69 びっくり
もう一度嘴をよく見ようと近づいたことで何かに触れてしまったのか、目の前の子がくしゃみをした。
「んひゃっ!?」
そしてその子はくしゃみをした拍子に口から火を吹きだし、それが私の顔に軽く当たったことでびっくりして声を上げてしまう。
チャット欄にも突然のことで驚いたといったコメントが大量に流れていた。
[火ィ!?]
[えええええええええええええええええええ!!!!!!]
[いや待とう]
[驚いた!?]
[大丈夫かそれ?!]
[なんでそうなるの!?]
そして火を吹いた当モンスターも、自身が火を吹いてしまったことに驚いた様子できょろきょろと周囲を伺っている。その様子から火を吹いてしまったのは自分ではないと思っているのかもしれない。
「まさか火を吹ける子とは。びっくりしました」
一瞬だったし、火もそこまで大きくなかったから火傷を負うことはなかったけど、今後は気を付けておかないと。今みたいにふとした拍子に火を吹いちゃって、それがどこかに燃え移ったりしたら大変なことになってしまう。
[わけわかめ]
[朱鳥ちゃんもろに食らってたけど大丈夫…そうだな]
[火も一瞬なら熱くはないからな。延焼したらやばいけど]
[いやいやいやいやいやいやいや]
[そのなりで火吹けるとか体の構造どうなってんだ]
[毒じゃなかったか]
「驚きましたが火を吹けることが分かったのはよかったですね。見ていないところでされていたらどうなっていたか」
出来るって知っていれば対策は立てられるからね。知らなかったら気づいたときには手遅れ、なんてことになっていた可能性もあるし。
まあ、この家はある程度いろいろ想定して設備いれて頑丈に作っているから、火事が起きたとしても広範囲に延焼しないようになっている。家具とかは駄目になるだろうけど、それは新しく買えばいいだけだしね。
[そりゃ知っていればどうにかなるだろうけど]
[顔面に火当たって言うのそれかい]
[なんか慣れてる?]
[よるももしかして火を吹けたりするのか]
「ヨルさんはこういうことはできないです」
見た目はかなりドラゴンだけど、ヨルさんってそういうことは全然できないんだよね。その代わり配信の手伝いもしてくれるくらい器用なんだけど。
[そういや今からこいつに名前つける?]
[そうか、名前は付けないとだめだよな]
[火を吹けるという事実に衝撃を受けたけど、名前は大事よ]
[名前募集したりする?]
「名前は……この配信を終えてからしっかり決めようと思います。募集もする予定はないですね。名前を付けたくなる気持ちもわかるんですが、しっかり決めてあげたいので。ごめんなさい」
これからうちの子になるわけだから、適当には決めたくないんだよね。
名前云々の話題が出てから名前を決めたいみたいなコメントがちょこちょこ出てきたけど、こういう流れで名前を決めるのは避けたい。
今後ずっと使う名前だしギルドに登録するときにも使うから、他人の意見が絡んだものは嫌なんだよね。
[そっかー]
[ゲームの中のキャラとかなら適当に決めてもいいけど、現実で生きている子だしね]
[名前つけたい気持ちもあるけど、朱鳥ちゃんの意見を優先するべきだ]
[ええー]
[名づけに責任取れないやつらにあれこれ案だしされてもな]
「なので、この子の名前が決まったらSNSの方で発表しますね」
次の配信までお預けにすると多分聞いてくる人がいると思うから、決まり次第公開した方がいいよね。別に気にしなくてもいいかもしれないけど、チャット欄の反応から早く知りたいって人は多いみたいだし。
さてと、この子の確認も大体終わったし、これ以上詳しく調べるには配信しながらでは無理だから、この辺で配信を終わらせて検査しつつ名前を考えることにしようかな。
それにまだ計量器の上に居る子も生まれてまだ時間が経っていないから、落ち着く場所に移動させてあげた方がいいだろうし。
「うん。切りもいいのでここらへんで配信を終わりにしましょうか。この子も疲れてきているようですし」
[おわりかぁ]
[何か珍しいもの見れて満足]
[もう少し見ていたいけどこれ以上やることないか]
[うつらうつらしてる]
[眠ねむひよこ]
配信を終えようとしたところで生まれてきた子も限界だったのか計量器の上で眠そうにしていた。ヨルさんはカメラに映り始めてから終始変わらずといった感じだったけど、今は眠そうにしている子を見て鼻先を寄せて匂いを嗅いでいた。
[そういや2匹とも険悪な感じにならなくてよかったな]
[てぇてぇ?]
