43 シャボン玉がはじけるような
翠散水樹の核を見つけることができたので、それを視聴者に見せるためドローンを操作して手元へ移動させる。そしてそのままドローンのカメラで翠散水樹の核を撮影する。
[ちょっと暗いな]
[穴の中で女の子と2人きりみたいな状況?]
[ライトで照らしてクレメンス]
「ちょっと待ってくださいね。体勢が……」
木の根の中に体とカメラを入れないといけないので、カメラと私どちらもしっかり核が視認できる場所を探すのに手間取る。
[まって顔が近い]
[かわいい系かと思いきや結構綺麗系なのよねこの子]
[これがガチ恋距離か]
[チャンネル登録しておくね]
体勢がようやく固定できたところでコメントをみて見ると少し焦っているようなものが流れていた。どうやら体勢を整えている際にドローンのカメラに顔を近づけすぎてしまったらしい。
「あ、ごめんなさい。カメラの向きを失念してました」
[大丈夫よ]
[むしろいいもの見た感じだし]
[こういうのなら全然ありやで]
「いきなりはびっくりするけどね」
何か大丈夫そうな雰囲気? 私がどういう風に映っていたかわからないけど、嫌がっている感じではないから問題なさそうだね。それじゃあ、説明に移ろうかな。
「問題なさそうなので、翠散水樹の核について解説しますね」
ドローンのカメラに翠散水樹の核を映す。
翠散水樹の核は根の一部に寄生するように張り付いている。魔石に似たような存在ではあるが、色は魔石のような深紅ではなく翠散水樹の名前の通り緑と水色の中間のような色をしており、暗い穴の中でうっすらと発光している。
[核って言うから魔石みたいに石っぽい感じだと思ってたけどコブとかのが近いのか?]
[柔く光ってるのがなんかいいな]
[これが核って言われてもちょっと気づかないかもしれん]
[ここまで色違うんだからさすがに気づくだろ?]
[気づきはしても何か変なものがくっついてるなって感じで、初見でこれが核だって感じにはならないと思う]
「翠散水樹に限らず宝石樹はこの核を処理してからじゃないと採取することができないので、その方法を知らないと宝石樹の採取はできません」
知らずに他の樹と同じように斧で伐採してしまうと、宝石樹はいきなり朽ちるように崩れてしまうので、これを知っていないとまともに採取はできない。
稀にこの核ごと採取してくる強引な人もいるけど、そんなことができるのは一部の人だけだと思う。宝石樹は少しでも傷がつくとすぐに朽ちてしまうので、そのまま持ってくるのは核を処理するくらい難しいんだよね。
「この核は見た目は違いますが魔石に近い機能を持っていて、これを丁寧に処理し破壊することで採取できるようになります」
[下処理が必要な樹なのね]
[魔石みたいなものがあるってことはこいつモンスター扱いなんか?]
[魔力を持った植物は結構あるけど宝石樹はかなり特殊なやつ]
[宝石樹って誰でも取れるもんなのかね]
[誰でも取れたら高額になったりしないだろ]
[こいつの採取方法って、割とスキルありきじゃね?]
宝石樹の核を処理する方法は結構特殊で、処理する際に解体系スキルの効果は発動しない。そのため、宝石樹の質は完全に採取者の実力に依存する。当然私の解体神の効果も乗らない。
「核の処理方法は、核に魔力を流し込むことで核の中にある魔力を飽和させて自壊させるというものです。これは練習次第で誰でもできることなので、一応採取は誰でもできますね」
まあ、技術的に結構難しいものだからかなり練習する必要はあるけどね。でも、練習次第で採取できるのは間違いないので、誰でも採取できるのは本当だ。
[うそつけぇ]
[誰でも取れるならなんで高額なんよ]
[一応ってことは努力次第ってことかな]
[物の中に魔力を入れて飽和させるってそこそこ技術必要だぞ。確かに練習すればだれでもできるようになりはするけどさ]
「とりあえず、この核の中の魔力を飽和させていきますね。動きが少なくてちょっとつまらないかもしれませんが、ご了承ください」
[採取中は仕方ない]
[失敗しても面白くないしちゃんとやってもろて]
[失敗したら失敗したでそれは取れ高なんじゃね?]
[採取メインの配信なら失敗しない方がいいでしょ]
コメントをチラ見してから翠散水樹の核に魔力を流し込んでいく。
この核の魔力を飽和させるとき、一気に魔力を注いでしまったり雑に注いでしまったりすると魔力が飽和する前に核が壊れてしまい、宝石樹も同時に朽ちてしまう。
なので、核が壊れない速度でかつ一定の速さで魔力を注いでいく技術が必要になる。言葉にすると簡単そうに見えるけど、実際核が壊れないように魔力を注ぐのも難しいし、一定速度で注ぎ続けるのも難しい。
そんなわけでゆっくりかつ少しずつ魔力を注いでいく。
次第に翠散水樹の核の中に魔力が増え、飽和状態に近づいていく。それに合わせて核の発光度合も中の魔力が増えるのに合わせて次第に強くなっていく。
[これ魔力入れてんのか?]
[光強くなってるけど、それもめっちゃゆっくりだな]
[一気に注いでバンじゃダメなんか?]
[それで可能だったら誰も苦労しない]
少しでも注いでいる魔力にブレが生じてしまうと、採取した時に質が劣化してしまうので、とにかく慎重に魔力を注ぐ。
[真剣な横顔が見えるのなんかいい]
[職人系ドキュメンタリーでたまにあるカットイン]
[これ最後どうなるん?]
[時間かかるなぁ]
[普通に弾けるはず]
[うまい奴ほど最後は静かになるんだよな。ここが腕の見せ所やで]
慎重に進めていくと次第に核の中に魔力が注ぎにくくなってきた。これはこの核の魔力の飽和点が近づいていることを示している。ここまで来たらこの反発力に合わせてさらに魔力を注いでいく必要が出てくる。
ここが一番の難所で、少しでも無理やり魔力を入れてしまうと駄目になってしまうので、ここからが一番大変で重要なところになる。
ここから本当にゆっくり魔力を注いでいく。
そして核の魔力飽和点に達したところで、翠散水樹の核はシャボン玉がはじけるようにパッと弾けて消えた。
「ふぅ」
核の処理に成功したことで緊張の糸が切れ、深めに息をつく。
過去にやったやつも含めて、一番いい状態で核の処理ができたけど、達成感よりもずっと集中していたことで精神的にすごく疲れたよ。
[え? 突然消えたんだが?]
[核ないなった]
[相当上手いぞこれ]
[これで採取できるようになったってこと?]
「失敗しなくてよかった。これで採取しても大丈夫な状態になりましたので、ここから出ますね。ちょっと待っていてください」
休憩するにしてもこの狭い空間にい続けるのはよくないので、そう言ってドローンを持って穴の中から出ることにした。