫌だったけど、お兄様は別腹だったのです。
皆さま、こんにちは。
パラレル中世で姫をやっているアリシア16歳です。
艶やかな黒髪にすらっとした身体、使いきれないほどの財産と権力をもった美少女です。
……僕は今、幸せです。
産まれてから最高の誕生日を迎えました。
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そこからは急展開でした。
お兄様は公爵と伯爵を偽って呼び寄せると、謀反を画策した罪で処刑。
貴族たちを王城にあつめて僕と結婚することを宣言します。
公爵と伯爵の血の付いた首切り斧をこれ見よがしに飾っていたためか、満場一致でお兄様と僕の結婚は認められました。
さすがに大司教は何かごにゃごにゃ言ってましたが、僕が年金の増額を約束して黙らせました。
結婚式は特別に作らせた純白のウェディングドレスと指輪を使って盛大に行いました。
お兄様が幸福に満ちた表情で僕に誓いのキスをしてくれます。
僕は顔中真っ赤にして誓いのキスを返します。
お兄様とはこれで二重に家族になれました。
僕は幸せなのです。
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だから僕の幸福を壊すヤツは排除しなければなりません。
結婚式からしばらくして「人倫に悖る偽王を討て!」
と隣国が再度侵攻して来ます。
貴族たちの多くが王国を裏切って隣国に加担しようとします。
でもそんなの僕の直属役人組織である子供たちの諜報網にはバレバレなのです。
僕は防諜意識が皆無の彼らをまとめて逮捕すると、王城の外に並べて吊るしました。
貴族たちの身体が風に吹かれて揺れています。
いい眺めなのです。にこっ。
貴族たちが裏切ったため隣国と戦う騎士が不足したのですが、かねてから訓練を続けていた歩兵隊で充当することにしました。数は少ないですが散弾入りの大砲とパイク、クロスボウを装備させた庶民たちの部隊です。
お兄様が出撃して、勝ちました。
隣国の騎士隊の突撃をパイクの方陣で耐えつつ、カウンターで大砲の散弾で吹き飛ばし、大打撃を負った隣国の騎士隊を見て乱れた敵陣をお兄様直属の騎士隊が縦横無尽に切り裂いて終了です。
隣国の王を捕らえ、莫大な賠償金を課して支払と交換で釈放しました。
この収入は軍隊の拡充に使用します。
敵が増えたためです。
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神王庁の神王(ローマ法王みたいな人です)が、僕たちの結婚を理由に破門してきました。
僕はさっそく国内の大司教を対抗神王に擁立し、僕たちの結婚を祝福させます。
さらに隣国からの賠償金を使ってコークスと鉄鉱石を使った高炉を建設し、パイクやクロスボウ、大砲の生産に活用、歩兵隊の規模を倍にします。そして国内の鉱山から人を引き抜いて工兵隊を創設しました。
隣国以外の周囲の国が連合して攻め込んできたのはそんなタイミングでした。
お兄様に歩兵隊と工兵隊の活用法をきっちり説明して、僕はお兄様を戦場に見送ります。
敵兵は過去の数倍の数でしたが、お兄様は工兵に塹壕を掘らせると敵の攻撃をじっくり耐え抜き、クロスボウと大砲の射撃で敵が疲弊したところを直属騎士隊の突撃で撃破しました。
講和を申し出てきた周囲の国にも莫大な賠償金を課します。
この収入も軍隊の拡充に使用します。
やることがあるためです。
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お兄様と僕は軍隊を率いて遠征し、神王庁のある神王都を包囲しました。
神王庁からは何度も講和の使者が来ますが、話にならないので追い返します。
砲弾を鉛弾に切り替えた大砲が神王都の城門を破壊しました。
僕たちの軍が神王都に乱入し、徹底的に略奪と破壊を行います。
「僕の幸せを邪魔するやつは燃えればいいのです」
お兄様と僕は神王と主だった神官貴族たちをまとめて火あぶりにすると、擁立した対立神王を神王都に残し、略奪品を持って王国に凱旋しました。
これでもはや大陸で王国に物を言う国は残っていないのです。にこっ。
僕はお兄様の子供を孕んだお腹を撫でながら、微笑みます。
僕は幸せです。