44 宝石のような
穴の中から出て再度ドローンの飛行機能をオンにして空中に浮かせる。
「さてそれじゃあ、翠散水樹の採取に移ろうと思います」
[穴の下に10分]
[それを眺める5000人強のリスナー]
[ほとんど無音配信だったのにあまり人が減らなかったのが不思議である]
[吐息とかは聞こえてたぞ?]
[これの断面どんな感じだったっけ?]
鞄からトレントを解体するときに使った小斧を取り出し、どの方向へ倒すか枝なりを確認して倒す方向を確認しながら決め、それに合わせて小斧を翠散水樹へ振りかぶる。小斧は普通の樹に当てた時とは異なる硬い物に当たったようなやや高めの音を響かせて、樹の幹に傷を付けていく。
[普通に伐採しているけど大丈夫なのか?]
[あの核を壊せば普通に採取できるようになるってことなのか]
[ここまでくれば誰でも採取可能]
[ドへたくそじゃなければな]
「きれいに伐採するためのコツは要りますが、核の処理さえしてしまえば地上の樹と同じように伐採することは可能です」
カツンカツンと音を立てながら、翠散水樹の幹に傷を付ける。この後は地面に倒して回収することになるため、倒れる方向を確認しながら作業を進めていく。
[これチェーンソーとかじゃダメなん?]
[斧は時間かかるでしょ]
[一定のリズムでいい感じだからいいんじゃね]
[ぽろぽろ落ちてる欠片きれいだな]
[たまにはこういうのもあり]
[理由はちゃんとあるよ]
「できなくはないですが、チェーンソーなどの道具で伐採しようとすると、音が大きすぎて遠くにいるモンスターに気づかれる可能性があるので単純に危ないのと、機械で採取するとスキルの効果が一切乗らないので、かえって時間がかかっちゃうんですよね」
未だによくわかっていないことなんだけど、道具は道具でも電力や魔道力を利用した機械にはスキルの効果は乗らないんだよね。銃みたいなものであればスキルの効果は乗るんだけどね。
[機械採掘とかできれば効率最高なんだけどなぁ]
[なんでできないと思っているのか]
[できるとは言っているが?]
[できるけどあんまりって感じか]
[周囲のトレント処理してるけど、もっと遠くから寄ってくるかもしれないのはなあ。特に採取中に来られるのは困る]
最初に付けた傷がある程度深くなったところで、反対側にも斧を使って傷を付けていく。完全に幹と根が切り離される手前くらいまで傷が深くなったところで斧をしまい、幹を倒すために大きく傷を付けたほうへ力をかけていく。
力をかけたことで次第に翠散水樹の幹が傾いていき、鈍い音を立てて地面に横たわった。
[割とでかい落としたけど、大丈夫なん?]
[チェーンソーは駄目でこれはOKなのなんでなのかなぁ!( ´艸`)]
[時間帯のせいなのかにわかが増えたなぁ]
[このチャンネルがニーチューブの人気急上昇ランキングで上位になってるから、変なのが流れ込んできていると思われ]
ダンジョンのモンスターって環境音みたいな人が直接立てていない音には反応しにくいんだよね。まったくしないってわけじゃないんだけど、同じくらいの音量でも人が立てたものとそれ以外の音では反応が明確に違うことが多いのだ。
まあ、だから今翠散水樹が倒れたくらいの音であれば大丈夫な範囲ではある。近くに新しくモンスターが湧いていなければだけど。
「これで翠散水樹の採取は終わりです。後はこれをカバンに入れるために枝を落としていきます」
[断面見せてクレメンス]
[翠散水樹は知ってるけど、実際どんなものか見たことないんよな]
[一般に出回ってるの小物が多いからデカいのは見たことない]
「ちらっと見えてる断面の色かなり綺麗なんだが」
[こいつで作ったチェストが少し前に高額で売られたってネットニュースになってたの見た]
鞄の中にしまうために引っ掛かりそうな枝を丁寧に払っていく。その払った枝ももったいないので鞄の中にしまっていく。
依頼では樹の幹と払った枝、葉を欲しいということだったので、できる限り回収していく。依頼内容にない根も一応買い手はつくと思うので回収していく。
[根っこもいるんか?]
[待って切り株部分の木目めっちゃ綺麗なんだけど!]
[ドローンに映ってなかったから気づかなかったけど、本当じゃん]
[え? 俺の知ってる翠散水樹の見た目じゃないんだが]
[この見た目だから宝石樹って言うのかね]
切り株になっている根の部分をドローンで撮影すると、想像よりも多くの反応が返ってきた。
翠散水樹の木目は中心がエメラルドのように透明な濃い緑色をしており、外に向かって徐々にそれが散っていくような見た目をしていて、透明な部分以外は青味の強い翡翠のような色をしている。
このエメラルドと青翡翠が混じった色合いが翠散水樹の特徴であり最大の魅力だ。
[こういうものじゃないの?]
[こんな透明感あるやつ見たことないが]
[すげー綺麗]
[ちょっとどころじゃなくかなり欲しい。めっちゃ高いんだろうけど]
「この断面の見た目が翠散水樹の名前の由来ですね。ただここまで透明度が高いものはあまり採取できる人がいないので、このレベルの物を見たことのある人は少数だと思います」
市場に出回っている翠散水樹の色は透明度が少し低くて、少しくすんでいる色合いが多いんだよね。これはこれで綺麗なんだけどね。
中にはこれに近い透明度を持つ物もあるけど、宝石のエメラルド並みに透明度を持っているものは、私もこれを除けば1度しか見たことがなかった。
前回ここに来た時はメインがクリスタルホワイトだったけど、この翠散水樹も採取しているんだけど、今回みたいにうまく核を処理することができなくて、質が下がって透明度があまりよくない翠散水樹になってしまったんだよね。
それから核をきれいに処理できるように練習して、今回最高の状態で処理できたわけだ。
[根っこも依頼の範囲?]
[欠片でいいから売ってほしいんだが]
[小さくてもアクセサリーになるから欠片でも十分価値ありそう]
「根っこの回収は依頼に含まれていませんが、とりあえず持ち帰る感じです。売りに出すかは未定ですけど」
記念として持っているのもありかなと思う。ただ問題は切り株付きの根っこだから結構場所を取るんだよね。鞄とかボックスの中にしまいっぱなしにするなら売ってしまった方がいいんだろうけど。
うーん。結構売ってほしいってコメントがあるし、ある程度のサイズにして売りに出す形でいいかな。
[売りに出すなら値段はどのくらいになりそ?]
[欠片売ってくれたらマジで買う]
[ギルド卸だとどうなるんだろ]
「これはギルドには卸せないですね。売値はどうでしょう。小さく加工してから売り出すとすれば、1つ1万前後かなぁ」
サイズで値段は変わるけど、値段の付けにくい根だからそこまで高くはならないと思う。