いかにして僕は王国の財政を改善して独裁者になったか
・細かいことは気にしないでください
・姫の中の人は腐女子です。
「姫様、塩兌換券の新札ができました」
僕の目の前の黒いローブをまとった人物がそういってテーブルに一枚の紙を恭しく置いた。
ランプの光に照らされて青髪を短く切りそろえた、少年っぽい顔つきが目に入る。
(いつも通り真面目そうな顔をしているのです)
僕は言われた通りテーブルに置かれた複雑な文様の入った紙をしげしげと見つめる。
「うん、なかなか良い出来ですよ?」
もちろん透かしなんかは入っていないのだが、その分精巧な細工を入れた多色刷りの印刷面に、1枚ずつ通し番号と岩塩管理局長のサインを入れている。
複製はできないとは言わないが、相当な気合いを入れないと無理だろう。
やったら大逆罪で一族皆殺しだが。
この王国は内陸国のため塩の安定入手が積年の課題だった。
美味しい料理を食べるために、僕が資金投入して開発させた岩塩鉱山の塩は品質が良いと評判で、王国各地で安定した価値で取引されている。
で、その岩塩の兌換券を作った。王都と4つの主要都市でいつでも岩塩に引き換えることができる。そしてこの兌換券で納税した場合に10%の割引を認めている。
結果、王国から兌換券を受け取った商人は関税や売上税を払う商人に5~7%増しで転売し、それが納税されることで王国に兌換券が帰ってくることになる。
実際に岩塩に引き換えられる量は極一部だ。
余った岩塩は市場に放出している。そのため、兌換券だけが流通しはじめており、一部では商人同士の決済に利用されつつあるらしい。
そうするとその兌換券は王国に帰ってこないため、王国は発行し得になる。
つまり岩塩に引き換える必要も、納税免除する必要もなく、タダで物資が買えるということだ。
さらに現物の金貨や銀貨の量によらずに通貨が膨らみ、経済がインフレ基調になったことで色々な経済活動が活発化している。
「いい感じなのです」
「は、ありがとうございます。姫様」
青髪の人物は少年っぽい大きな目と赤い頬を含羞に染めて答える。
「ご褒美をあげますよ?」
「……!」
僕は青髪の人物を招きよせると顔を下げさせ、そっとキスをする。
「あっ……」
そしてローブの中に手を入れ……
「男っぽい恰好をしているけど、クレアはちゃんと女の子なのですよ、にこっ」
「あっ……はいっ……」
キスと愛撫に上気した顔で青髪の女の子-クレア-が答える。
上背があって、すらっとした体型のこの子は教育を与えて農奴階級から引き上げた僕の直属。
数字に強かったため商業関係の仕事を任せている。
背丈があって体型が控えめなので、抱かれると何かいい感じなのもお気に入りである。
……僕の体型も控えめだとかはこの際横に置いておこう。
「じゃあベッドに行きますよ♪」
アリシア姫、15歳の春である。
―――――――――――
さてと、時間は2年ほどさかのぼるのです。
お父様とお兄様に嫁にやられそうになってどうしようもなくなったので、見合い相手を暗殺することを本気で検討していたとき……
お父様とお母様が亡くなってしまわれた。
これでも13年間親として接してきたのだ、本当に悲しかった。
……子育ては乳母や教育係がしていて、21世紀ならネグレクトに近い育て方でも悲しかったです。
マミの記憶だと……お気に入りのカップルが公式で否定されたときぐらい……ってほかに悲しい記憶ないのですっ?!
で、好機と見たのか、元々婚姻を申し込んでいた隣国がイチャモンつけてきました。
曰く、隣国の王子と僕を結婚させて、隣国の王子をそっちの国王にしろ。
曰く、3代前の血筋から言うと隣国の王子のほうがお兄様よりも正統うんぬん。
こちらはお兄様の即位もまだだし、国内の大貴族たちからの忠誠の誓いを受けていない状態で、それがわかっててのごり押しなのです。
お兄様は向こうの要求を毅然として突っぱね、隣国からは宣戦布告文が届きます。
そしてお兄様は、王国直属の兵と普段から仲の良かった騎士たちを連れて出陣していきました。
僕もお見送りしにいくのですが……
「あうう、恰好良いのです……」
もともとお兄様は美形なのに加え、参陣した騎士たちは国内から選りすぐった美形揃い。
それが美々しく着飾って、明日をも知れぬ戦いに赴きます。そして主従に芽生える……あう。
……はい、お兄様の供回りの騎士たちは僕が推薦しました。主に遠くから眺めてカップリングを楽しむために。
ちなみにお兄様は受けっぽい顔しています。総受けなのです。
……いいじゃないですか!彼らを召し抱える費用は僕がプレゼントしたのですよ!!
