第三十四話『奇跡の裏に潜む者、マルティナ聖女の影』
ぼくたちはバイオン司教につれられ、その聖女に認定されたマルティナにあうため、馬車にのっていた。 とりあえず聖女の件は保留とされ、マルーク教国で審議されている。
「本当に聖女になるつもりですか?」
「無論、聖神晶があれば、わらわの力も少しは取り戻せるゆえな」
ディルさまはノリノリで勝ち取るつもりだ。
(まずいな...... 本当に聖女になってもな。 本物なのに、その人がにせものにされたらかわいそうだ)
「それで今、マルティナさんはどこに」
「この近くの町で奇跡をおこしていると随行者から手紙が届いています」
バイオン司教も困った顔でこたえた。 どちらが聖女なのか、対応に苦慮しているようだ。
「町がみえてきた。 あそこ、人だかりができてる」
カレンがいうように、人が大勢あつまっている。
「おそらくあれがマルティナさまをみにきた信者なのでしょう」
ぼくたちは馬車を降り近づく。
人だかりの中央にディルさまぐらいの年に見える青い髪の少女がいる。
その少女が一人の杖をもつ老人に手をかざす。
「もう、かまいません」
そう少女が微笑むと、老人は躊躇しながらたちあがった。
「......おお! 立てる! たてるぞ!」
そう杖なしで立ち上がり声をあげた。 周囲から感嘆の声が上がる。
「すごい! 奇跡だ!」
「さすが聖女さま!」
「これが神の代理人の力か!」
そう口々にいい、拝み泣くものさえいた。 彼女は人々にこたえただ微笑んでいる。
(これは...... 本物だ。 ただなにか妙な感じだ。 気のせいなのか......)
「ディルさま」
「うむ、魔力を使っておるが回復魔法ではない...... まさに奇跡だ」
ディルさまもその力は認めているようだ。
「そうなのです。 やはり、あの方の力も本物...... しかもマルティナさまは寄進などを貧しきものに与えておりますしな」
「............」
ディルさまは沈黙した。
(まあ、人の分の食べ物も食べるディルさまとでは比べるべくもないな)
ぼくたちは近くの宿にとまる。
「ディルさま。 やはり聖女の座はマルティナさんに譲るべきです」
「......トール、過去の映像をみるなら負担は少ないか」
そう突然、ディルさまがいう。
「それは...... できますけど。 いや嫉妬するのはわからなくはないですが、さすがに大人げない」
「そうではない...... あのもの普通のものの、魔力ではない......」
「えっ?」
「普通じゃないって、ディルちゃん、どういうこと?」
「よくはわからぬ...... ただ何かおかしい。 この感覚はどこかで......」
神妙な顔をしている。
(嫉妬かと思ったがちがうのか? マルティナさんがおかしい...... たしかに何か見たときに奇妙な感覚があった...... 一応調べるか)
「ここかマルティナが現れたという場所は......」
ディルさまは森のなかにいる。 ここはマルティナさんが最初に現れたところだという。 彼女はある日、突然この国にあらわれ、人々に治療を施した。
「ええ、それ以前どこで何をしていたか、出自や家族関係などは全く不明と、バイオン司教はいっていました」
「本人もなにも語らないらしいわ」
カレンは首をかしげていった。
(たしかにその能力といい不自然だ、調べよう)
ぼくは片目ぐらいの大きさの時間操作をおこなう。
(小さな記憶された映像を呼び出すだけなら、体にも負荷は少ないはず......)
片目にその場に記憶された映像が巻き戻る。
「いた...... 歩いていますね」
「そのまま、きた方向に向かってくれ」
「はい」
マルティナの姿をおい、きた方向へと映像をもどす。
「くっ......」
「無茶はするな。 また休憩してからにしよう」
「いえ、この程度なら......」
しばらくマルティナがきた方向へ時間をもどす。 森の中央である人物といるところが見えた。
「こいつ!! レセーラ!!」
「なんだと!?」
それはエゴイズムをつくっていたルビアン卿の側近、レセーラだった。
「少し投影します」
「無理はするなよ」
少し広げてレセーラとマルティナの映像をその場に投影する。
『マルティナ、あなたはここで人々を癒し、聖女となりなさい。 そして聖神晶を手に入れるのです』
『......はい』
そう二人は一言二言をかわし、レセーラは姿を消した。
「うっ......」
「もうよい、無理をするな」
ぼくは能力を解除した。
「なんでレセーラが...... もう商人ギルドもないのに」
カレンは眉をひそめる。
「わからぬ。 しかし」
「ええ、マルティナを聖女にするのは危険ですね」
そうみんなで顔を見合わせうなづく。




