第三十話『砕けたグラス、映し出された罪――ビグルムが見たもの』
「これはラルギスのルガンテン王に、メルディ姫、お二人がこのような下賎の身のパーティーにこられるなど光栄のいたり」
そう恭しく白髪の老人がラルギス王に頭を下げた。
(これがビグルムか......)
「なにを申すビグルム。 そなたの商人ギルドはこの国に多大な貢献をしており、感謝しておる」
ほうラルギス王はほめた。 ぼくたちはビグルムのパーティーについてきていた。
「そのような、私は貧しい生まれで偶然による幸運でこのような立場になっただけ、ただただ運が良かっただけでございます」
「そう謙遜するでない。 そなたの商売の手腕は見事だ。 この大陸随一の富豪になり、その影響力は我ら王公貴族をも凌駕しておる」
「そんな滅相もございません。 しかし、なぜ王がパーティーに参加をしたいなどと......」
怪訝そうな顔をしてビグルムが聞いた。
(警戒してるのか。 確かに慎重な人物のようだ)
「ひとつはそなたの功績にたいして...... そしてもうひとつは、最近起こっている異変のことをききたくてな」
「異変でございますか」
「うむ、世界各国でさまざまな古代技術の力とみられる混乱があるようなのだ。 このあいだもミルソダスで激しい戦闘があったという」
「ええ、それは聞き及んでいます。 我々もかの国が困窮しておることをしり、支援をしていたのですが...... 残念ながら民衆の怒りが大きくあのようなことになり、心苦しいばかり」
そう痛々しい表情をした。
(心にもないことを...... だけど動揺すらしないか)
「ふむ、しかしな。 聞く噂によるとそなたらがつくった新しい町で発見されたというのだ」
「ふむ、それは...... 確かにミルソダスに町をつくりましたな。 それは現地のものたちの雇用をつくるためにでございます。 おそらく下水や水道の魔力技術のことにございましょう」
(知らなければ騙されそうな流暢な嘘だ。 簡単には尻尾すらつかませないな)
「そうか、それは悪いことをいったな。 あくまで噂にすぎぬ。 気にせんでくれ」
「いいえ、気になどしませぬ。 王はすべてのことを気にかけておられますゆえに。 が、城におられる本の虫とよばれる王が気にかけただけではどうにもならないほど、この世界は広く闇は深い、それを理解することなど無理でしょうな」
そうビグルムは薄く笑う。
「貴様、失礼ではないか!」
リヴァルトさんがそう声をあげた。
「やめよ。 リヴァルト...... そうだな。 確かにそうだ。 私の目などでは世界のなにもわからない。 しかし己が欲を律しえないものの哀れさはわかるつもりだ」
「私が哀れだと......」
そうとても冷たい目をビグルムはした。
「いかに金や武力や権力をもとうとも、自らの弱さを認められねば、そのものはただ欲にもがくだけだ」
「......そうですね。 このビグルム、王のその言葉を心に刻み精進するつもりです」
そうビグルムは笑顔で応じた。
(なんの感慨もない笑顔。 なにも響いていない...... か)
「そうか...... それで今日は面白い趣向を見せようと思うのだ」
「面白い趣向ですかな」
「ああ、トール」
「はい」
ぼくは王のそばに向かう。
「このものはとても面白い能力をもっておってな。 みなもみてくれ」
王はみなに呼び掛けると参加者たちはこちらに注目した。
「さあ、トールみせてくれ」
「はい、では、ビグルムさま。 お持ちのグラスをこちらに」
「これか?」
ぼくはグラスをもつ。
「失礼ですが壊してもよろしいですか」
「ああ、別に構わぬが......」
「では」
目の前のテーブルの上にそのグラスをのせる。
「凍てつけ!」
一瞬でグラスは凍りつき砕けちった。
「それは魔法か。 しかもなんの詠唱もなく...... すごいな」
「ええ、ですが、これからです。 よくご覧ください。 修正者」
目の前のテーブルに砕け散ったはずのグラスが現れる。 その場にいたものは驚きの声をあげた。
「なっ!? どういうことだ?」
「砕け散ったグラスがもとに!?」
「復元、いやそんなことは魔法でも不可能だ!」
しばらくすると、グラスは消えて、粉々になったグラスが床に落ちている。
「なくなった...... これは、なんなのだ? 教えてもらえまいか」
驚いたビグルムはそう願った。
「では、もう一度してみましょう。 その中央をあけてください」
部屋の中央の人たちをどけた。
(頼むから、持ってくれよ)
「修正者!!」
さっきより強い痛みが体をおそう。 映像が高速で目の前に現れる。
(ぐっ、まだだ...... ここ!)
そこに人の姿が浮かび上がる。 それはビグルムとギルフェドだった。