そしてお兄様とその軍が王城から見えなくなって……
「負けたらお兄様連れて共和国にでも逃げるですか」
美しさと強さは別物だと知っている僕は冷静に呟くのでした。
とりあえず共和国の銀行に10年ぐらい遊んで暮らせる金は預けてあるのです。にこっ。
―――――――――――
お兄様が配下の騎士たちの活躍もあって、隣国の軍に大勝したという知らせを受け取ったのは、半月後のことでした。
あう、見に行きたかったのです。
よっぽど激戦だったのか、鎧のあちこちに傷をこしらえた騎士が城に駆け込んできて皆に戦況を報告します。
「隣国の大軍が待ち構える中、アルフレッド陛下は配下の騎士たちを従え、ついと前に進まれました。
大音声にて隣国の非道を鳴らし、我が方の道理を述べたところ、敵の鋭鋒が一瞬緩みます。
そこを陛下は『我が国の守護、聖ジャックご照覧あれ!』と呼ばわり、一目散に敵陣に槍を入れられると、
配下の騎士たちと兵が一団となって『聖ジャック!聖ジャック!』と叫んで敵陣に突っ込み、
隣国の手勢はたちまち四散……』
アルフレッド陛下ってお兄様のことです。
敵に勝った勢いで大司教様のところに赴いて戴冠されたそうです。
お兄様すごひ……というか、騎士物語ですか。
しかも、あとでお兄様に聞いたところ、大体あってるとのこと。あう。
……冷静に状況を記録できる情報部つくろう……
―――――――――――
お兄様がアルフレッド3世として即位されても僕は平常運転です。
まず、お兄様に進言して、国内の貴族たちからは嫡男かそれに準ずる血筋の若い男の子を騎士として国王に仕えさせることにしました。
費用は僕持ちです。
……お兄様の周りが一気に薔薇っぽくなったのです、あう。
いやいや、貴族たちが簡単に裏切らないように人質にするためですよ?
ロウティーンの男の子たちを集めて集団生活させて別に何か企んでるわけ……
「姫様、公爵家のジョージと、伯爵家のダリルって怪しくないですか?ダリルくんって誘い受けっぽいところが……」
「いいえ、姫様、私はダリル×ジョージのヘタレ攻めだと……」
メイド頭のジョアンと配下のメイドたちがカップリング議論を始めてますが、何も企んでなんかいないですよ!
……あ、僕はジョージ×ダリルはリバ可で。
「姫様!それはずるいですわ!」
ジョアンの抗議は却下するのです。にこっ。
―――――――――――
家臣団の締め付けと騎士の補充を終えて、久しぶりに内政に力を注ぐことができるようになったのです。
お兄様からも「お金のことはアリシアがしたいなら任せるが、縁談は遠のくぞ?」と言われましたが、
「お兄様と結婚するからいいのですよ~にこっ」と返しておきました。
まずは内陸国の不利を覆すため、岩塩鉱山の開発、そして水車、風車の普及、ワインやビールの醸造を進めさせます。
そして家畜の飼育を奨励し、テンサイの植え付けとセットにした、四輪作を普及させます。
いえす、ノーフォーク農法です。
冬麦、テンサイ、夏大麦、クローバーの順番で土地を活用し、休耕地をゼロ化。テンサイは砂糖を絞った絞りかすと葉っぱを家畜の飼料にします。
テンサイ砂糖は大量に生産しすぎて値崩れを起こしてきたため、一部をウォツカの生産に回します。
これは貴族以外の飲用を禁じて余剰は輸出に回すのです。
……だってこんなの常飲されたら国民の生産性が落ち……健康が心配なのです!!
そんなこんなで2年もたつと王国直轄領からの税収がものすごく増えてきました。
大貴族たちもあわててマネをし始めます。
そして、冒頭の塩兌換券の発行につながるわけです。
ちなみにジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、トマトは死ぬ気で探させましたが、見つかりませんでした。あう。
異世界とはいえ、生物や作物はほぼ一緒なようです。どちらかというとパラレルワールドみたいな?
