桜の木の下で、微笑むあなたに恋をした
森実 蓮華です。
現実世界恋愛ジャンルです。
宜しくお願いします。
一目惚れだった。
入学式の日。
桜の木の下で──
微笑むあなたに──
恋をした。
◇
春の風が、まだ少し冷たい朝だった。
真新しい制服に袖を通して、俺は校門をくぐる。
高校生活。
特別なことなんて、きっと何も起きない。
そう思っていた。
――あの瞬間までは。
校庭の端にある、大きな桜の木。
その下に、一人の女の子が立っていた。
風に揺れる長い髪。
ひらひらと舞い落ちる花びら。
そして――
ふっと、微笑んだ。
時間が止まったみたいだった。
周りの声も、ざわめきも、全部遠くなる。
目に映るのは、ただ彼女だけ。
心臓が、やけにうるさい。
初めて会う彼女。
名前も知らない。
それなのに――
どうしようもなく、目が離せなかった。
気づけば、彼女もこちらを見ていた。
目が合い、ふっと微笑む。
思わず、ぎこちなく笑い返して――すぐに視線を逸らす。
けれど、もう遅かった。
胸の奥に、何かが残った。
こんなの、初めてだった。
入学式の話なんて、ほとんど覚えていない。
ただ、あの桜の下の彼女のことだけが、焼きついていた。
その後のホームルーム。
彼女が同じクラスだと知る。
その日から──
気づけば、彼女を探している自分がいた。
廊下で。
教室で。
昼休みの校庭で。
話しかける勇気は、なかなか出なかった。
けれども、席替えで隣の席になり、少しずつ距離は縮まっていった。
笑った顔。
少し困った顔。
真剣にノートを取る横顔。
知れば知るほど、好きになっていく。
やっぱり
あの日の気持ちは、間違いじゃなかった。
◆
入学式の日。
少し早く着きすぎて、校庭を歩いていた。
桜が、とてもきれいで。
思わず、足を止めた。
ここ、いいな……。
そう思って、しばらく見上げていた。
風が吹く。
花びらが舞う。
その時――
視線を感じた。
振り向くと、一人の男の子が立っていた。
少し驚いた顔で、こっちを見ている。
なんとなく、目が合って──
なんとなく、笑ってしまった。
彼も不器用に微笑む。
その瞬間──
胸が、きゅっとした。
え、なんだろう、この気持ち……?
初めて会う彼。
名前も知らない。
それなのに──
どうしてこんなに、気になるんだろう。
彼はすぐに目を逸らしたけど──
なぜか、その仕草すら印象に残った。
入学式の間、ずっと彼のことを考えていた。
その後のホームルーム。
同じクラスだと知った。
名前を知って、声を聞いて、
少しずつ話すようになって。
気づけば、毎日が少し楽しくなっていた。
彼がいるだけで。
やっぱり──
あの時の気持ちは、本物だったんだ。
◆
放課後の校庭。
桜はもうほとんど散っていて、枝だけが春の終わりを告げている。
それでも――あの日と同じ場所に立つと、思い出す。
入学式の日。
桜の木の下で、彼女が微笑んだ瞬間。
「……あのさ」
声が少し震える。
情けないと思いながらも、止められない。
彼女が振り向く。
その顔を見た瞬間、やっぱり思う。
ああ、無理だ。
誤魔化せるわけがない。
「入学式の日、ここにいたよな……?」
「……うん」
短い返事。
でも、その声だけで心臓が跳ねる。
息を吸って、吐いて──
覚悟を決める。
「俺さ――」
言葉が詰まる。
けど、逃げたくない。
「一目惚れだった」
風が吹く。
かすかに残っていた花びらが、ひとひら舞う。
「入学式の日、桜の木の下で微笑む君を見て――恋に落ちたんだ」
言い切った。
もう後には引けない。
彼女の反応を待つ数秒が、やけに長く感じる。
怖いはずなのに──
少しだけ、期待している自分がいた。
◆
放課後の校庭。
あの日と同じ桜の木の下。
もう花はほとんど残っていないのに、胸だけがざわついている。
「……あのさ」
彼の声。
振り向くと、少しだけ緊張した顔をしている。
いつもより、ずっと真剣で──。
だから、目が離せない。
「入学式の日、ここにいたよな……?」
やっぱり覚えていてくれたんだ……。
あの日のことを──。
「……うん」
自然と頷く。
心臓が、少しずつ速くなる。
「俺さ――」
一度、言葉が止まる。
でも、その続きを私は待っていた。
「一目惚れだった」
その瞬間、胸が強く鳴る。
やっぱり、と思った。
でも、嬉しくてたまらない。
「入学式の日、桜の木の下で微笑む君を見て――恋に落ちたんだ」
風が吹く。
あの日と同じように──。
ずっと同じだったんだ。
私も少しだけ笑って、彼を見る。
「……奇遇だね」
声が、思ったよりも優しく出た。
「一目惚れだった。入学式の日、桜の木の下で、微笑むあなたを見て――恋に落ちたの」
ずっと言えなかった言葉を、ようやく口にする。
彼が驚いた顔をする。
その顔が、少し可笑しくて──。
でも、それ以上に――
嬉しかった。
◇
一目惚れだった。
入学式の日。
桜の木の下で──
微笑むあなたに──
恋をした。
◆は、視点が変わるタイミングで、使用しています。
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