6 有名人じゃん
ギルドからの連絡を貰った翌日の朝、ニーチューブのアカウントを確認してみた。
チャンネル登録者数:3724人
あれが夢落ちだったらよかったのに。
寝たらなかったことにならないかな、と思い寝たのだけど無情にもチャンネル登録者数が昨日の出来事が現実であることを私に伝えてきた。
しかしこれは多いのか少ないのか。
アカウントを作ってから数日、しかもあの動画は非公開にしているのでこの数は相当すごいのだろう。
ただ、上位のチャンネルであれば登録者数が10万人を超えているなんてザラの世界だ。それを考えるとこの数字が多いのか少ないのかわからなくなる。
まあ、何をしても登録者が増えないようなチャンネルも存在しているので、これだけいっていれば上位には入っているとは思うけど。
「何も公開している動画がないのに増えるとかどうなってるんだろう」
切り抜きされた動画からこのチャンネルにたどり着いているってことなんだろうけど、何も公開されていないのにチャンネル登録していくのは何なのか。
SNSもやったことのない人間の私からすると、どうしてここまでチャンネル登録をしている人がいるのか本当にわからない。
これは期待されているってことなのかな?
ただ、期待されたところで何をするわけではないんだけど。それにある動画みたいなことを期待されても、あんなことそうそう起きないし。
とりあえず、あの人にこれの相談をするために電話を掛ける。数度呼び出し音が鳴ったところで、通話状態になりスマホの画面に相手の顔が表示された。
『はいはーい。どうしたの有名人ちゃん!』
「あの、やめてください」
何となくこんな返しをしてくるんだろうという予想していたけど、やっぱりこの人は今回の件、面白がっているんだね。画面に映っている表情も面白がっている感じがすごいし、こうやってからかってくるのがこの人なのだ。
『はっはっは。いいじゃない。どうせこれだって一過性のものだろうし、ほっとけば落ち着くわよ』
「そうかなぁ」
『そういうものよ』
確かにSNSでもバズったものが長く話題に上がることは滅多にないし、私のやらかしも時間が経てば話題にも上がらなくなるか。
「おばさんがそう言うなら何もしないで放置してもいいかな」
かえって変な反応をしたら何か話題になりそうな気がするし、触らぬ神に祟りなしってことで放置した方がいいかも。
『社長って呼びなさい』
私がおばさんといった瞬間、スマホ画面に映っている相手の表情が
「あ、ごめんなさい社長」
『よろしい』
今電話の向こうにいる人は私の叔母にあたる女性だ。叔母と言ってもそこまで年が離れているわけではないので、年の近い私に叔母と呼ばれることを忌み嫌う。
それと社長呼びは別におかしいことではなく、私が今所属している会社がこの人が設立した会社なので、そう呼ぶことは特別なことでもないのだ。
まだ私は大学を卒業していないけど今の時代、ダンジョン関連の企業は早いうちから学生を抱え込むことが多い。学生なのでインターンみたいな形にはなるけれど、しっかり給料も出るので私と同じように企業に所属している学生は多い。
『……でもいいの?』
「何がです?」
何がいいのか、それが分からず首をかしげる。
『前から採集家のことで見返してやりたいって言っていたじゃない』
「うん?」
昔から私の職である採集家の地位を上げたいとは言っていたけど、どうしてそれが今回のことにつながるのだろう。
『ニーチューブで普段の採取作業を配信して、採集家のいいところとかいろいろ知ってもらえれば朱鳥ちゃんの目的に一致するでしょ』
「!」
確かに採集家が見下されているのは活動が目につきにくいからだ。
どうしても戦闘面や生産面が結果がメディアで出やすい。しかし、採集の活動は地味というか縁の下の力持ちな傾向が強いため、あまりメディアで取り上げられるようなことがないのだ。
『今見たらチャンネル登録している数4000近くなっているし、間を開けずに配信出来れば結構な人数は集まると思うわよ』
「なるほど」
確かに私が求めている採集家の地位向上にはうってつけかもしれない。しかも、普通に配信活動を始めるよりもすでにチャンネル登録をしている人がそこそこいるのは大きなアドバンテージだ。
問題はこういう活動を今までやったことがないのでどんな感じですればいいのかわからないところか。
『もしどんな感じで配信していいかわからないって言うなら、この後会社に来なさい。私もそこまで詳しくはないけど、一応経験はあるから』
あちらの画面に映っている私の表情から何を考えているか読み取ったのか、叔母さんがそう提案してくれた。
「うん。うん? 社長ってそういう経験あったの?」
『まあ、会社を作る前の資金集めがてらね。そんなに人気も出なかったし、他にやっていたもので目標達成したからすぐにやめちゃったけど』
株で一山当てて会社を作ったって言っていたけど、その前はいろいろやっていたって聞いたことあったし、配信はその内の一つってことなのかな。
「へえ、そうだったんだ。もともと今日は会社に行く予定だったし、今からそっちに行くね」
『そう。じゃあ待っているわね』
「うん」
そうしてスマホの通話終了ボタンをタップし、急いで出かける準備を整え家を出た。