41 レア種
息が整ったところで周囲に転がっている素材の回収を進めていく。
「とりあえず、倒し切ったので素材の回収をしてしまいますね」
オールドトレントの丸太の断面に浮かぶ黒檀や胡桃の樹に近い、黒に近いこげ茶からやや赤みのある茶色のランダムなグラデーションが本当に良い。
[たくさん取れた]
[葉っぱがすごいな]
[丸太の断面に見える模様やっぱいいな]
[葉っぱって何かに使えるんか?]
[パッと出てきて丸太(胴体)と根っこ(脚部)別々になってるの何か笑える]
「オールドトレントの葉っぱはポーションの素材として使えますね。今日は持ち帰りませんけど」
オールドトレントに限らず、トレントの葉はポーションの素材として扱われることがあるが、ポーションに加工するには結構な量が必要であるうえ代用できる他の素材もあるため、あまりポーションの素材としては扱われていない。
代わりにアロマオイルとして利用されることが多い。
周りに転がっている丸太の数は32。ざっと丸太の体積を計算したら普通に入りきりそうだったので全部入れていく。もし容量が足りなくなったら適当に何本か捨てればいいし。
[背中のカバンどれだけ入るん?]
[次々丸太が呑み込まれていくのすごいな]
[将軍豚の肉入れた鞄もデカいと思ったけど、こっちはさらにすごいな]
[オールドトレントの丸太って、ギルドに売る奴?]
[鞄の余裕なくなるんじゃね?]
「丸太は数本こっちで確保して他はギルドに卸しますね。鞄はまだ余裕があるので大丈夫ですよ」
丸太を鞄に入れ終えまだ余裕がありそうだったので、太めの枝もいくつか拾いつつ、葉っぱの中に埋もれている魔石も鞄の中に入れていく。
「それじゃあ、周りに他のモンスターが居なくなったので、目的の……ん?」
おびき出したトレントを倒して目的の樹を探そうとしたところ、視界の端に白く動く存在が目に入ってきた。
[トレント一掃したけど次何するんや?]
[依頼の品は樹って事だろうけどこの階層で言えば宝石樹かな]
[桜島ダンジョン下層の17と言えば、翠散水樹?]
[何かいたんか?]
[またトレント湧いたとか?]
「クリスタルホワイト?」
[えっ?]
[なんて?]
トレント系にはレア種が存在していて、その内でもオールドトレントの白変種は通称クリスタルホワイトと呼ばれており、トレントのレア種の中でも特にレアな存在である。
[レアトレントだ!]
[クリスタルホワイトってあいつかあ!]
[白変種キタコレ]
[ここでレア種引くのは持ってる]
[なんであいつ逃げとるん?]
私がそいつを追い始めたことでドローンのカメラもそっちに向いたことで、視聴者にもその姿を確認することができたようだ。
「レア種は基本的に好戦的ではないので、仲間が戦っているところを見つけると逃げ出すことが多いですね。前回ここに来た時は遭遇できなかったので、これはうれしいですね! ここで会ったが百年目。前回来た時から1年も経っていませんが、絶対逃がしません」
前に来た時はあいつが目的で来ていたのに、いくら探しても見つからなかったから、ここで絶対確保しておきたい。
[こいつもギルドに売る?]
[まだ手に入れてないのに、売る話になってるの笑う]
[クソレア種なんだよなあいつ]
[材木屋がアップを始める奴]
[材木屋じゃなくて家具製作所とかだな]
ちょっと茶色いあいつに似たような足音を立てながら逃げていた白いオールドトレントに追いつき、少しでも素材になった時の価値を下げないよう小斧を当てる場所を見極めながら小斧を振りかぶる。
解体神の効果で一気に素材に変わったクリスタルホワイトの素材をすぐにカバンに入れていく。
こいつは葉っぱもできるだけ回収する。小さな枝も回収していくけど、手ごろなサイズの枝でその断面を確認する。
その断面は普通のオールドトレントとは異なり真っ白な木色で、木目の濃い部分、晩材と言われる部分がクリスタルのように透明になっていた。
これがオールドトレントの白変種がクリスタルホワイトと呼ばれる所以である。
[枝でもわかる美しさ]
[切り口?が綺麗だからか断面がつやつやしててめっちゃいい]
[売ってくれ]
[個人的には普通のオールドトレント材の方が重厚感があって好き]
[はうまっち]
「申し訳ないですけど、これはギルドに卸さないで私のコレクションルーム行きです。2匹目が出ればそれは売るかもしれませんが」
こいつの素材はまだ持っていないから、先に私のコレクションとして確保しないと。出来れば保険で2体目も確保しておきたいところだけど、なかなか見つけられないからレア種なんだよね。
[コレクションルーム?]
[すまん。金はいくらでも出すからマジで売ってほしい]
[待ってコレクションルームってどゆこと?]
[売ってくれって言ってるアカウント俺の知ってるオーダーメイド家具やってるメイカーの名前なんだけど]
コメントの中に知っている人の名前があったので、それが本人かの確認をしてみたところ、どうやら本人らしい。
「masakiさん。残念ですが、これは売れませんよ」
[売ってくださいお願いします<(_ _)>]
[なりふり構わない感じ?]
[まさきお前]
[知り合いだった?]
「ええ、じゃあこの枝なら」
本当はこれも一緒に確保しておきたいけど、枝は他にもあるしこれくらいならまあ、うん。
少し前に依頼してもらって報酬弾んでもらったから売ってあげたいところだけど、次に確保できる保証がないから、じゃあ売りますとはできないよね。
[売ってくれるなら枝でも買うけどさぁ! 俺は丸太の方が欲しいんだよぉおおお(´;ω;`)]
[ごねまさき]
[欲しくなるのはわかるが無理言うのはよくないぞ]
[相場的には、直径5センチ長さ50cmほどの枝1本で10万くらい]
[たけぇ!]
「うーん。わかりました。2体目が出たらギルドに卸さずmasakiさん用に確保しておきますので」
2体目が出る保証はどこにもないけどね。masakiさんも加減はわかっていると思うからこのまま催促し続けるとは思わないけど、個人的なやり取りが続けば他の視聴者の邪魔になりかねないし、適当に妥協案としてそう提示しておく。
[ハッピー! \(^o^)/]
どうやらそれでよかったらしい。
クリスタルホワイトもしっかり確保したし、本来の目的の樹を探し始めないとね。
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