7 採集家の何が悪いんですか?
一人暮らしをしている家から出て、会社に向かう。
私が住んでいる家から会社までは魔道車で1時間ほどかかる。社員として働くならもっと近い位置に家を持った方がいいのかもしれないけど、頻繁に会社に行くわけでもないのでこれで問題ないと思っている。
ダンジョンがこの世界に初めて発生してからおよそ20年の時が経った。
今では当たり前のようにダンジョンは私たちの生活に溶け込んでいるが、初めは突然出現した未知の存在に、社会は混乱を極め、色々と厄介なことがいくつも起きたらしい。中には多くの人が亡くなった事件もあったそうだ。
まあ、その話は私が生まれる前のことなので詳しくは知らない。一応学校で習って理解はしているものの実感はそれほどないのだ。当時のことを教えられても所詮は聞いただけの話。体験していない以上、他人事でしかないのである。
最初期はダンジョンに潜るのは誰でもできたらしいけど、今では安全を考慮して免許制になっている。
免許の取得自体はそこまで難しいことではなく、ダンジョンに潜る際の基本的なマナーやルールを確認する筆記テストと、軽い戦闘テストをクリアすれば簡単に取ることができる。
当然だけど、免許ということだけあって取得するには2つほど条件がある。
1つは年齢。これは義務教育、要するに中学校を卒業していなければ取得することはできない。とは言っても、流石に未成年が取得しようとすれば保護者の許可が必要になってくるけれど。
もう1つは犯罪歴。これは凶悪犯罪とかではなく軽犯罪でも内容次第で取得できなくなるくらいには厳しい。当然、免許取得後に罪を犯せば免許は剥奪される。
それと免許にはいくつか種類が存在していて、ダンジョンの深部を目指す探求者、ダンジョンで採れた素材を使って物を作る技術者。
最後はダンジョンにある素材の採取を主にする採集者。
およそこの3種の免許が存在する。
もう1つダンジョンに潜る人たちをサポートする運び屋という職の免許も存在しているけど、これは単一で取得するよりもメイカーやコレクターがシーカーの補佐をするために取得することの多い免許なので、大枠から除外されることが多い。
この中で私が持っているのはコレクターの免許。ついでにメイカーとポーターの免許も持っているけど、メインはコレクターになる。
コレクターは基本的にモンスターの討伐ではなく、素材などの採取を行うためにダンジョンに潜る人たちのことを言う。私もそのうちの1人。
コレクターの免許で出来ることはシーカーの免許とそう変わりはない。ただ、補助の範囲やダンジョンに潜る際の条件が異なるのだ。
シーカーは特定のモンスターを倒したときに討伐報酬としてお金が貰え、武器などの装備品の購入の際に割引してもらえる。
コレクターの場合は採取道具と素材を売る際に少しだけ上乗せしてもらえる。
メイカーは素材を購入する際に割引してもらえて、人によっては研究室をもらえたりもする。
ポーターに関しては何もない。そもそもポーターは単体で免許が配布されるものではないので、特定の優遇措置は存在していないのだ。
それでこの中で一番人気の職は、わかるとは思うけどシーカーだ。次点はメイカーになる。ただ、メイカーは取得難易度が他の免許よりも高いから取得している人はそれほど多くはない。
そしてコレクターは正直なろうとする人は多くない。シーカーになれないからコレクターになるって人もいるけど、それだってそこまで多くないのだ。
そもそもの話、シーカーの免許は他の物より取得しやすい。条件が他の免許に比べてゆるいのだ。だから、その免許すら取得する資格がないと言われた段階で、一般的にダンジョンに潜る資格がないと判断されてしまっている。
実際はそんなことないんだけどね。現に私はシーカーの免許を取得する資格はないけれど、ダンジョンに潜っているし、その中でも上位の存在だ。自分で言っておいてなんだけども。
だから、コレクターだからってシーカーになれなかった無能って馬鹿にされるのはすごくムカつくんだよね。
私みたいに好きでなっている人だっているし、なんなら安全面や収入面ならシーカーよりも上なんだ。
確かにダンジョンの最深部を進むシーカーは目立つし、華やかな職として見られていて、その陰に隠れてしまっているけど、コレクターは全然悪くない職なんだ。
やっていることは地味だし目立たないから、詳しく知らない人からしたら下に見えるのかもしれないけど。
私はもう少しコレクターの地位を上げたい。
シーカーよりも上とまでは言わない。せめてシーカーになれなかった人たちが就く負け犬職なんて言われない程度には立場を上げておきたい。
まあ、私1人が声を上げたところでどうにかなるなら、もう誰かがコレクターの地位を上げているよね。
でも今回の配信ミスで、私が適当に登録したニーチューブのアカウントに結構な数の人がチャンネル登録してくれている。
叔母さんに言われるまで気付かなかったけど、確かにコレクターのいいところを配信するには絶好の機会なのは間違いない。
この機を逃せばいつ同じような状況が生まれるか、そんなのはわからない。いや、むしろ次はないと思う。
またとない機会。やれることをやってみるのは全然いいよね? うまくいかなかったらそれはそれで他の方法を探せばいいのだし。
「頑張るぞー」
そう口に出して車を会社へ向かって進めていった。