イネは陸稲しか見つかりませんでしたが、すごい久しぶりに白いご飯を食べることができたのです。
……ぱさぱさしてました、あう。
―――――――――――
いろいろお金が回り始めたので、役人たちが腐敗しはじめました。
腐敗が発覚したモノからどんどん首を切っていきます。物理的に。
うわ、血が飛んだです……あう。
この時に備えて、僕は10歳の時、つまり5年前からあちこちから子供を集めて、じっくり教育してきました。
奴隷階級や農奴階級、自由民でも自前の土地を相続する見込みのない子たちですが、きちんと衣食住を保証して、基礎教育から行えば、半分ぐらいは役人として使えるレベルまで持って行くことができたのです。
僕は彼らを子供たちと名付けて直属として使っています。クレアも子供たちの出身です。
「いいですか?僕に誠心誠意仕えれば、20年で自由民として農地を上げるのですよ?」
「功績次第でもっと早く農地を貰うか、もらう農地を広げることができるのですよ?」
「つまり地主様、果ては一代騎士にしてあげることも可能なのですよ?」
『はい、頑張ります!ありがとうございます姫様』
数十人のロリショタっ子たちに希望に満ちた目で見られるのってあれです、あう。
ちなみに彼らには毎日
『衣食住が貰えるのは姫様のおかげです!』
『勉強させていただけるのは姫様のおかげです!』
『私たちは喜んで姫様のお役にたちます!』って暗唱させています。
事実なだけに彼らも素直に暗唱します……ぶっちゃけ洗脳なのです。
彼ら子供たちをいろんな部署で下働きなどさせて、世の中を理解させてから、あちこちの役人として組み込んでいきます。
彼らは必ず2人1組、2人から別々に報告書を上げさせます。
そして仕事は3~4年で入れ替わらせます、これも腐敗対策です。
どれだけ洗脳して僕に忠誠を誓っていても、腐敗するときはするのです。残念ながら…
既存役人への厳罰と僕の子供たちの組み込みにより王国の官僚制度は一気に強化されました。
王国のどこからでも僕に子供たちから報告書が上がってきます。
貴族たちの領地にも、酒造や輪作の指導員の名目で子供たちを複数チーム派遣してきっちり報告書を上げさせています。
これで、王国全土に僕の情報網が完成しました。
何処で何があろうと、すぐに僕に報告書が上がってきます。
そしてその情報を使って僕の政策に反対するヤツは排除……
立派な独裁者になってしまいました。
あれ?僕は何がしたかったんだっけ……
……初心に戻らなきゃです!
でも、砂糖も確保できたし、新世界産の植物は手に入らないしで、食べ物関係はそろそろ頭打ちなのです……。
今の食事にあまり不満もないですし、お兄様と騎士さんたちの関係はBLっぽく楽しめてますし、
メイドさんたちや子供たちから特に可愛い女の子を選んで夜も楽しめてますし……
とりあえずこの生活を守るために軍事力を強化しますか。
南方からクロスボウとパイクを輸入して、歩兵隊を作るのです。
火薬も意外と買うことができたので、鍛冶屋に大砲と小銃を試作させています。
この軍隊をお兄様に率いてもらえば、王国に喧嘩を売るやつなんてもういないのですよ。にこっ。
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……最近、お兄様の顔色が悪いのです。
しかも大貴族の公爵や伯爵がこそこそお兄様に会っているようです。
僕が会いに行っても、なんかはぐらかされてしまうのです。
……あれ?ひょっとして??
子供たちが僕の予想を裏付けてくれました。
……お兄様と大貴族たちが僕を殺そうとしています。
内政を牛耳り、しかも軍事にまで手を出し始めた僕は、お兄様にとって超一級の危険人物になってしまったようです。
そんな!お兄様大好きで日ごろからお兄様と結婚したいって言ってる僕がっ?!!
……お兄様排除するだけで簡単に王国乗っ取れちゃうんですよね、これが……
お兄様には王国兵と騎士たち、そして大貴族の兵が付いています。
僕には庶民から募集して編成中の歩兵隊と、荒事は全くできない子供たちと、メイドたち。あとお金。
お金を使って傭兵を雇ったりすれば謀反確定です。
しかも僕の住んでいる王城はお兄様の兵で一杯なのです。
下手に余所に移動しても謀反と見なされるかもしれません。
ひょっとして……詰んだ?!




