59 休日は友達と
更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
本日から1章分、更新を再開します。
更新は本日を除いて、月曜、水曜、金曜の12時過ぎにする予定です。
魔力バッテリーの素材を集めに奥多摩ダンジョンに行ってから数日。
配信を終えてから地上に戻る間にモンスターを解体し続け、問題なく魔石も予定数……、予定数以上集め会社に納品した。
メフィクスに鉱石と魔石を納品しに行ったときにはすでに魔力バッテリーの新しい製造ラインが完成しており、さらに試運転ではあったけどバッテリーの製造が始まっていた。
あれなら予定通り在庫の補充ができるだろう。
「前に来た時も言ったけど、無駄に広いよね朱鳥んち」
「住宅スペースはそこまで広くないでしょ?」
「そこだけ見ればそうだけども」
住む部分がそこまで広くないのは確かなんだよ? ちょっと個人的に作ったコレクションルームという名の倉庫がその数倍あるだけで。
「まあ、このやり取りは前に来た時もやったしいいか。それより今日私を呼んだのって何かあったの?」
「特に何も?」
今日は大学も休みでダンジョンに潜る予定もない日だったので、家に陽彩を呼んでダラダラ過ごそうと思ったのだ。
「ええ……」
リビングに置かれた大き目のソファに身をゆだねながら陽彩は少し呆れたような声を上げる。
まあ、陽彩も私が家に呼んだ理由がないことなんて、長い付き合いの中でわかっていたとは思うけどね。
昔から何もない休みの日はどちらかの家でダラダラゲームとか話をして過ごして来た仲なのである。
「ヨルさまー。あなたのご主人さまは理不尽な奴ですよ」
なぜかヨルさんに対して敬語の陽彩だけど、一緒のソファで猫のように丸まってくつろいでいたヨルさんに抱き着こうと陽彩が手を伸ばす。しかし、ヨルさんは伸ばされた手を尻尾でにべもなくあっさりあしらった。
「ああー。今日はつれない日か」
ヨルさんに拒絶された陽彩が情けない声をあげる。
ヨルさんは基本的に人懐こい子ではあるんだけど、結構日によって気分がころころ変わるタイプの子なんだよね。だから、今みたいに陽彩が抱き着こうとしても抵抗しない日もあれば今日みたいに知らん顔をする日もある。
何というか、その気まぐれ具合と体格、体毛からすごく猫っぽい子なんだよね。陽彩とか社長からすればそこが魅力的らしい。私も否定はしない。
「朱鳥は今日何したいの」
私のいる位置がソファの後ろという事もあって、ヨルさんに構うのをあきらめたらしい陽彩はだらけながらのけぞるような姿勢でこちらに顔を向けて来た。
その姿勢と少しラフな服装の関係で、陽彩の胸部装甲がまざまざと主張してきていて、ちょっとばかりそれを叩きたい気持ちになった。
本当にスタイルのいい人はどんな姿勢でも綺麗に見えるから、羨ましい限りだ。
「何も決めてないよ。いつも通り適当なゲームでもしようかな」
陽彩のスタイルを羨ましく思っても仕方ないと言い聞かせながら、少しイラついている気持ちを静めそう返す。
「ゲームってカートのやつ? それとも格ゲーっぽいあれ?」
「どっちでもいいけど、陽彩は何かやりたいのある? その2つ以外の別のやつでもいいし」
今だとゲームもダウンロードで購入できるから、手持ちにないゲームがやりたいって言われてもすぐに買うことが出来る。まあ、パーティーゲーム系の中には陽彩もゲーム機本体を持っていることが前提の物もあるから、それは難しいけど。
昔はこんなことできなかったって聞いているし、便利な世の中になったよね。実感はないけど。
「やったことないのはちょっとわからないから、やるならカートの方で」
「了解」
普段あまり使わない大型モニターの電源を入れ、それに接続されたままだったゲーム機の電源も入れる。
そしてその近くで充電したままになっていたコントローラーを取り、いつの間にか座り直していた陽彩に手渡す。
「何かあった?」
コントローラーを手渡す前から私のことをじっと見つめていた陽彩に首を傾げながら問いかける。
「朱鳥さ。もしかしてなんだけど」
「うん?」
「ゲーム配信でもするつもりなの?」
陽彩の言っていることがすぐに理解できなくて、数秒思考が止まる。
「いや、しないけど? どうしてそう思ったのよ?」
どうしてゲームの配信をするという思考になった? そもそも私がしているのはダンジョンでの配信であって、ゲームは全く関係ないし。する意味が分からない。
「配信ってゲームの配信もあるよな、ってちょっと思っただけ」
「ふーん?」
少し顔を逸らしながらそれ以上何もないといった反応をする陽彩だけど、何か反応が怪しい。
陽彩も普段から私と同じようにインターネットで動画を見るような習慣はなかったはずだし、ゲームを見てすぐ配信に結び付くとは前では考えられない。
私が配信をし始めてから動画なり配信を見始めた可能性はあるけど、うーん。あー、もしかして……
「まさかだけど、このまま配信に出されるとか思った?」
「え、イヤ。ソンナコトナイケド?」
ああ、そういう事ね。前に配信云々のことでやりあったから仕返しで出されると思ったとか、そんな感じかな。
「無理やり出すことはないから心配しないでいいし、そもそもゲームの配信をする予定もないから」
まあ、出さないのはあくまで『今は』だけどね。ゲームの配信をする予定がないのは本当だけど。
「ならよかっ、いやいや何言ってるの朱鳥ちゃんはー。私は一切そんなこと考えてないって」
私がニヨニヨしながら陽彩のことを見ていると、それに気づいた陽彩はすぐに出かけていた言葉を言い直した。
「へー、ふーん。そうなんだぁ」
「ぬぐぅ」
自分の考えていたことがおおよそバレていると理解した陽彩が恥ずかし悔しそうな表情で声を漏らした。
耳どころか首の後ろまで赤くなっているし、この可愛い奴め。
「こうなったらこのカートで朱鳥をボコボコにするしかない!」
「できるかなー、ぬ?」
これからゲームを始めるかとなったところで突然、部屋に取り付けてあったアラームが鳴った。
このアラームはコレクションルームや特別な部屋に取り付けられているもので、何か起きた時すぐにわかるようになっている。そして今鳴ったアラームははて、どこのだろうか。
「何今の」
「コレクションルームとかに異常があったら鳴るやつだね」
「え、それってまずいんじゃ?」
「場所によるかなぁ。鳴った音からしてそこまで危ないものではないと思うけど」
朝見て回ったときに異常があった場所はなかったから、誤作動……はないと思うけど、何だろうか。一応本当に危ない時はしっかりそうだとわかるような音になっているから、今鳴ったものはそこまで緊急の物ではないはず。
アラームを鳴らした機械のところまで行き、その警報を発した場所を確認した。
「生物系の部屋ってなると……あ」
警報が発せられている部屋を確認してようやく、1つ思い当たるものを思い出した。