[そのままぱくっとされない?]
[大きさが違うからちょっと不安になる]
[サイズ差がある子たちが仲良しだとホンワカするよね]
ヨルさんも新しい子が生まれて特に嫌がる素振りがなくて本当に良かった。猫とかは先住の子が新しくお迎えした子を拒絶するみたいなこともあるみたいだし、少なくともヨルさん側は問題なさそうで安心だ。
計量器の上で眠りかけている子はヨルさんに匂いをかがれていることに気づいていないようだけど、大丈夫そうだからここで終わりにしよう。
配信終わりの挨拶をしようとしたところで、寝かけていた子が顔を寄せていたヨルさんに気づき驚き、「ぴゃ!?」っといった鳴き声を上げながら軽く飛び上がった。
そしてそれにヨルさんも驚き、軽く後ずさった。
「あっ」
これだけならふふってなるだけで終わるところだったんだけど、そのヨルさんが動いた拍子に運悪く尻尾がカメラに当たってしまった。
少し勢いがついて倒れていくカメラ。それと同時に、カメラの向こうで2匹の様子を微笑ましそうに見ていた陽彩が一瞬で戦慄したような表情になり、素早く棚の影に飛び込んだのが見えた。
「えっと、それじゃあ配信を終わりにしますね。次回の配信も見に来てくれると嬉しいです。それではー」
カメラが倒れてしまったのですぐにカメラの機能をオフにし、いつもよりの早口で配信終わりの挨拶をして配信を終わりにする。
[事故ったーww]
[最後の最後でwww]
[何事もなく終わりの挨拶をする朱鳥ちゃん草]
[ちょっと焦ってるなこれ]
最後の最後でカメラが倒れ、それに反応したリスナーたちが沢山コメントをしているのが見えたけど、配信終了のボタンを押し完全に配信を終わらせた。
いつもならそのままアーカイブ化させるのだけど、さすがにカメラが倒れてしまった最後のシーンの確認はしておかないと。
映ってはいけない物はこの部屋に置いてないけど、そのままにしておくのも良くないし、すぐに退避していたけどもしかしたら陽彩が映ってしまっている可能性もある。
アーカイブを一回非公開化して最後の部分の確認していく。
「配信は終わったから大丈夫だよ」
心配そうに棚の影からこちらの様子を伺っていた陽彩に声をかける。
「映ってたりしない?」
「逃げるの早かったし映ってはいないと思うけど……」
最後のカメラが倒されて机の上に横たわるまでは映像は、荒くて何かを視認できるような物ではないので問題はない。その後は――
「あ、ちょっっっと映ってるかも? ポニテの先が一瞬だけ見える。髪の毛の先だけだから大丈夫だろうけど、一応ここは暗転させておくね」
「お願い」
ゆっくり映像を確認してみると勢いよく棚の影に飛び込んだことで、慣性によってその場に留まろうとした陽彩のポニテの先が少しだけ映像に映ってしまっていたのが分かった。
陽彩に消しておくと言うと食い気味に言葉が返って来た。
何が映っているかほとんど視認できないとはいえ、カメラが倒れていく部分もそのままは良くないと思うので、そこも含めて映像だけ暗転処理してから公開状態に戻した。
次話は掲示板回になります。




