55 沼地のモンスター
テレジア鉱石とロウ鉱石の採取を終え、最後に魔石の採取をするために深層の20へ向かう。
[最初に言ってたテレジア鉱石もロウ鉱石も採取したけど、次は何を取りに行く感じ?]
[流れ的に魔石だと思うぞ]
[魔力バッテリーの素材なら後は魔石]
[魔石取るならモンスター倒しまくる感じか]
[さっきも倒しまくってたけどな]
「これから行く層では魔石の採取がメインですね。沢山採取する予定なので、モンスターが多く出現する階層を目指しています」
どうしてわざわざ深層の20へ向かうかと言えば、私が余裕をもって対処できるかつ、この階層が一番モンスターの出現数が多いから。
実はまだ視聴者に説明していないんだけど、解体神ってどんなモンスターでも一発で解体できるスキルじゃないんだよね。
桜島ダンジョンで解体したケツァルコアトルスみたいなモンスターくらいまでなら一発なんだけど、体長10メートルを超えるようなモンスターは一発では解体できなくて、二発三発必要だったりするんだ。
まあそんな大型のモンスターなんて滅多にいないんだけど、深層の深いところだと割と出てきたりするから気を付けないといけない。
それで今回向かう深層の20は、奥多摩ダンジョンの中で10メートルを超える超大型と言われるモンスターが出ない最下限なんだよね。
だから深層の20というのは、モンスターが多く出現してかつ一撃で解体できる、質のいい魔石を大量に手に入れるのに一番向いている階層なんだ。
[たくさん欲しいってことは無双する感じ?]
[テレジア採取前の戦いも結構無双していたが?]
[さらに取りに行くってことはあれじゃ全然足りないって事だろ]
[ガチの無双はあの配信以来だよね。楽しみだわ]
これまで配信している時にモンスター素材を採取するときや、採取の時に邪魔になるからとモンスターを沢山処理することはあったけど、魔石の採取を目的としてモンスターを解体したのことは今までなかったんだよね。
さっきおじさんとテレジア鉱石を採取する前にモンスターを処理した時もコメント欄は盛り上がっていたし、今もコメントで期待しているようなものがあったし。ちょっとプレッシャーだ。
深層の20に到着し、魔石を採取する準備を進める。
「魔石の取り方は前と一緒で大丈夫か?」
「うん。それで大丈夫」
前回来た時、おじさんと一緒に魔石を採取したので、一番効率のいいやり方はわかっている。
最初は個別でモンスターから魔石を採取していたんだけど、階層に居るモンスターの数が多くてもそれだとどうしても取り合いになっちゃって、最終的に
[前と一緒?]
[過去にも同じように採取に来たことがあると]
[まあ、朱鳥ちゃんが深層来るには上級シーカーが必要だからな]
[他のやつと一緒に来たことはないの?]
「あーえっと、最初のころは他のシーカーの方に付いて潜っていたんですが、まあいろいろあって今は深層に来るときは知り合いに頼むようにしています」
最近、一緒にダンジョンに潜ったのはギルドの依頼とかの不可抗力を除けばおじさんと陽彩くらい。陽彩も深層に潜る資格はあるんだけど、資格なしの人を連れて潜る許可は得ていないから、一緒に深層に潜ったことはないけど。
本当にダンジョンに潜っている人の中にはいろいろいるんだよねぇ。詐欺まがいのことをしてくる人も、コレクターのことを完全に見下していて取り分半々で契約していたのに後になって、お前の取り分は一割とか意味わからないことを言ってくる人もいたなぁ。
この2つはギルドに入ってもらってどうにかなったけど、本当に面倒くさい人がいるから、今は気心の知れた人以外とは潜らないことにしている。
[あの配信で屑と一緒に潜ってはいたが、あれはカウントしない感じか]
[ギルドの依頼だったらしいし、自分の意志で組んだわけじゃないからでしょ]
[あいつらとは一緒に潜ったとは言わないでしょ]
「あれは、まあそうですね。それじゃあ、私の方の準備は終わりましたので、おじさんはどうですか?」
「とっくに終わってる」
そう言っておじさんはいつも使っている剣ではなく、大きめのハンマーをカメラの向こうで見ている視聴者に見えるよう掲げた。
[ハンマー?]
[勇者がハンマー使うの珍しいな]
[いろんな武器使えるのは知っているがハンマーあまり使っているところは見ない]
[どして]
[ハンマーで無双……? イメージできない]
「あくまで俺は補助だからな。そもそも俺がモンスターを倒すより、朱鳥がモンスターを解体した方が素材の質は上だ」
「とりあえず、魔石を採取し始めればどう使うのかはわかると思うので、さっそく魔石の採取をはじめていきましょう」
おじさんも準備万端みたいだし、さっそくモンスターが沢山いる場所へ移動を始めた。
今回魔石を採取するモンスターはズムプフロッグという大型のカエル系モンスターになる。
こいつは深層の20にある沼に生息していて、その沼に近づくと一斉に襲ってくる。今回はそれを利用して大量にズムプフロッグを解体して魔石を手に入れる予定だ。
目的の沼の近くまで来るとおじさんがその沼に近づいていき、私は少し離れた場所でいつもの解体ナイフを構えた状態で待機する。
[勇者おじだけ行くの? 朱鳥ちゃんがモンスター倒すんじゃないの?]
[ここの蛙か]
[めんどくせえやつきたな]
[ここ足場悪いらしいな。そのくせモンスター多いとかクソフィールドじゃ]
[何するんだろwktk]
おじさんが沼まで残り10メートルのところまで近づいた瞬間、沼の中に居たズムプフロッグの群れが沼の中から顔を出し、沼の縁、おじさんに近い場所に居たズムプフロッグから一気におじさんに向かって飛び掛かっていった。
おじさんはそれを見て慌てることなく攻撃を躱し、それと同時にハンマーを思い切り振るってズムプフロッグをこちらに向かって吹き飛ばしてきた。
[は?]
[ハンマーって吹き飛ばし用かよwww]
[いや、朱鳥ちゃんの方に飛ばすとか何してんのあいつ]
[悪質行為で草]
[いや草じゃねぇわ]
チャットのコメントが驚いているようだけど、これは予定通りのことなので慌てることなく、叔父さんによって吹き飛ばされ何をすることもできずこちらに向かって飛んできたズムプフロッグが地面に接触する前に、私は解体ナイフを当て解体し、それによりズムプフロッグの素材が地面に散らばった。




