79 こんなに変わる!?
少し斜面になっている山林フィールドの中、障害物を避けながら走る。
これから6時間通しで魔石を集めていくわけだが、さすがにずっと全力で集め続けることは難しいので、最後まで維持できる程度の力で走り続ける。
樹と樹の間、少し離れたところに体高2メートル近い大型の鹿型のモンスター視界に入り込んできたため、そいつに気づかれないよう素早く近づき、直前に気づかれたものの反撃される前に解体。目の前で素材がばらけて落ちていく中、魔石だけを回収して次のモンスターを探す。
山林ダンジョンの中層で一番魔石の価値が高いのは熊型のモンスターで、今倒した鹿型のモンスターはそこそこな感じだ。
今回は比較のためにも小さい魔石を大量に集めたいので、単体で出現する熊型や鹿型のモンスターよりも、群れで出現する狐型や狸型のモンスターに出会いたいんだよね。
鹿や熊だと魔石のサイズ的に単品買い取りになっちゃうんだよね。今回の趣旨からするとそういう魔石よりも、ギルドでまとめて買い取られてしまうような小さな魔石を採取していきたいところ。
狐や狸を解体するって言うと可哀そうって思う人もいると思うけど、ここはダンジョンの中。地上に生息している見た目がかわいい狐や狸とは全く違う険しいというか強めな形相をしている。こういうのもいいっていう人もいるかもしれないけど正直可愛くはないと思う。
というか、地上の狐も狸も大きな群れをつくる動物ではないから、見た目が似ているだけの別の生物なんだろうね。まあ、ダンジョンの中に生息しているモンスターが生物か否かの議論はまだされているようだけど。
狐も狸も毛皮がファッション関係のメーカーや工房から人気だから、シーカーの人たちに結構人気なんだよね。地上の動物の毛皮は動物愛護の観点から新しく手に入れるのが困難になっている関係で、ダンジョン素材の方に流れてきているんだろうな。まあ、今回は回収しないけれども。
樹の間を縫うように走り抜けながら、出会ったモンスターを解体し続け、着実に魔石を稼いでいく。
ようやく遭遇した狸型のモンスターを襲い掛かってくる順に解体して行き、すべて捌いて魔石を回収したところでまだ別の場所に移動する。
フィールドの中を走り回り見つけ次第モンスターをサクサク解体して魔石を回収していく。
例に挙げた以外のモンスターもちらほら解体して行き、それの魔石も鞄の中に回収していった。
視界に入って来たモンスターをすべて解体し続け残り1時間くらいになったところで、視界の中に今まで視界に入ってこなかった色のモンスターの姿が飛び込んできた。
「あ、トラだ」
薄黄色の毛皮に茶色のラインが入っている体高3メートル近い巨体がのしのしと歩いているのが目に入った。
山林ダンジョンの中層は熊型モンスターや鹿型モンスターが強さの上位に存在しているんだけど、実は一番強いのはこいつらじゃなくて、今目の前に出てきたトラ型のモンスターだ。
こいつも毛皮が人気なモンスターなんだけど、とにかく出現数が少ないレアモンスターなんだよね。
だからこいつに遭った時のために、最初に絶対に魔石しか拾わないって明言しなかったんだよね。最悪遭遇しない可能性もあったからここで会えたのは僥倖である。
早速そいつに接近し、解体ナイフを体に叩き込む。
相手も私が接近してきていることに気づいていた様子だったけど、ナイフを避けるのではなく反撃してこようとしていたため、ナイフが体に当たったことでその反撃が私に当たることはなく、素材となって地面にころがることになった。
「デカいなぁ」
地面に落ちた素材の内、体格に見合う巨大な毛皮は魔石を入れている物とは別の鞄にしまう。
できればもう何体か出てきてほしかったが、これ以降こいつが私の視界に入ることはなく、そのまま時間切れとなりギルドに戻ることとなった。
ギルドに戻り、買い取りカウンターの場所に待機していた職員の人に声を掛ける。
「比較用の買い取り魔石で間違いないでしょうか?」
「そうです」
「了解しました。少々お待ちください」
そう言って職員の人は買い取り機に掛かっていたカバーを外し、機器のスイッチを入れた。
「先に現在の買い取り方法で価格を査定しますので、こちらに採取してきた魔石を置いてください」
「はい」
まだ買い取り方法は切り替わっていないので、今まで通りの買い取り方法で先に魔石の買い取り価格を調べていく。
鞄の中から魔石用の買い取りカウンターに魔石を出していき、買い取り担当の職員が出てくる魔石サイズを選別し、個別で査定する魔石とひとまとめで買い取りになる魔石を分けていく。
「え、多……」
どんどん出てくる魔石の数に魔石の鑑定をしている職員が小さくそう漏らしたのが聞こえてきた。
群れを見つけ次第殲滅しに行っていたので、総数だけで言えば4桁近い数になっているはず。少々申し訳なくなりながらも、今回の買い取り方法の変更はこういう手間を減らすために行われるところもあるからね。今回は頑張って欲しい。
それに多いと言っても小さめの魔石が7、8割くらいなので、選別さえ終えてしまえば査定自体はそこまで手間ではないはず。
「今回の買い取り金額はこちらになります」
驚いて声を漏らした職員の人が魔石の買い取り査定を終わらせ、私に買い取り金額の合計が書かれた書類を渡してきた。
「まあ、こんなものですよね」
まとめ売りの魔石が多かったこともあり、数の割に800万ほどとそこまで金額は伸びなかった。中層の稼ぎと考えれば相当いい金額だと思うけど、あの量を見ると微妙と思えてもしまう。
一応個別で値段が付いた魔石の価格は、トラの魔石が約12万、熊が約8万、鹿が約5万円になった。まとめ売りの魔石は全体の2割に届かないくらいの値段だ。
「それでは、次はこちらの買い取り機で魔石の価格を査定していきますね」
「お願いします」
買い取り金額が書かれた書類をカメラにしっかり映したことを確認したところで、次に行く合図を出して新しい方の買い取り機器で魔石の値段の査定をしていく。
先ほどは職員さんが1つ1つ魔石を選別し査定していたが、この機械ならその手間がなくなる。そのため、かなり早く魔石の査定金額が出されていく。
そして魔石の査定が終わり、機械から買い取り金額が書かれた書類が印刷されて出てくる。それを職員の人が確認し、驚いた表情をしながらギルドの認印を押して私に渡してきた。
「こちらが新しい買い取り方法で査定した金額になります」
「ありがとうございます」
受け取った書類に書かれていた金額を見て、小さく息を飲む。
「え、こんなに変わるんですか?」
「今回は小型の魔石が多かったのとその魔石の質の高さが影響したのだと思います」
受け取った買取証明書には総額が1500万を少し超える数字が記載されていた。
元の個別買い取りの魔石価格がほぼ最高額査定だったので、その魔石の買い取り価格はそこまで変動していないはず。そこから考えると元が150万に届かないくらいの金額だった小型の魔石たちが、この買い取り方法では900万ほど、およそ6倍になっていたわけだ。
さすがの私もここまで金額が上がると思っていなかったので、本当に驚いた。
まとめて買い取られていた魔石の価格が最低値近いこともあったんだろうけど、ここまで変わるのか。
ただ、これから魔石を買い取りに出した全員がこれほど増額するとも思えないので、そこは注意してほしいとカメラに向かって言っておく。それと同意見だったのか職員の人も大きく首を縦に振っていたので、ここまで金額が増えるのはギルド側でも想定外だったのかもしれない。
そうして2つの買い取り証明書をカメラで映しながら、今回の感想を言い締めの挨拶をしてから撮影を終了した。




