47 別視点 とある勇者の配信風景
更新再開
切りのいいところまで1日1話12時過ぎに更新します。
桜島ダンジョン下層の17。
その森の中で今オールドトレントが討伐され、地面に倒れていく音が響いた。
「他のトレントにも言えることだが、トレントの怖いところは擬態していることに気づかず不意打ちを食らう事。それと戦闘中に別の個体が乱入してくる可能性が高いところだな」
今オールドトレントを倒した男は自身の近くまで来たドローンのカメラに向かってそう言い、足元に転がっている数体のオールドトレントを指さした。
[ほんとそこが厄介なんだよな]
[不意打ちされない方法ってあるんですか?]
[1体ずつ戦いたいけどどうすればいいんだろうな]
「そうだな。不意打ちはもう気を付けろとしか言えんが、1体ずつ戦いたいなら一旦森の中から出ればいい。一度も手を出していないトレントは基本森の中から出てこようとしないが、一度でも攻撃されていればその相手を追って森の外まで出てくる。それを狙って戦いたい1体だけを攻撃して森の外へ引き連れていくのが楽だな」
男はそう言って森の外に向かう方を指さす。
トレントは樹に擬態するモンスター故、森の外まで追ってくることはない。大量にトレントを誘き寄せて森の外へ移動させようとしても、森の外が近づいてくると追うのをやめ、元々擬態していた場所まで戻っていくのだ。
「一応これも見せたほうがいいか」
男はそう言うとあたりを見渡し、オールドトレントを見つけると適当に攻撃をする。擬態を解く前に攻撃を受けたオールドトレントは悲鳴のような音を体から発し、男に向かって枝を振り下ろす。
[トレントに不意打ちってwww]
[擬態中に攻撃するとダメージあがるとかあるのかな]
[ゲームじゃないんだからさすがにないでしょ]
[一応の実演で攻撃されるトレントかわいそうw]
トレントの攻撃をしれっと躱しつつ最初の一撃から一切攻撃を行わず、男は森の中を駆け回る。
すでに十体近くオールドトレントを討伐した後だったためすぐに2体目を見つけることが出来なかったが、少しずつ森の外に向かう途中で他のオールドトレントと遭遇し、そのまま2体を引き離し過ぎないよう加減しながら引き連れて森の外に向かう。
「そろそろ森の外になるが、攻撃していない方のトレントがもう追ってきてないだろ。積極的に追ってきてるのは俺が攻撃した傷持ちの方だけだ」
[ほんとだ]
[戦うつもりがないなら速攻で森を抜けたほうがいいんだな]
[トレントってこういう逃げ方できたんだ]
[トレントに追われながらコメント追ってんなよwww]
[倒すこと自体そこまで難しくないから、襲ってきたの今まで倒してたけど、これからはこの方法使うか]
[一回一回森の外まで行かないといけないのは手間だけど、安全に戦うならこっちの方がいいのか]
トレントに追われながらもコメントを追う余裕を見せながら、森を出ても追ってきていたトレントを男はさっと両断し、オールドトレントの動きは完全に停止した。
「それでトレント系モンスターの魔石は基本下半身、脚の付け根近くにあることが多い。だから今みたいに足付近の胴を切り離してやれば一撃で倒すことも可能だ。ただ、中途半端なところで切ると倒し切れずタックル食らうからそこは注意しろ」
[トレントの魔石って足元にあるんだ]
[普通にトレントの胴を一撃で両断できるって上澄みだけだと思うんだけどなぁ]
[さすが勇者(笑)]
[これで使っている武器が普通にギルドで売ってる安めのショートソードとか嘘だろ]
[これも練度の差ってところなんだろうな]
「お前らの参考になるように使ってやってるんだよ」
男が腰に携えている剣は全国のギルドで一般的に売られている初心者から中級者向けのショートソードだ。剣の中でも比較的軽量で駆け出しのシーカーが使いやすく安価なものであるが、下層に潜るようになるとやや物足りない性能の武器でもある。
このような武器で下層に生息しているモンスターのオールドトレントを両断できるのは完全にこの男の技量によるものではあるが、強い武器だからそれができたわけではないと、その証明になっているのは確かである。
[勇者って宝石樹の採取ってできるの?]
[トレントは余裕で倒せてたけど、そっちはどうなんだ?]
[そういえばそっちは採取できるんか? さすがに無理か?]
森の外でトレントを倒してからしばらく雑談していたところ、チャット欄にトレント同じく話題になっていたワードを含んだコメントが流れてきたことで、他の視聴者も次々とそれについてコメントを流し始めた。
「宝石樹? ってああ。あの配信の流れか。オールドトレントで怪我するやつが増えたのもそれだろうしな」
ある配信者が少し前にこのダンジョンでオールドトレント相手に無双し、宝石樹を採取したのは勇者と呼ばれた男も把握していた。
それを見て無謀にも自分も倒せるだろうとトレント狩りに来たシーカーたちが怪我をして、そのことが話題に上がりこの男がこのような配信をしているのだ。
[実際勇者はできるの?]
