49 姉より優れた弟は……
新しくコレクターを雇う話は私にはそこまで関係ないし、とりあえず今できることをしないとね。
「それじゃ、とりあえずこれから魔石を採取してくる感じで大丈夫ですか?」
「それなんだけど、今足りていないの魔石だけじゃなくてね」
「え、あー」
魔力バッテリーのために魔石を大量に消費しているのだから、魔力バッテリーに使われている他の素材の消費も同じように増えているのは当然か。
「テレジア鉱石とロウ鉱石の在庫がだいぶ減ってきちゃってるから、魔石と一緒に取ってきてもらいたいのよ」
テレジア鉱石は魔石バッテリーの極性を付けるために必要で、ロウ鉱石は魔力を通しにくい特性を持っているため、加工した後の魔石を包むために使用される。
どちらも鉱石とついているけど、もとは泥状の素材で加熱することにより金属のような見た目になる面白い素材だ。どちらも魔力バッテリーに使用される量は微々たるものだけど、使えばなくなるのはどの素材も同じ。
ただこの2つ。ちょっと採取するには問題があるんだよね。
「採取するのはいいんですけど、どっちも深層で取れる素材だから私一人じゃ採取に行けないですよ」
免許の関係で私1人では深層に潜ることはできないので、この2つの素材を採取しに行くには他に深層に潜れるシーカーの付き添いが必要になる。
「そこのところは大丈夫よ。あいつには連絡してあるから」
「ああ、それなら問題ないですね」
社長の言っているあいつという人は社長の弟のことで、私にとってはおじさんという事になる。昔から社長には逆らえないらしく、こういった採取の時はよく呼び出されている人で結構な苦労人でもある。
「近々は予定を開けておくように言っておいたから、朱鳥ちゃんが大丈夫なタイミングで連絡すればいいわ」
「毎回思うけど、おじさんの扱い雑だよね。私が会うたびに嫌そうにしているんだけど、いつか音信不通になったりしない?」
本当に毎回しぶしぶって感じで手伝ってもらっているんだよね。前に会ったのは半年前で、あの時も今回と同じくテレジア鉱石、ロウ鉱石なんかを取りに行ったんだよね。
「いいのよ。あいつはあいつで好きにやっているんだから。それにちゃんとあいつにも利があるようにしているから」
いいのかなぁ。
いやでも、これで深層に行けるようになるんだから私にとってはいいことなんだよね。普段は行きたくても行けないわけだし。
「それにあいつはあいつで結構楽しんでいると思うわよ。朱鳥ちゃんと素材集めに行った後とか割と機嫌がいいし」
「そうなの?」
ダンジョンから出た後はすぐに分かれちゃうからそのあたりはよく知らないだよね。私は会社に素材をもっていかないといけないし、おじさんは姉である社長に会いたくないからって最後まで付き合ってくれないし。
「まあ、親戚の中で年が近くて一緒にダンジョンに潜れるって、朱鳥ちゃんくらいしかいないからうれしいんでしょ。こうやって私に呼び出されるのが嫌でも」
「嫌がられている自覚はあるんだ」
「あんな反応されてない方がおかしいでしょ!?」
少し揶揄ってそう言うと社長は少し驚いたような表情をした。まあ、あれだけ嫌そうな表情をしていて、それに気づけてなかったらかなりやばいよね。
うちの家系、結構ダンジョンに関わっている人が多いんだけど、ダンジョンに直接潜っているのって私とおじさんくらいなんだよね。
社長みたいにダンジョン関連企業に勤めていたりギルド職員だったりは多いんだけどね。私のお母さんたちもギルドの技術職員だし。
「嫌がられていなかったのならよかったけど、行くのいつにしたらいいかな。明日は出ないといけない講義があるからダメだけど、明後日ならいけなくもない……かな」
スマホのスケジュール帳アプリを開いて、採取に行けそうな日程を確認する。割と余裕のある日程ではあるけど、急ぎなら明後日が一番早い。後はおじさんの予定次第だけど。
「今日明日、なくなるわけじゃないからそこまで急がないでも大けど、できれば1週間以内には行ってほしいかな。新しい製造機が着たらすぐに稼働させる予定だから」
「それなら早い方がいいか。明後日にしようと思うんだけど、おじさんは大丈夫かな」
社長はおじさんの予定を気にせずいつでもいいって言っているけど、さすがに深層に行くのであればしっかり準備する必要があるし、ちゃんと確認は取らないといけない。いきなり行くよってなって、準備不足でダンジョンに潜って何かあったら嫌だしね。
おじさんなら準備無しでダンジョンの深層に潜っても普通に生還すると思うけど、私が付いて行くならいろいろ用意したいだろうし。
「昨日配信していたからまあ…大丈夫でしょ。あいつは頻繁に配信することはないし働いているわけでもないし、しばらくは予定はないはずよ」
「何かその言い方だとおじさんが家でぐうたらしているニートみたいに聞こえるけど」
そう言うと社長は小さく笑いを漏らした。
まあ、実際はダンジョンに潜るだけで十分稼げているから社会に出て働く必要がないだけなんだけどね。それに配信している時しかダンジョンに潜っていないわけじゃないだろうから、本当に暇なのかはわからない。
「直接聞いた方が早いよね」
一回連絡をして明後日で大丈夫かの確認をしようとチャットアプリを使っておじさんに連絡を取る。
最後にコメントを送ったのが前回採取に行った約半年前になっているので、久しぶりに会うことになるのか。
すぐに返事が来ることはないだろうとスマホの画面をオフにしようとしたところでスマホが小さく震えた。確認すればスマホの通知バーに表示されていたのは先ほど使ったチャットアプリとおじさんの名前。
「はやっ!?」
まさかこんなに早く返事が来るとは思っていなかったので驚きから声が漏れる。
「あいつもしかしてスマホ持って待機していたとかじゃないわよね? さすがに返事が早すぎる」
私の反応を見て社長が少し呆れたような反応をした。
たまたまスマホを操作していたとかなんだろうけど、そう思えるくらいには早かったね。
返事の内容を見てみれば、明後日でも問題ないというものだった。
社長とその弟は昔一緒にダンジョンに潜っていた時期があり、その時にあったある出来事から弟は姉に頭が上がらなくなった。(なお、その前から上下関係ははっきりしている)




