74 想定外の見つけ物
着替えが終わったことで彼女がテントの中から出てきた。
拡張カバンは外側がぬれたり汚れたりしていても中の物に影響が出ないので、彼女が着替えてきた物は泥などは一切付いていない綺麗なものに変わっていた。
着替えのために出していたテントを片し、脱いだ装備についていた泥をあらかた取り除き、彼女が地上へ帰還する準備が終わりかけたところで声を掛ける。
「あの、なくした物はありませんか?」
「あー、たぶん大丈……ぶ、じゃない。剣がない……」
私の言葉に彼女はある程度泥を払った装備を、癖なのか指さし確認していく中で自分が使っていた武器が無くなっていることに気づき、青ざめたような顔になった。
テントの中から取り出した装備の中に武器らしきものがなかったし、今装備してもいないからもしかしてって思ったんだよね。
「やっぱり」
「まじか。嘘でしょ。ここにないってことは沼の中ってこと……だよね。あぁ、沈んだはずみでホルダーから抜けちゃったのかも」
武器を無くしたことに気づいた彼女はあからさまに落ち込んでいた。
私が最初に見つけた時には、はつらつな感じで饒舌にリスナーと会話をしていた彼女だったが、今では落ち込みつつもかなり落ち着いた様子を見せている。
配信中だからそういうスイッチが入っていたというのもあるかもしれないが、もしかしたらあれは逃避行動の一種だったのかもしれない。
「大事な物…です? それとも高い物だったとか」
彼女の落ち込み具合から、無くした剣のことを大事にしていたことがよく分かった。
「別にいい物ってわけではないんだけど、あれはリスナーの投げ銭で買ったものなんだよね」
「そうなんですか」
「うん。でも、この中に入ってたら見つけるのは無理だよねぇ。中に入って探すなんてできないし」
なるほどね。買い換えられるものだけど、思い入れがあるからできれば回収したい感じか。
武器は基本的に消耗品だし、壊れて無くなることは常に起こりうることだ。それに武器と命を天秤にかければ、命の方が絶対的に重い。
それに短かったけど、彼女とリスナーのやり取りを聞いていた感じ、無くしたと言ってもあっさり許してくれそうな感じだったから、そこまで気にしなくてもいい気はする。
とはいえ、その辺は彼女の感情とは別問題である。諦めるような発言をしていても、彼女は完全に諦めきれないのか、じっと沼の中を見つめている。
「ちょっと探してみましょうか?」
「……え? いやいやいやいや、なくなっちゃったのは私が失敗したからだし、あなたがそこまでする必要はないんだよ!?」
まあ、そうなんだけどね。でも、このまま「はい、さよなら」なんてしたら絶対もやもやすると思うんだよね。
この後の動画撮影は後ろ髪惹かれる思いをしながらやりたくはないし、やるならすっきりした状態でやりたいのだ。
「このまま別れてもすっきりしないので、最後まで付き合いますよ。まあ、見つかる保証はないんですけどね」
「本当にいいの?」
「はい」
「なら、お願いします」
こちらがすると言ったのに、頭を下げてお願いしてくるということは、それだけ大事な剣ってことだよね。うん。ちゃんと見つけてあげたいね。
彼女の返事を聞いてから鞄の中から長い棒状の魔道具を取り出す。
「……おもちゃのマジックハンド?」
取り出した魔道具を見た彼女がそう言葉を漏らした。
まあ、彼女がそう思ったのも無理はない。長さが違うだけで、見た目はそれとほとんど同じなのだ。というか、この魔道具名もマジックアームなので、彼女が漏らした言葉からそう遠くはないのだが。
「これでもれっきとした魔道具です。先端にはセンサーのような物が付いていてそれで周囲の魔力を感知しつつ、先端のアームを動かして物をつかみます。これを沼の中に入れて、剣らしきものがあったら掴んで引き上げる作戦です」
これは結構お気に入りの道具の1つ。
先端で魔力を感知しつつ操作するという、感覚系の魔道具だから使うのに少しコツが要るけど、こういう癖のある道具って使っていて楽しいから結構好きなのだ。
それにおもちゃとは異なり魔力で動かすようになっているから棒の中に針金とか、先端を動かすための構造が存在していない。だから泥の中に突っ込んでも問題なく動かすことが出来るんだよね。
さてと、それじゃあ彼女の愛剣の捜索を始めよう。
沼の中にあるはずの剣を探し始めて少し。先端に何か魔力を帯びた物が触れた感覚があった。ただ、触れた物は剣というには少し小さいものだった。
「んー、ん? あの剣以外に何か落としたりしましたか?」
「多分剣だけだと思う」
「そうですか。とりあえず引き上げてみるか」
他に落としたものはないか確認してみたが心当たりはない様子。
まあ、剣みたいに大きなものならともかく、小物とかだったらなくしてもすぐにはわからないよね。とりあえず魔力を帯びている物なのは確かなので引き上げてみることにした。
掴んでみたところ、サイズ的にはソフトボールくらい? あんなにきれいな球体ではなさそうだし、掴んでみた感じ結構柔らかい。
できれば誰かの遺品ではないことを祈りながらそれを引き上げる。そして引き上げたそれを確認してみると、それは粘土の塊だった。
「…マジッククレイ?」
見た目は白みを帯びた普通の粘土に見えるが、これはダンジョン内で取れる泥状鉱石の一種である。
少し前おじさんとコラボした時に採取したロウ鉱石もこの括りに入る。今回沼の中から引き上げた物はロウ鉱石とは異なる種類のようだが、この場で何鉱石なのかを判別するのは少し難しい。
「このダンジョンで採取できるって話は聞いたことがないんだけどな」
沼の中だから見逃されていたのかな。見た目的にシルバー系だと思うけど、似たような見た目のマジッククレイかなり多いんだよね。ギルドで検査すればわかるかな。
そんなことを考えつつマジッククレイをカバンの中にしまい、少し後ろでそわそわしている彼女に見守られながら剣の捜索を再開する。
そして捜索を再開してすぐに剣らしきものを感知し、それを引き上げた。
「これ、かな?」
「……それだー!」
泥だらけになっていたことで、すぐに自分の物だと判別できず、一瞬間を開けてから彼女はそう叫んだ。
「見つかりましたね」
「よかった。本当に」
引き上げたばかりのまだ泥がついたままの剣を手にし、彼女はとても安堵した様子を見せていた。
「ありがとう」
「いえ、見つかってよかったです。こっちもすっきりしました」
「本当にありがとう。お礼……今は難しいけど、いつかちゃんとするから!」
「そういうのは別に。剣探しもこっちがやるって言い出したことですし」
「絶対お礼するから!」
この後少し話をした後、連絡先を交換してから彼女と別れた。
これで何も心配せず動画撮影の方に移れるね。地味に本来見つかっていないマジッククレイも見つかったし、寄り道のような感じになったけど、そこまで悪くはなかったかな。




