67 孵化!
孵化装置の中の卵に大きなひびが入ったことでチャット欄に書き込まれているコメントが爆速で流れていっている。
現在の同接は1万人を少し超えるくらい。予定外に配信を始めたことで最初は少なかったけど、徐々に増えて今では5桁の大台である。
「ここまでくればあと数分ってところ…ですかね」
ヨルさんの時はそれくらいだったはず。これくらいの状態になってから、卵の中から出てくるまですごく早くて驚いた記憶がある。
[ほんとに早いな]
[ここまで結構動いていたし、まじその位で生まれてきそう]
[wktk]
[何が生まれてくるのかな]
[生まれた後卵の殻はどうするん?]
「殻は記念に取っておきます。ヨルさんの物も残してありますし」
あ、そうか。モンスターの卵のサイズの違いを見せるために、ヨルさんが生まれた時の卵の殻を持ってくるといいかもしれない。
[取っとくのか]
[記念だし、そうしたくなる気持ちはわかる]
[ヨルの卵もまだあるのか]
[後々処分に困るやつ]
[もし俺がモンスターの卵を孵化させたら同じことするだろうな]
「ちょっと待っていてください」
一旦席を立ち、そう言ってカメラの前から移動する。ヨルさんの卵の殻はこの部屋にないので、一回保管庫の方へ移動して持ってこないといけない。
配信中に離席するのはよくないと思うけど、一応ヨルさんがカメラの前に居るし、まあいいよね。
ささっと保管していた卵の殻が入った箱を持ってカメラの前に戻る。
「戻りましたー。これがヨルさんの時の卵の殻です。今回の子の卵とだいぶサイズが違うことが分かると思います」
箱を開け、中に入っていたヨルさんが入っていた卵の殻を慎重に取り出し、それをカメラの前に持っていく。
ヨルさんの卵は一番大きいところで30cmくらいあったから、今回の卵に比べるとかなり大きさに差がある。
今使っている孵化装置はヨルさんの時に作ったものだから、今の卵だとだいぶ余裕があるんだよね。
[全然違うやん]
[ダチョウの卵……よりもでかいよねこれ]
[これで同じモンスターの卵ですって言われても絶対信じんわ]
[卵に対して孵化装置大きいと思ったらこれに合わせて作ったのか]
「そもそも今回の孵化する卵が特別小さいみたいなんですよね。ギルドの職員さんも初めて見たサイズって言ってましたし」
全くないってわけではないんだろうけどね。逆にヨルさんサイズは平均より少し大きいくらいなんだけどね。
「あっと」
孵化装置の中の卵の殻の一部がぽろっと剥がれ落ち、卵の中が少しだけ見えるようになった。
隙間から見える体の一部はパッと見、羽毛のようなものが生えていた。
[……やっぱにわとりの卵じゃね?]
[この孵化機で孵化するってことはモンスターであるのは間違いないんだろうけども]
[鳥系かな]
[ううーむ]
[夜も羽毛っぽいからそうだとは言い切れんぞ]
「どんな子かなぁ」
ここまでくれば完全に殻が割れるまですぐだ。
隙間から見える体がもぞもぞと動くたびに卵に入っているヒビが大きくなっていく。
先ほどまで気になっている様子はあったが視界に入れるだけだったヨルさんも、そろそろ生まれてくる卵をじっと見つめていた。
リスナーたちと一緒にワクワクしながら卵の中からモンスターが孵るのをまだかまだかと待つ。
[わくわく( ^)o(^ )]
[ま、まだニワトリと決まったわ、わけじゃねーし(;´・ω・)]
[一応この配信は、モンスターが生まれてくる最初の配信である]
[拡散されてんのか同接ガン伸びしてて草]
[ニーチューブでここまで同接出るの珍しいぞ]
いつの間にかこの配信を視聴しているリスナーの数が、さっき確認した時に比べて倍以上になっていた。
ここまで見られているってことは、モンスターの卵に興味がある人が沢山いるってことだよね。
そうして2万人以上が見守る中、とうとう卵の殻が大きく割れ、卵の中からモンスターが生まれた。
新しく生まれてきたモンスターの子の様子を少し見守り、問題ないと判断してから孵化装置の電源を切って蓋を開ける。
「大丈夫かな」
生まれてきた子は卵の殻を破って少し疲れた様子で、孵化装置のクッションの上でぺしょっと寝そべったまま息を整えていた。
[ヒヨコじゃん]
[白いひよこか……]
[やはりにわとりだったか]
[いや尻尾が鳥じゃないな]
[ヒヨコに爬虫類っぽいしっぽとか、どんな種族なんだろ]
[コカトリス……ではないか? 蛇の尾っぽくはないし]
生まれてきた子の見た目はコメントでも流れてきているけど、白色の羽毛を持つヒヨコにトカゲのような尻尾が付いている。
普通の卵サイズで生まれてきた子がヒヨコのような見た目をしていたことで、チャット欄は[にわとりの卵だった?]とか[ヒヨコじゃん]みたいなコメントが大量に流れている。
「おいでー」
生まれてきた子が息を整えて立ち上がるまで様子を見守り、自力で動けるようになったところで手のひらをその子の前に出して、乗ってくるように指示を出す。
私の顔と目の前に差し出された手に視線を向けた子が、私の指示を聞いて自分から手のひらの上に乗って来たことで、しっかり主認定されていることがわかった。
手のひらに乗って来たその子を落とさないように包むように優しく掴み、ゆっくり配信画面で見やすいところへ移動させる。
生まれたての時は少し湿っていた羽毛も、今ではもう乾いておりふかふかな状態になっていた。
「さて、君はどんな子なのかな」
小さい子なので手のひらに乗っている子に顔を近づけてじっくり観察することにしよう。