[できなさそう]
[ざっぱだからなぁ勇者]
[そもそも見つけることも出来なさそうだよな]
「まあ、できなくはねぇけど。上手くは出来ねぇな」
そう言うと男は森の中に戻り生えている樹を調べていく。そして20分ほどかけて宝石樹と思われる樹を見付けて周囲にいたトレントを一掃した。
[これで合っているのか]
[やっぱり即殺されるオールドトレントかわいそうw]
[邪魔だから仕方ないけど、普通あんなあっさり倒せない相手なんだよなぁ]
[ほんとにこれ宝石樹? 普通の樹じゃね]
「多分これで合ってるだろ。魔力の感じも他と違うし。それじゃあ適当に取り出すか」
男はそう言うと地面を思い切り踏みつけた。
踏みつけた瞬間、地面が大きく揺れ地響きを響かせ、踏みつけた場所を中心に地面に細かく亀裂が走る。
そこから男は目を付けた樹を片手でつかむと再び地面を踏みつけ揺れを起こす。それと同時に樹を強引に地面から引っこ抜いた。
男の強引すぎる宝石樹の採取方法にチャット欄に流れるコメントの速度が上がる。
[いや強引すぎだろwww]
[毎回これ見るたびにこいつがおかしいことを実感するんだ……]
[これどうやってんだよ]
[身体強化と魔力撃の応用らしいけど、マジで理解できない]
[地面にヒビ入れるとかマジ何なんこいつ]
[おかしいのはお前のスキル名だけにしてくれよ。マジで]
いつもの流れなのか男はコメントを無視しながら宝石樹の根の間にある核を探しだし、多少雑ながらできるだけ丁寧に魔力を注いでいく。そしてしばらく魔力を注ぎ続けたところで、翠散水樹の核がパリッと薄いガラスが割れたような音を立てて崩壊していった。
[おお?]
[うまくいったのかな]
[結構音出たな]
[宝石樹崩れてないってことは採取成功しているからうまくいってる]
核を崩壊させた後は根を切り離し丸太にしていく。丸太の断面は曇っているが透明感は少し残っている状態だ。コレクターではなくシーカーが採取したのなら、この質は十分に誇っていいくらいではある。
[微妙?]
[透明度はちょっとって感じだな]
[この前見たシーカーが採取したやつよりだいぶいいな]
「こいつの採取に必要な技術ってのはシーカーに必要とされているものと真逆の物なんだよ。飽和崩壊ってのは針穴に糸を通すようなもんで、モンスターを倒すにはほとんど必要ない技術なんだよ。シーカーに必要なのはモンスター相手にはデカい魔力をぶつけてどれだけダメージを与えるかってもんだからな」
[言い訳?]
[言い訳っすね]
[ダサい。言い訳ダサい]
[www]
コメントを見て勇者と呼ばれた男は顔をしかめた。
実際のところ、この男の技術力は同じシーカーの中でもかなりの上位に位置している。この男の説明の通り細かい魔力操作技術はシーカーの活動に必要な能力ではないのだ。
あくまでシーカーに必要とされている技術は魔力を使って武器を強化したり、自身の体を強化したりすることだ。故に魔力コントロールの正確さを求められるコレクターの技術とは大きく異なる。
「とりあえず採取は成功しているからいいだろ」
[悔しいけどちゃんと成功しているんだよな。質自体はこそまでじゃなさそうだけど、専門でやってないくせにできるって何ならできないんだよお前]
[透明度はやっぱりあの配信の子が採取したものが圧倒的に上やね]
[もうちょい頑張れなかったのか?]
[無言になってまでやってこれかぁwww]
採取に成功したにも関わらず煽りコメントが流れるが、それを見て呆れたように息をつきそれ以上特に触れることもなくスルーし、配信の締めに入っていった。
「そんじゃ、今日はこれで終わり。次の配信は未定だから見たい奴はしっかり通知オンにしておけよ。まだチャンネル登録してないやつはしてくれな」
[乙]
[またの~]
[そろそろコラボとかせんのか?]
[最後のコラボいつよ。そろそろやってもいいんじゃね]
[お疲れさまー]
「コラボの予定はないから期待していても無駄だぞ。じゃあな」
コラボ配信を期待するコメントを男はバッサリ切り捨て配信を終了させた。
「コラボとか、やったらあいつが煩くなるだけだからできるわけないんだよな。本当にあいつはいつになったら諦めてくれるんだか。あ? げっ」
配信も終わらせ、そのまま帰ろうと男が地上に向かう方向へ足を向けたところで見計らったようにスマホに連絡が届いた。その連絡の通知を確認した男は心底嫌そうな表情をするとしぶしぶと言った感じでその連絡の内容を確認するのであった。




